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依頼屋さんの日常。

作者: 倉助

こんばんは、くらろぅです。

今回は【AsK】ではない作品を、短編という形で投稿しました。

どうぞ、ごゆっくり読んでください。

 依頼屋という組織がある。

 いじめっ子がいじめられっ子にやらせるパシリ。

 引っ越し会社がお客の荷物を運ぶサービス。

 人を殺す頼みを金で買うビジネス。

 それら全てを承る第三次産業の組織。万能のお願い屋さん。それが依頼屋。

 その支部は様々な所にあり、アメリカにもイギリスにも、そして日本の各地にも存在している。ちなみに年休無休、ニ四時間労働、笑顔の接客スマイルゼロ円が依頼屋の売り文句で、最近はテレビのコマーシャルでも可愛い声のお姉さんが紹介している。

 コマーシャルも制作されているし、普通にバラエティ番組にも出演していり時もある。もはや世の中の常識として、在ることが普通として存在している。

 そう、つまり世界は人を殺すビジネスを認めている。



「まぁ、普通じゃないよねぇ」

 しかもこうして教科書にまで載っているのだから、余計に。

 現代社会の授業でも倫理の授業でも、国語総合の授業でも依頼屋の事をやった。全部の授業で同じようなことばかり耳にするのだから、受けているこっちとしては飽き飽きして仕方がない。

 それに、依頼屋をあまりよろしくないことを前提に話をするものだから、僕としてはあまり気分が良いものじゃあない。というより正直イヤだ。

 そんな聞き飽きた授業が終わって、学生の一日の山が終わる。ふむ、今日はサンドイッチか。

 小さく「いただきます」と呟いて、大きく一口で呑み込む。ポテトサラダ入りとは、これは本当に美味すぎて泣けてくる。

 続いて二個目……。

「おいコラてめぇ、俺より先にメシってんじゃねぇよ」

 二個目を食べる前にシャーペンを味わうことになった。最悪だ。

「いやいや、さすがにシャーペンはないでしょう」

 芯が出る方じゃなかったからまだ良かったけどさ。ていうかメシるとか日本語おかしいんだけど気づいてるかな、ねぇねぇ馬鹿なの、ねぇ。

「いただきます」

 この野郎チクショウ謝らないで食べ始めやがった。なんだよ男のクセしてそんな長いポニーテールしやがって。学校内でイケメンって騒がれてそんな嬉しいかむしろ羨ましいよバカッ!

「ねぇねぇ縁君、一言謝罪があってもいいんじゃあないかな?」

「ん? あぁ、すまん。焼きそばパン食うか?」

「いただきます」

 パンに弱い僕でした。

 ていうかコイツにとってパンで僕を釣ることが謝罪なのか。定義が気になるね、ホント。まぁその内容に否定はしないけどさ。

「所で美月、メールは見たか?」

「んん。みふぁふぉ」

「呑み込んでから話せバカ」

「……。んん、折角の美味しいサンドイッチなのに、急かさないでほしいんだけど」

「んなこたぁいい。で、メールは見たのか?」

 ホント、上からモノを言うヤツだよね。こんなヤツが幼馴染だなんて、こう、青春が台無しだなって思う。個人的にはセーラー服のショートヘアな子でスポーツ系な子を所望したい。それか浴衣で超素直で優しくてベタ惚れしてくれる子でもいいと思う! むしろ嫁にくださいマジで!

「見た見た。今日の一八時、町田の鉄板○国に待ち合わせでしょ」

「そうだ、そこでメシ奢ってもらって、そのままミーティング。二○時から行動開始だ」

 ミーティング、ねぇ。ぶっちゃけ必要ない気もするんだけど。ていうか町田とか遠いよ、ここ千葉なんだけどな。面倒いなぁ。ていうか電車がイヤだ。

「縁、今回の仕事のジャンル何?」

 まさか人手不足の夜勤を手伝うとか、麻薬取引のボディガードとか下らないことだったらサボろうかと思う。

「最近はツマンナイ仕事ばっかだったから、そろそろやり甲斐があるの、欲しいんだけどなぁ」

 ラストのサンドイッチを口の中に放り込んで、一緒にレモンティーを流す。目の前に座る縁も、モシャモシャとコッペパンを齧っている。

 食事中につき少しだけ沈黙……。

 それも七秒ぐらいでパンを食べ終わった縁が破いた。

「殺し、だってよ」

 一言を呟いて、コンビニ袋からコロッケパンを取り出して、再び食事に戻る縁。

 まぁなんか、随分と……。

「へぇ、個人を暗殺? それとも集団を抹殺? 僕は後者の方が良いな。だってその方が、たくさんターゲットがいるもんね」

 と。一応希望は伝えておいたけれど。

 それにしても随分とあっさりしているなぁ……。というのは、僕も大して人のこと言えないかもしれないかな。

 まぁ、慣れっこだから仕方ない。

「それは知らねぇけど。まぁ後で依頼主本人に聞くまでのお楽しみだな」

「お楽しみ、かぁ。うん、いい響き。ちょっとやる気出てきたよ」

 僕らがこんなにあっさりしているのは、学生っていうメインの職業の他に、依頼屋っていう副業の仕事柄、だい~ぶ前から慣れてしまったから。


 依頼屋になってから。


 人を殴ること、蹴ること。銃で撃つことも、刃物で切り裂くことも。そんなことは、僕らにとってはただの日常の一部であって、ただの業務なだけでしかない。

 でも、それは初めからそうだった、という訳でもない。

 何度も死にかけて、体に傷を負い、ツラい修羅場を乗り越えたからこそ日常としてソレを取り込むことができる。そうそて今の僕らが出来上がるんだ。


「縁、午後の授業何?」

「世界史。南棟の二階」

「ふーん、じゃあ終わったら、下駄箱の所で待っててね」

「遅れたら下の自販機でコーラ奢れよ」

「イヤだねバーカ。ハゲろよクッソロン毛」

 表向きな僕らの学校生活。それもまた一つの日常であって、決して偽物という訳ではない。僕だってバスケ部に入って一応レギュラーだし(よく練習サボるけど、実力があるからレギュラーなんだよね~、まぁ実力は隠せないからさ)、縁も普段はこうして僕とはご飯を食べないで、彼女と一緒に食べているのが日常だ(リア充め喉にホットドック詰まらせて逝ってしまえ)。

 偽物ではないけれど、そんな平和でゆるりとした日常じゃあ物足りない。僕らには全然足りない、僕らの望む欲求を満たすことはできない。

「美月は?」

「僕は数学。今日当たるんだよねー。楽なやつだから助かったけどさ」

 だから僕らは、裏の日常を手にした。誰かの為の偽善じゃあない、自分だけの、完全な自己満足の為。その為に手に入れたもう一つの裏の日常、それが依頼屋になって僕らの欲を満たしていく。

 自分の為に人を殺す。傷つける。

 これって、だい~ぶ異常だと思う? まぁ普通ならそうかもしれないね。

 でもね、僕はもう普通じゃあないから。普通でいることが、普通でいられることは不可能で、認めることができないから。

 別に僕らの自信を特別扱いして、その優越感に快感を覚えた訳でもないし、そんなものに興味がある訳でもない。というか、そんなヤツいたらムカつくな、僕。

「ん、もう五分前かよ。少ねえよな、昼休み。ったくゆっくりメシ食うのもできねぇしよ」

「嘘つけ、ソッコーで食い終わってたじゃん。睦ちゃんと一緒に食べられなかったのが気に食わなかったんでしょ?」

 そんなものの為でない、僕らは僕らの為に依頼屋でいる。その僕らの気持ちは、きっと曲がることはない永遠の欲求であり、決意だと思っている。

「うっせー。とっとと行かねぇと授業遅れんぞ」

「はいはーい」

 まぁ……、縁みたいに恋愛でもすれば、多少は今とは変わるのかなぁ。なーんて、あっさり決意が揺るぐようなことを思ってみたり。

「あ、ちょっと待って」

 あ。すっかり忘れてた。

 立ち上がり、鞄のチャックをいじった時に気づいた、その中にある二つの赤いソレ。ビニール袋に入っていた二つの林檎。

「あぁ?」

 僕は笑顔で、ソレを縁に差し出して言った。

「デザートまだ食べてないよ。縁も食べる?」



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 あぁ、ジューと脂が鉄板に焼かれて、熱が肉を焦がす音がここまで心地良くて、ここまで食欲を注ぐだなんて実感できる僕は幸せ者だと、心の底から本気でそう思う。

 この分厚いサーロイン。約七○○グラム。素晴らしい量だね、学生の胃にはこれぐらいなくっちゃ。

 隣の縁はサーロインじゃあなくて大盛りのカレーを食べている。黒色のカレーなんだけど、あんまり美味しそうには見えないなぁ。大人しくサーロインにしておけば良かったのに。

 ちなみに僕この七○○グラムステーキは『一時間で食べ切れたらタダ! ドリンクバー、デザート付き!』みたいなヤツ。そんなメニューを頼んだ訳だから、タイムを測る為に店員さんが僕らのテーブルの前に突っ立っているんだけど、すんごいニヤニヤして見てくるんだけど、何この人気持ち悪い、火星にブチ当たれば良いのに。

「…………」

「…………」

 食事中の僕らは一言も話さない。昼休みのお弁当の時とかは例外。だって仕方ないよ、仕事の打ち合わせがあったんだもの。ていうか髪の毛がすごい邪魔。前髪垂れるのがすごいウザい。男だから抵抗あるけど、でもご飯の方が大事だからピンで留める!

 モキュモキュ。ガツガツ。ゴクゴク。ガジガジ。と。

 肉を切っては口に入れ、また肉を切って口に入れる。

 ソースも時々かけたりして、色んな調味料で肉を引き立ててにくを楽しむ。

 その点縁は可哀想だね。だってプラスするものがないんだもの。ず~っと同じ味を味わうだけだもの。ううん、それは悪いことじゃあないし、むしろ味を変えて遊ぶように食する方が間違っているとは思う、んだけど……。

 簡単に言うとこの店、あんまり美味しくない。

 このサーロインも、普通のスーパーで売っているような物と比べれば美味しいけれど、こういう『肉の店!!』みたいな所でこのクオリティだと、あんまり評価は高くないかなぁっていう程度。最も、僕が今まででここ以上に美味しい肉を食べたことなかったなら、話は違っていただろうけどね。

「不味ぃ」

 隣から低い唸り声がした。

 やっぱり、あのカレー美味しくなかったんだね。うん。見た目が液体ダークマターだったもん。仕方ないよ。でも、どれぐらいだったんだろ……。

「完食したオレを、オレは全力で褒め称えるぞ。戦争を一人で講和まで導いた気分だ」

 なるほど、なかなか分かりやすい感想でしたね。

「ーーっと。はい、僕もご馳走様。店員さん、タイムは?」

『さ、一三分、ニ八秒です……』

「ふぅん、まぁまぁだね」

 デザートのバニラアイスとドリンクを楽しんでなかったら十分ってトコかな。

「美月どうだ、七○○グラムの感想は」

「んー、匂いは美味しかったよ」

「なるほど、マジで分かりやすい回答ありがとよ。ちなみにカレーは不味かった」

 あれ、何で店員さん泣いてんだろ、何かツラいことでもあったのかな。まぁいいや、ドリンクバー入れてこようっと。


「さて、そろそろ仕事の話をしようか?」

 縁がオーダーした抹茶アイスを食べ終わると、僕らの向かいに座る中年の背広のおじさん、依頼主の井澤さんが物腰柔らかい声で口を開いて言った。

「はい、ご馳走様でした」

「不味いメシ、ご馳走さん」

 でもこの井澤さん、なかなか胡散臭い顔してるなぁ。絶対悪い人な気がする。

「はは、今度君達に仕事を頼む時は、もっといい店で食事をすることにしよう」

 この人いい人だ!

「んな事はどうでもいいから、さっさと話せ」

 縁はホントに口悪いなぁ。誰に対しても態度が変わらないその真っ直ぐさに思わず感動してしまいそうだよ。

「はは、そうしようか。まず、今回の対象いついてだけど」

 あ。

 そうだ、僕は楽しみに待っていたことがあったんだった。

「ねぇねぇ井澤さん。今回の相手は個人? それとも集団?」

 答えが前者だったら萎えるから、僕としては後者がいいな。だって個人が相手だったら、縁と取り合いになるんだもの。しかもそれでジャンケンに負けたら更に萎えると思う。

「まぁまぁ。ちゃんと今から話すから」

 僕の二つ目のデザートがテーブルに置かれて、いよいよ雰囲気が変わった。



 中年サラリーマンの井澤俊吾の依頼は、つまりはこう。

 自分はとある大きな企業の上の人間で、それなりの良い暮らしをしている。

 最近一人息子の様子がおかしく、先日部屋に忍び込んでみた所、息子の部屋からは薬品見られる白い粉の入った小さい袋と、使用済みの注射が大量に見つかったという。

 警察呼ぶべきなんだろうが、それでも我が息子を信じていたい気持ちがあって、警察ではなく僕ら依頼屋を呼んだっていうことらしい。

「んで、今夜はその息子が裏の集団と薬の取引をすっから止めてくれ、てことか」

「じゃあ相手はヤーさんだね?」

 なら楽しそうかも。

「そこはどうでもいいんだが、とっとと終わらせて帰ろうぜ」

 何言ってるんだろう縁は。こんなせっかくの楽しむ機会をアッサリさせるなんて勿体なさ極まりない。

「ちゃんと半分だからね。どんなに少なくても均等にぶっ倒すんだよ、約束破ったらぶっ殺すから」

「へいへい」

 堂々と取引先の古い空き家の前で堂々とした声で話している訳だけれど、まさか中の人達は気づいていないのかな。っていうかわざと大きい声で話しているんだけれど。

「まぁいいか。おい美月、乗り込むぞ」

「え、いいの? 井澤さんとの打ち合わせとは違うけど?」

 本来は不意打ちで中の(井澤さんの息子さんを除いた)人達をぶっ飛ばして、ハイ終わり……っていうシナリオだったはず。いいのかなぁ。まぁいいか、責任は縁に取らせるしね。

「おら」

 バンッ!

 長い脚で思いっきり蹴られて破壊される扉。相変わらず縁はバカ力。

 外で子供が騒いでいた声には相手をしていなかったけれど、今度のコレは流石に無視されなかった。扉を蹴り破る騒音と一緒に、空き家内の空気が一瞬で重く、殺気立つモノとなった。

「さて、と」

 もう扉は蹴破ってしまったから、裏から隠密に仕掛けるのはできなくなった。じゃあコレはもう、正々堂々と正面から襲うしかないでしょう。全く、縁のせいでプランが丸潰れだよ、ヨレヨレ。

 という訳で、大きく息を吸い込んで吐いて、深呼吸。


「あのー! この空き家の中で薬の取引をしている方々ー! 今から襲うので覚悟してくださーい!」


「おいバカ、この夜中にそんなデカい声出すなバカ」

 縁のツッコミも中々にズレていると思う。

 それを置いておいて先に空き家の中に入って行く。先客の犯人さん達は靴を脱いでないみたいで、玄関には靴が散らばっても、並べられてもいない。ちなみに僕は脱いでからちゃんと揃えて並べておいた。ちなみに縁は知らない。

「広いな」

 後ろから縁が言った。確かに、広い。さっきから見つけた扉を手当り次第に開いて部屋を確認しているけど人はいないし、その部屋の数が多い。トイレとか入れて、もう七部屋は探したよ。

 ライトを点けずに歩いているので、時々壁にゴッツンコしながら奥に進んで行く。割と慎重に動いていれば目は暗闇に慣れてくるから、段々廊下の様子を把握できるようになる。

 それに音。奥の部屋の方から、さっきから声が聞こえてくる。多分井澤ジュニアとヤーさんの声。きっと「どうする、殺っちまうか?」「いや待て、とりあえず逃げた方がいいんじゃないのか?」みたいなこと話しているんだろうなぁ。いや、逃がさないけどね。

 目が暗闇に慣れきった所で、そろそろリビングに侵入。ここからが僕達の本領。

「美月いいか、今回は殺すなよ。それが井澤が言った依頼のクリア条件だ」

「ねぇ縁気づいてるかな? 君は昼に話した時、今回は殺しの仕事だって言ってたんだけど」

「うっせぇ伊澤の考えが変わったんだから仕方ねぇだろうよ。それなら俺たちはそれに従ってこなすまでだ」

「へーいへーい」

 なんだいなんだい。伊澤さんも随分勝手だよなぁ。

 そんな文句を垂れながら、僕はさっきの縁のように扉を蹴破り、リビングに入って行く。


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