彪樫館の正体
長いです!!!
蝋が扉をあけると、そこにいたのは一人の少女だった。
かわいい人だ…。
若草色の髪を結んでて、同じ若草色の瞳はきりっとつりあがってる。
でも、どこかふんわりとした雰囲気も持ちあわせている不思議な少女だ。
「あなたが今日、此処に来た人?わたしは遁抱いろは。よろしくね」
わたしも案内役なの。と、握手をもとめてくるいろは。
オレは素直に手を伸ばした。
すると、いろははガッとオレの手首を掴み、眼を覗き込んできた。
すこしビックリしていると
「失礼。ちょっと確かめてみただけ。ビックリした?ごめんね」
そう言い、静かに手を離した。
違う。オレが驚いたのは、いきなり手を掴まれたことではなくて……
いろはの手がとても冷たかったからだ。
冷え症とか、そう言う冷たさじゃない。
生きている限り、感じる事のない冷たさ…
感じてはいけない冷たさ……
そんなのをオレは確かに感じた。
それに、確かめるって、どういう意味なんだ?
一人で考えてると、蝋といろはが前にいて
「おーい?遊憂!おいて行くぞ!」
「遊憂っていうの?おーい遊憂!」
と叫んでいた。
急いで駆けていく。
次についたのは、バカでっかい部屋。
「ここは…」
「「遊憂の部屋」」
一瞬眼が点になる。
ここがオレの部屋???
コノバカデッカイヘヤガ????
いや、ホントに一瞬だけ。
すぐに真顔に戻って、
「ふーん…」
と言う。
たしかに、常人にとってはあり得ない事だろう。
でも、万年ポーカーフェイスのオレは一瞬で済んだ。
初対面の人に、間抜け面なんて見せたくない。
「へー…一瞬驚いただろ」
ギクッとなる。
「一瞬だけど、ちゃんとしたポカーン顔が見えたよ♪」
ギクギクッとなる。
くそ…なんで見えたんだ…!
「ま、この部屋を見て、そんな冷静でいられる人は珍しいぞ?」
蝋のフォロー。
これで、少しだけオレの悲しみが減った。
ほかにもいろいろ案内してもらった。
大浴場、中庭、いろはの部屋、蝋の部屋、extra…。
最後に、中心にあるリビング…此処に住む住民の憩いの場。
ここは、住民からサウズと呼ばれている。らしい。
「実はここに連れてこいって言われてんのよ、みんなから」
リビングにある扉は、門の扉よりは小さいものの…
それでも大きいという事には変わりない。
キキキキキイ……
それでも重そうだ。
厚みもある。
開いたら、そこには2人の人物がいた。
1人は男性、なんか…
THE★平凡って感じ……
もう一人は女性、男性とは対象的にド派手だ。
なんだろう…清楚な派手さっていうか…
言葉に表すのが難しい雰囲気を纏っている。
男性か口を開いた。
「僕は陽零 粕楽って名前。よろしく。呼び捨てでいいからね」
女性も言った。
「アタシは團璐 權那。呼び捨てでいいわよ~」
粕楽と權那は笑顔を見せてきた。
粕楽は笑うと一気に可愛くみえる。
權那も笑うと若々しくみえる。
なんか不思議だ。
「さて、本題に入るぞ!」
蝋は大声で切り出す。
すると、にこやかに笑っていた全員の顔が真顔に戻った。
「遊憂!ここの館の名前、覚えてるか?」
「彪樫館でしょ?なんでそんなこと聞くの?」
粕楽と蝋は顔を見合わせ、頷いた。
なんか、意味深な行動だ。
いろはが一息ついて、
「あなたは、人間じゃないわ」
「は?」
いや、ホントに「は?」しか言えなかった。
「いや、人間は人間なんだけど、人間じゃないっていうか…」
何を言っているんだ?この人は。
「つまり、アヤカシと人間のハーフってわけ」
「いや、なにがつまりに繋がんの」
アヤカシ?人間じゃない?
「話すよりみせたほうがいいだろー?いろは!」
蝋が、いろはになにかの助け舟をだす。
「あ、そっか!じゃ、私の手をよーく見ててね!」
言われるがまま、じっといろはの手をみていると……
またたく間にいろはの手が猫の手になった。
「ーーーーーっっっっ!!??」
叫びそうになるが、なんとか堪えた。
「おー叫ばないのか!」
感心したように蝋が言う。
「はぁっ…はあ…で、あんた達は、なんなんだ!?もっと詳しく!」
「事の始まりは昔の話なんだ…」
粕楽が、第一話の昔話の内容を教えてくれる。
「つまり、お前たちはそのアヤカシと人間の子供だと…」
「んまーそういう事になるな」
相変わらず軽い!!
「君もなんだよ、遊憂ちゃん」
粕楽が苦笑しながら言う。
「オレも?」
「うん。此処は彪樫館。でも実は、その子供を保護する施設なんだ」
權那も説明してくれる。
「此処に移住したいと希望する人は年間1000人をゆうに越えるわ。でも、時々…その中にアヤカシと人間の子供がまぎれる事があるのよ。私達はその子だけ此処に入る事を許可するの」
「そんで、さっきみたいに本当の事を教えるんだ」
そして、そこでオレは最初にいろはに、
「確かめる」
と言われていた事を思い出した。
「じゃ、あれは…」
「うん。私、心配性なところあるから、ほんとに此処に入る資格があるか、確かめてみたの」
「いろはの手が冷たかったのも……」
「うん。それも、アヤカシと人間の子供にある特徴」
自分じゃ分からないだろうけど、君も十分冷たいよ♪とウィンクを放ついろは。
「じゃ、改めて自己紹介をしようか。」
少し不安が生まれたが、新生活へのワクワクをオレは抑える事が出来なかった。
オレの顔に、少し笑みが生まれていたことを、オレは知る由もなかった。