始まりの朝
四月、それは始まりの季節
四季は冬から春へと移り変わり、俺が住んでいる町の風景もまた変化の色を見せ始めた
冬の寒さを耐え抜いた花木は待ってましたと言わんばかりに花を咲かせ、冬眠から目覚めた動物達も暖かさに誘われるように活動をしだす
この時期に行われる行事は色々とあるが、その中でも全国的に行われることと言えば学校の入学式だろう、たぶん
朝、町を見渡せば至るところに真新しい制服を着た学生が目にはいるハズだ
新しく通う学校、期待に胸を膨らましまだ見ぬ未来に目を輝かせながら友人と笑みを交える者もいれば、それとは逆に不安で胸が一杯になり緊張のせいで体をガチガチに固くしながら歩いている者もいる
胸に抱いている感情は人それぞれであり、気持ちと言うのは表情に出るもので端から見るのはとても面白い
とまぁ、こんなエラそうことを言っている自分も今年から晴れて高校デビューする学生の一人なんだけど
俺の名前は藍澄 赫夜、この春から千桜学園の高等部に通う学生だ
程々に伸ばされた黒髪に眠たげな瞳、ネクタイは緩められシャツの裾はズボンから半端にはみ出ている
周りの奴からはだらしないと言われる、が今更だし気にしないぜ
千桜学園は世界に幾つかある『魂操術』を専門に学ぶために建てられた学校で、その中でも一番初めに設立された学校らしい
初等部・中等部・高等部があり、生徒の数は高等部だけでも1クラス40人で1学年20クラス、学校とかだと授業中ずっと周りから鼻水啜る音とかして全然集中できないよな
寝ることに
え、寝るなよって?勉強しろって?
そんな堅いこと言うなよ、どうせ授業なんて真面目に聞いてる奴の方が少ないんだから
別にさ、学校の勉強が将来社会に出たときにさ、役に立たないとかさ、そんな屁理屈を言いたいわけじゃないんだよ、うん
ただ、やる気がないだけなんだよ
中学の時のテストなんてヤバい点数とったとしても補習とかなかったし、勉強に対してのモチベーションを上げる必要がなかったというか
テスト返ってきて点数を見ても、ふーんって感じでさ
所詮中学の時なんてそんなもんだよな
まぁ流石に高校受験が近づいてくるとみんな必死に勉強して、ピリピリした雰囲気になってくるし
あの空気はどうも苦手だ、まぁでもこれは誰もが通る道ってやつなのかね
つい数ヶ月前のことなんだけれど懐かしいもんだな、良い思い出ではないけれど
つか、思い返してみたら中学の頃の良い思い出なんてほとんどなかった気がする……
微妙にテンションが下がったが今日から俺は高校生だ、過去のことを忘れよう
気がつくと辺りにはさっきより学生の数が増していた
この坂を上ればすぐに校門が見えてくるはず
道の両脇には桜の木が立ち並び今はちらほらとしかは咲いていないが、満開になったらとても綺麗な桜並木になるだろう
だけどこの坂が予想以上にしんどい、そこまで坂自体は急ではないけど地味に長い
毎朝ここを登ってくると思うと……はぁ、めんど
「ようやく着いたか」
暫くの間機械的に動かしていた足の歩みを止め、視界の脇に見える門に目をやる
『千桜学園』
と、門に埋まっている鉄製の板には彫られており
門を抜けた先にはとても大きな建物がそびえており、存在感を放っている
前に一度受験を受けに来た時もそうだが、どうもこの学校の敷地には入りがたい雰囲気があるな
だがまぁ、俺はこれからここに三年間通うのだ慣れるしかないか
「よしっ」
気合いを入れ、門の内側に足を踏み入ていく
しだいに俺の足音は喧騒の中に消えていき
そしてこれから俺の物語が始まるのだった