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姉はモエルデリン  作者: あせこ
序章・追憶への帰還
4/69

III お散歩道は危険がいっぱい

 三時半、

 おやつも終わり、コーネリアが元気を有り余らせる時間。

 再び、使用人控え室。

 あたしは手早く白いエプロンを外すと、代わりに頭に黒いフードを被る、面倒なのでウィンプルは着けない――繰り返すが、あたしは修道女(シスター)さんじゃないのよ?

 すぐ隣では妹が同じように、フードを被ろうとしている、あたしと違ってキッチリとウィンプルまで着けて、修道女(シスター)さんっぽく見える。今度、十字架でも首に架けてあげようかしら? 

 ……それにしても最大の謎は、どうやったら、あの長い髪が収納できるんだろう……。

 え?

 何してるかですって?

 屋敷の外へお出かけするのよ、コーネリアのお散歩ね。

 普段は屋敷の敷地内の庭で済ませるのだけど、日曜日だけは街へと出る、彼女もそれを楽しみにしているのだ。

 ――で、ここでも問題になるのが、あたし達の外見……瞳はともかく、この髪はどうしようもなく目立つ、最初は帽子で隠したりしていたが、フードが一番見た目のバランスがマシだったので、現行でフードが採用されているのだ。

 あたしにとっても、外へと出られる貴重な時間だった、お散歩ついでにイロイロ街を見て回っているのは勿論内緒よ? その代わり女中頭や厨房長からのお使いも引き受けている、まぁギブアンドテイクってところね。


「では、お嬢様。参りましょうか――」


 正面の玄関ホールを抜け、庭へと躍り出る、そのまま綺麗に手入れの行き届いた薔薇庭園を横切りながら、石段を下り、てくてく歩くこと十数分、ようやく敷地の内外を隔てる正門が見えた。

 もうココに来るまでで、充分にお散歩になってると思うのは、あたしだけじゃない筈だ……。

 無骨な鉄製の扉を前にしポケットから鍵束を取り出す、ちなみにこれは正門ではなく、使用人用の勝手口みたいなモノ。

 あからさまに正面から堂々と、この大きなお屋敷から外に出るのは、女子供だけでの外出を周囲に晒し、「良くないことを考える連中」に狙ってくれと言っているようなモノなのだ。

 ――なので、勝手口からコソっと外に出る、勿論こちらから出る場合でも周囲に警戒を怠ったりはしない。

 鉄の扉にかじり付くように張り付き、外の様子を伺う……人影は無し、っと。

 ガチャリと鍵を捻り、

「……大丈夫、のようですね…お嬢様どうぞ、」

 扉を開け放ち、コーネリアと妹を一緒に扉を通過させた。

 

「うー、エレン! おはなー!」

 コーネリアが大はしゃぎで、道端一面に咲き乱れる花を指差す。

 黄色い、全周に放射状の花びらを持つ小さな花。

 あたしは、この可愛らしい花が大好きだ。

 ダンディライオン……タンポポといえばわかるかしら?

 世間一般では『雑草』に分類される生命力が強い花だ。

 ――と言っても、ここに咲いているのにはワケがある。


 お屋敷の薔薇庭園を手入れする際、処分されてしまう予定だったモノを、あたしがここに移し替えたのだ。

 庭中のこの花を持ってきた所為か、何も無かった未舗装の道が見事に黄色一色の花壇のように変貌している。

 ……ちょっと頑張りすぎたかなぁ~って思ってるわ。


「お嬢様、お花は帰りでも摘めますので、今はお散歩をしましょう」

 そのまま放っておくと、花壇に入り浸ってブチブチと花を摘み続けるに違いない。

 ここで無駄に時間を浪費すれば、あたしの使用に時間を割けなくなる(ぉ

 ともかく、花の前に根を下ろそうとしているコーネリアを強引に街へと引き摺って行くのだった。


 しばらく道を進めば、屋敷の正面側へと回り込むことになる。

 ここに来る頃には、道もキチンと石畳の敷かれたモノに変わる。


 ポーチからメモ書きを取り出し、お使いの内容を確かめる。

 まずは、侍女長と厨房長に頼まれた用事を済ませないとね。

 あたしは二人の少女を引き連れ、街の雑踏へと足を踏み入れた。

 ――ここからは気を引き締めなければ。


 この街は島の東西を結ぶ重要な物流の中間点。

 その恩恵もあってか、比較的発展しているんだと思う。

 確か、西の方に『ファルクス』とかいう鉱山都市があるらしく、そこで採掘された鉱物が王都へと運搬されているらしいのだ。

 何が採れるかまでは……ごめんなさい、覚えてないわ。

 とにかく、人も物も行き交う賑やかな街なのね。

 良くも悪くも刺激的な場所なのだ。


「さって……女中頭のお目当てのモノは……と」


 あたしの左手にはコーネリアの手が握られている、

 同じく反対側ではエレインが逆の手を握っている、

 絶対に逃走の許されない完全ホールドなのだ。

 と言っても、当の本人は、きゃっきゃ喜んであたし達の腕にぶら下がっている。

 傍から見たら、あたし達はどんな風に映るのだろう?

「ねぇ、アンタどう思う?」

「どう……て、お姉ちゃん主語が抜けててわからないよ?……いつも言ってるけど質問が唐突過ぎるよ」

「あたし達ってどう見えるのかなぁーって……そんないつもじゃないわよ」

 相変わらず、(さか)しい妹だ。減らず口が絶えない!

「うーん、月並みな見解だと……『教会に預けられた女の子』……の面倒を見る『怪しげな修道女(シスター)さんもどき』かな」

「うっわー……自分で『怪しげ』とか言わないでよ」

 まぁ、確かに着ているのは黒いロングドレスであって、修道服じゃないしね。

 こんな風に割とどうでもいい会話をコーネリアの制空権を侵犯して延々と繰り広げていると、間もなくして目当ての雑貨屋へと辿りついた。

「んじゃ、悪いけどお嬢様を見ててね」

「うん、いいよぅ。……でも余計なモノ買っちゃダメだよ?」

「……そんなお金ないわよ」

 振り向かずに手をひらひらと振って、あたしは雑貨屋の中へと足を向けた。

 ここに来るのは初めてじゃない、何度もお使いで来ているからだ。


 窮屈な店の玄関通路を潜り抜け、手狭な……けれども意外にも小奇麗にしている店舗へと立ち入る。

 突き当たりにカウンターがあり、店主である中年の男が頬杖をついて読書に耽っていた。

 ……相変わらずな男よね、と思わず呟きそうになった。

 ヘタをすると、アッサリと物盗りの被害にあうんじゃないかしら……とりあえず、あたしにはそのつもりは無いので、コホンと咳払いをし自らの存在をアピールしてみた。

 それに気付いたのか、店主は顔を上げずに視線だけこちらを向け、

「……おや、お嬢ちゃんまたお使いかい?」

「うん、そうよ。またコレに書いてるの頂戴、あたしには何なのかサッパリよ」

 ズイっと女中頭から預かったメモ書きを押し付けて物の用意を促す。

 読んでいた本が、丁度良いところだったのか、未練がましく本に顔を向けたまま、渋々といった感じで動き出した。

 ……本当に大丈夫なんだろうか、このお店。

「フォスのやつは忙しいのかい?」

「そうね、相変わらずって感じよ」

 ちなみにフォスは女中頭の本名だ。

「――そういや、お嬢ちゃん」

「んっ?なによ?」

「ちょっと最近、変な噂が流れてるんだ」

 手を動かし紙袋に品物を詰め込みながら、珍しく真剣な表情で語りだした。

 あたしの中では飄々としたイメージしかなかったので、少し驚いた。

「変な……噂ねぇ……どんなのよ?」

「気分を悪くさせちゃうかも知れないが……吸血鬼だ」

「はぁ?何それ?」

 真昼間から堂々と吸血鬼ときたもんだ、どれだけ本の読みすぎなんだろう?

 真面目な顔して、あたしのような小娘に掛ける言葉じゃない気がする。

「気を悪くしないでくれよ、これは冗談じゃなく本当に流れてる噂なんだよ……実際に『そういう被害』が何件が出てるみたいなんだ」

 いつの間にか、紙袋に品物が詰め終わり、口元を折り閉じているところだった。

 そのまま紙袋をあたしに手渡し、意外な軽さにキョトンしたあたしに、さらに言葉を追わせてきた。

「それが『本物』か模倣犯かはわかんないけど、気をつけてな。人気の無い道やら遅い時間に出歩かないようにね」

「……心配いらないわよ」

「あー、そうか普段はお屋敷にいるか、出歩かないな」

「……あははは、そうじゃないわよ」

 少々自虐的な笑いを浮かべた後、あたしは自分の瞳を指し示す。

「相手が『本物』なら共食いはしないでしょ」

 ちなみに模倣犯ならぶっ飛ばす。

「……そういうのよしなよ、自分で何言ってんだい」

 居心地悪そうに呟く店長を尻目に罪悪感を感じながらも、あたしは立ち去ろうとした。

「今は、世間も過敏になってるからな、気をつけるんだぞ。

 ……そのフード絶対に人前で取っちゃダメだからな……」


 彼はあたし達のことを真剣に心配してくれているのだろう……だけど

 悪いけど……この国の偏見は口で語れるほど浅くは無いのよ。




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謎なジャンルですが、楽しんでいただければ幸いです(*'-')
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