七話 音の主
「あ、アキラタン先輩逃げるなんタンひどいでタンタン」
また、お前か。
そして僕はいつからアキラたんなんて愛称が付いたよ?
「で、なずな。なんでそれはなにかな?」
彼女が持っているカスタネット、見覚えがある。超見覚えがある。
具体的には数十分くらい前にひたすらうざかった覚えがある。
ていうかうざさが増してる。
この楽器今人が話している時だけ言葉に出して「タン」って言ったぞ。
「ああ、さっき行商から買いまして」
でしょうね。
「これ効果高いんですよ~」
ステータス画面を開き、『見て見て~』とばかりにぐいぐいと押しつけてくる後輩。しかもその間もタンタンと音は響く。いい加減に止めてもらえないだろうか。
それはともかくとして装備品の効果を見る。
レベル44。たしかにレベルは高い。ここらの町で流通している物の中だとかなり高めだ。
カスタネットを作ろうと思ったら大抵サポートアビリティの『木工』を使って作る。
『木工』は途中からレベルを上げる条件が他と比べて厳しくなるので、このレベルだと駆け出しが作ったとは思えない。新参向けに熟練の製作者が作ったと考えるのが妥当だろうか。
「って効果えぐいな」
このゲームには敵対値というパラメータがあり(まあ他のゲームでも普通にあるけど)対象に攻撃を加えたり回復魔法を使ったりすることで上がっていく。
それで楽器は演奏することで、敵の注意をこちらに向けたり特定の対象の自分に対する敵対値を上げたりすることが出来る。殴るだけだと正直言ってかなり弱い部類に入るが、使い方次第でかなり強いのだ。そういった場を支配する専門には大きく劣るけど。
で、このカスタネット、戦闘に入る、もしくはそれに準ずる状態になるだけで敵対値が秒単位で跳ね上がっていく。その数値、僕が知っている中だと次点と二倍近い差がある。……しかもそれを増幅する特性まで付いている。
道理で鬱陶しく感じたわけだ。
先ほどの行商と遭遇した時、ひたすらにうざったかったのは、僕が一応戦闘用の魔法を起動していたから向こうの付与効果が発生していたと考えるべきだろうか。
あれ? でも現在進行形で鬱陶しく感じられるんだけれど……確かめるべきかな。
「なずな」
「はい?」
「サポートアビリティの『鑑定』、ちゃんと使った?」
「ふぇ?」
「分かった。使っていないのは理解したから」
「え? いや、大丈夫ですって」
なら未だに続けているそのタンタンという音を止めてほしいところだけど。
「……はぁ。じゃあ装備から外してみて」
「はい?」
言われた通りに装備欄からカスタネットを外そうとする後輩。
普通の武器ならデータ化しなくても普通に手放せば装備から外れるようになっているのだが、一部の装備は仕様が異なる。
例えば今彼女が装備中のカスタネットは彼女の左手を鎖で雁字搦めにするような代物で、普通にカスタネットを外すのとは大分勝手が異なるだろう。
というかデザインからして。
「あれ? あれ?」
案の定こうなりましたとさ。
仕方がない。
「ちょっとアビリティ使うから動かないで」
そしてサポートアビリティ『鑑定』を起動した。
「? あれ?」
「どうしたの?」
何か疑問を持つようなことでも?
「いや、『鑑定』ってサポートアビリティじゃないですか」
「うん、そうだよ」
この状況下でこの反応はちょっと脳天気かもしれない。
「じゃあなんでわざわざ『使う』なんですか? サポートアビリティって『常時発動型』ってことですよね?」
「そう言われてるね。正しいけどちょっと違うかな」
「と言いますと?」
「『常時発動型』っていうのは戦闘時のことであって、普通に暮らすぶんには他のゲームの生産系アビリティと大体同じなんだよ。つまり日常だと能動的に生活を『サポート』するアビリティを指す」
まあ普通に戦闘を楽しむだけなら『常時発動型』の認識で大体正しい。
「あれ? なんかおかしくありません?」
「本来ならチュートリアルで習うんだけど……まあ良いか。おかしい点って多分『じゃあ戦闘中の常時発動ってなんだったんだ。『木工』とか戦闘中に常時発動しようがないんじゃないか』とかかな」
「まあ他にもありますけど……じゃあそれで」
「一応戦闘中でも、セットされてるやつは一通り全部発動しているよ。戦闘で『使える』か『使えない』かに程度の差はあるけれど」
「はい? 『採集』とか『調律』とか『筆写』とかがですか?」
「まあね。例えば『採集』だと戦闘中に野草とか見てもある程度判別つくし、『調律』だと相手の『演奏』の効果を自分に対してだけ増減させられるし、『筆写』だと戦闘中に相手が魔導書使ってる場合、魔導書の文章を盗み見てなにの魔法がくるか予測出来る、とかだね」
「なるほど。他にも聞きたいことが」
「また後でね。『鑑定』結果出たから」
さて、結果は。
『この道具は呪われている』
予想通りすぎて笑えてきた。
「ええ!? ちょっ! ええ!?」
「まあそんなことだろうと思ったよ。今度からはちゃんと『鑑定』上げておくんだよ。セットしておくと勝手に『なにこれうさんくさい』って思えるようになるから」
「あの……笑い話的に話を終わらせようとしているのはなんとなく分かりますけど」
「なら、このまま空気を読んで静かにしておいてもらえれば」
実際笑い話だろうに。
装備が呪われている、というのはRPGにおけるお約束だがこのゲームだと多少仕様が異なる。
特筆すべきは『外せない』という点ではなく、『その装備の効果が垂れ流しになる』という点で非常にウザい。
今回であれば特殊な効果自体は一つ『非常にウザい』という一点のみであるため、当面なずなは多少ウザいだけである。うん、無害と言っても良いだろう。
というのも、これは死に直結するようなものではないから。妖刀の類で『人が斬りたくなる』なんていうのもある以上、これはかなりマシな部類だと言えよう。……まああまりにウザ過ぎて味方が『誤射』してくる可能性もあるが。
そういうわけで笑い話で済むレベルである。
「いや、ちょっと待って下さいこれどうするんですか?」
「中堅の神職なら大体は解けるはずだけど……あ、ちょっと待って」
メールが来たのでいったん中断。相手は孝平か。
「ちょ!? あの、アキラ先輩? 私ひょっとしてこれいつまで~も、タンタン叩き続けなきゃいけないんですか? 今腕にものすっごく違和感が」
「むしろ装備してからずっとタンタン叩いていたであろう時点で違和感に気付け」
なずな……なんて残念な子!
「いや、まあそうなんですけど」
メールの内容は……まあ予想通りではあった。
山の件。
スケルトン。
人為的に造られた跡。
転生者が能動的に参加する実験。
邪教。
合宿参加者関与の可能性あり。
「だとしたら……彼らかなぁ」
予想通り過ぎる。悪い方に予想立ててたからやっていられない。
「いや、まだだ」
今死に戻り組は一カ所に集まって『補習』を受けているはずだ。
一回そこに確かめに行こう。
評価ありがとう御座います。これからもご覧下さい。