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heart meet heart  作者: 赫夜
3/4

出会い

「―――え〜、今回は『魂操』の基礎について授業をする。中等部上がりのものは知っていると思うが、復習がてら聞いてくれ」


今は四時限目、魂とその仕組みについての授業を行っている最中


「まず『魂操』はこの学園長をしている不楼(フロウ) 綾乃(アヤノ)により考案された技術だということはみんな知っているだろう」


何かと慌ただしかった入学式が終わり、少しずつ新しい生活にも慣れてきたある日のこと


「『魂』とは様々なモノの中に存在する高密度のエネルギー体であり、そのエネルギーは一般的に『気』と呼ばれる」


入学式といえば、あれはまぁ酷かった


まさかの学園長が来ないというありえない事態。噂では寝坊したとか


なんか教師達が『またあの人は』とか『あれほど言い聞かせたハズなのに』とかぼやいていたし常習犯だろ


今更だが大丈夫なのか……この学園


「『気』を意識的にコントロールすることによって身体を強化したり、特殊な能力を使うことが可能になる」


あぁなんだか俺も眠くなってきたな、ここの席は陽当たり最高だしポカポカしてて寝るなって方がキツイ


俺の一つ前の席に座ってる遊は完全に夢の世界に旅に出てるし、さっきから消しカスを頭に投げつけてるのに起きやしない


俺もコイツのように夢の世界に旅立ちたいけど、それができない訳は授業をしている先生にある


「能力は誰もが簡単に発現するわけではなく、ある程度の修練を積むか又は素質をもっている者、あるいは遺伝によって能力は発現する

―――ということだ、わかったな?」


授業をしているのはこのクラスの担任でもある黒塚先生、入学式の時誘導の係をしていたあの人


残念ながらあの時の願いは儚く砕け散ったということだ


黒のスーツをキッチリと着こなし、艶のある長い黒髪は邪魔にならないように腰の辺りで一つに束ねてあり、見た感じでは真面目そうな印象を与える



その外見とは裏腹に性格はなんというか……アレだ


まだ数日しか先生とは会ってはいないが、性格はとても大雑把で適当しかも短気、キレると男女関係無く鉄拳制裁が執行されるというなんとも恐ろしい人なのだ


だからあまりこの人には目をつけられたくはないのだが……


「おい藍澄、なにボケーっとしてるんだ。ちゃんと私の話を聞いていたのか?」


「んぇ?はっはい、もちろん」


聞いてねぇよ


つかいきなりだったからの変な声出ちゃったよ


「それじゃ私の出す問題に答えてみろ、話を聞いていたなら答えられるだろ」


「は、はぁ」


どうしたものかと必死に言い訳を考えていると


「……あぁ、でもやっぱやめよう。面倒くさい」っておい、あんたの方から言っといて面倒くさいとはなんだ。いいかげんなのにも程があるだろ


「とりあえず藍澄、授業は真面目に受けろよ」


あんたにだけは言われたくないよ


ツカツカツカ、何故か先生はこちらに歩いてきた


まさか心を読まれたのか!?


内心ハラハラしてると俺の一つ前の席、遊のところまで行くと立ち止まりそして無言で腕を振り上げ


次の瞬間


ガスッ、鈍い音が教室の中に鳴り響く


「それと渡良瀬は起きろ、いつまで眠っている気だ。ぶん殴るぞ」


いやもう殴ってるよ、あんた


「うーん……痛たたた。なんですか先生もう昼休みですか?」

「残念ながらまだ私の授業中だ。というか起きたらまずは挨拶だろ、バカ者」


「あっはい、おはようございます」


「もっと大きな声で」


「おはようございます!」


「もっとだ」


「おはようございますっ!!」


「うむ、いい挨拶だ。だが今は昼だ『おはよう』じゃない『こんにちは』だ」


だからどうした


なにこのやりとりマジ意味不明なんだけど、誰か止めてくれ




―――キーンコーンカーンコーン




グッジョブ!!チャイム!!


「もうこんな時間か、とりあえず授業はここまで。残りは各自やっておくように」


『えぇー』


生徒の何人からかは不満の声が上がったが、先生は視線だけで黙らせた


「それと渡良瀬、お前は放課後職員室に来い。プリントの整理を手伝ってもらう」


「えっ!?まじっすか」


「まじだ」


なんでオレだけ……と、うなだれる遊


「これに懲りて授業中に居眠りはしないようにな」


そう言い残し先生は教室をあとにした






――――――――――


――――――


―――






先生が居なくなった後、昼休み


「あーあ、やらかしたなぁ」


「ま、自業自得だろ」


「そうなんだけどさぁ」


「諦めろ。放課後先生の手伝いに行かない方が後々ヤバいことになるから」


「だよなぁ」


その後もなにやらブツブツと愚痴ってる遊を置いて、俺は昼飯を買うために購買に向かった


この学園には一度に何百人もの生徒が入れる学食もあるのだが、俺的に学食って高いイメージがあるんだよね


逆に購買はお手頃な値段で買えて金欠の貧乏学生にはもってこい、ってイメージ


それにあるスジからの情報(情報提供者:渡良瀬遊)によると、購買には貧乏学生には有難い激安でボリューム満点商品があるらしい


その名も『キングカツサンド』


俺もこれを買おうと思ってるんだが、数量限定だから売り切れてなければいいんだけど……






〜〜俺移動中〜〜







というわけで購買に到着したが、改めて学園の広さを実感したね


「それで目的の品はっと………あったあった、ラスト1個だ。ラッキー」


思ったよりデカイな、持った感じもズッシリと重量感すごいし、キングの名に恥じない代物だな


でもコレ一人で食えるか心配になってきた……


まぁもしもの時は遊に手伝ってもらえばいいか


でもここまでのんびりと歩いて来たけど意外と残ってるもんなんだな


値段も安いし、すぐに売り切れてもおかしくないと思うんだけど


まぁそんな些細なことはいいか、さっさと買って戻ろう


「おばちゃん、これくださ…」


―――ドドドドドドッ


「ちょっと待ったあぁぁぁぁーー!!」

へ?


向こうから雄叫びをあげながら全力で走ってくる一人の女子生徒


その女子生徒はスピードを緩めることもなく俺の目の前を過ぎ去って行く


「うわっ」


いきなりの出来事でなにが起こったのか理解不能だったが、次第に脳が状況を把握していく


「あっぶねーな」


まったくなんだってんだ、こんなとこを全力疾走するなんて


そんなことよりはやく買って帰らない…と……あれ?


無い……無いぞ、俺の『キングカツサンド』がない!!


さっきまで手の中にあったはずなのに、なんでだ!?


……ハッ!!


そうか、さっきの暴走女だな


どこだ、


俺は辺りを見渡して姿を探す


目的の人物は案外簡単に見つかった


「ぜぇ…はぁはぁ、うっぷ。はぁ…はぁ…」


今にも死にそうに息を荒げ、床に仰向けに転がって大の字になっていた


大丈夫かコイツ、グロッキーになってんじゃん


そりゃあ、あんだけ全力疾走すればこうなるわな


……あれ?コイツの髪型、えっとサイドポニーって言うんだっけか。どこかで見覚えがあった気がするんだけど


「あっ」


暴走女の手の中には、ガッチリと握りしめられた『ジャンボメンチカツサンド』の姿が


「やっぱり持ってたか、コレは俺が買おうとしてたものだ返してもらうぞ」


『キングカツサンド』を取り返し、今度こそ買いに行こうとするが


―――ガシッ


「ま、待ちなさいよ。それは……あたしのなんだから」


なに言ってんだ、人の手からぶん取っておいて



「これは俺が買おうとしてたんだけど」


「そんなの知らないわよっ、あたしは朝から『キングカツサンド』を買うって心に決めてたんだからっ」


めちゃくちゃだなぁ


「んなこと言ったってよ……、つかなんでそんなにコレにこだわるんだ?」


「それは、その……友達に購買には安くてお腹一杯になるのがあるって聞いて、それに…」


それに?


「あたしん家って色々事情があって貧乏なんだよね。だから朝ご飯とか抜くことも珍しくなくて、そうなるとやっぱりお腹が、ね」


グゥ〜〜〜


タイミング良すぎだろ


「〜〜〜〜っ///」


「はぁ、お前がどれだけ腹減ってるのかわかったよ」


「ちょっ、いっ今のは違うんだからねっ」


さすがに誤魔化すのは無理があるだろ


……仕方ねぇな


「ちょっと待ってろ」


俺は『キングカツサンド』を持って購買のおばちゃんのとこに向かう


「おばちゃんコレください」


「はいよ、まいどあり」


そして再び暴走女のところへ行き彼女の手をとり近くのベンチに向かう


「え?え?」


「ほら、座れよ」


「う、うん」


さっき買ってきた『キングカツサンド』の包みを開き半分にして片方を暴走女に渡す


「え……でも、いいの?」


「いいんだよ、どうせ一人じゃ食いきれないと思うからな」


「……ありがと」


恥ずかしいのか小さな声でお礼を言ってきた


なんだよコイツ、意外と素直なとこあるじゃん


「なによ」


「べつになんでもねーよ、ほら早く食おうぜ」


『いただきまーす』


二人そろって『キングカツサンド』にかぶりつく


ふむ。まわりのパンはパサパサ、カツの衣は油でギトギトしていて中の肉はまるでダンボール


『……………』


これは、ヒドイ。


食えないことはないけど、とてもじゃないが美味いとは言えない


いくら安いくて量があるとはいえ、こんなの毎日食ってたら体に悪い


「ねぇ、藍澄」


「なんだ……ん?どうして俺の名前知ってんだ」


ま、まさかストーカー!?


「んなわけないでしょ!ていうかあたしのこと知らないの?」


はて、どこかで会ったことあったっけ。う〜ん、出てきそうで出てこない俺の記憶力低すぎて困る


「…………生き別れた双子の妹とか?」


「だれが妹よ。あたしは菱刈(ヒシカリ) 陽咲(ヒサキ)、一応あんたと同じクラスなんだけど」


「…………えっ!?」


「なに素で驚いてんのよ、まったくもう」


少しくらいなら会話だってしたことあるのに、と半ば呆れ気味に言う


「いやぁ、スマン。でも菱刈……だっけ?菱刈のその髪型どっかで見た気がしたんだけど、そっかクラスメイトだったからか」


ふむふむ、納得納得


―――キーンコーンカーンコーン


おっともうこんな時間か、思ったより長いこと此処に居たみたいだな


「ごちそうさまっと、あたし先に行くわね」


「お、おう」


まじか、コイツ完食しやがった


また教室で、と菱刈は俺に軽く手を振り駆けて行ってしまった


廊下は走るなよ


菱刈陽咲……か、まぁ悪い奴じゃなさそうだったな。一つのことになると周りが見えなくなるタイプっぽいけど


新しくクラスに知り合いができたことだし、よしとするか


残りもわずかになった『キングカツサンド』を一気に一口で頬張る


「やっぱマズい……」


『キングカツサンド』はもう二度と買わない、と心に決めた瞬間だった


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