【過去編】 乃癒
「なんでだ」
思っていた…
絶対に迷うな、と…
当てずっぽうに進んでいた…
なのになんで…
「なんで当たってるんだよおおおおおお!!」
そう、オレの目の前には自宅。
自宅という確証は無い。
でも、断言できる何かがあった。
あーもうどうにでもなれだ!!
「入るぞ」
ガラガラ…
「アラ、遊憂、遅かったわね」
凛とした女性の声が響いた。
「母さん…」
そうか、この人が。
オレの母さんなのか。
大きくて透き通っている琥珀色の瞳。
銀に輝く長い髪。
金の刺繍が施された豪華な着物。
また、銀色の狐の耳と尾。
まあ、一言で言うと…
美・人!!!
「泰葉から聞くのが遅れたのでしょうか?」
「え、あ、いや…」
「ふーん…まあ良いです」
そろそろ門限だったから、と言い、自室に戻った母さん。
『遊憂』
「欒」
あ、そっか、欒も居るのか。
でも、実際はずっと昔の欒だよなァ…
『平気よ。私は分かっているわ。遊憂が置かれている状態の事』
え?
ナニヲイッテイルンデースカー?
『あんた、いきなり昔にきて混乱してるんでしょ』
「そうだけど」
『私、説明してあげる』
「…頼む」
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欒が言ったのはこうだった。
此処は、7年前。
7年前のオレが居る世界。
そして、住んでいる村がある場所。
泰葉は、母さんの友達。
泰葉の名前を教えてくれた“声”は、此処のオレの意識だと言う。
家までの道もその意識が教えてくれていたらしい。
『このまま行けば、あの謎の男の名前・素顔も分かるわよ』
「…オレは「こぉーんにぃーちはぁーーーー!!!!」
オレの返事は女性の声に遮られた。
「泰葉…?」
「みたいですね。遊憂、出迎えてくれません?」
「!…母さん」
母さんが後ろに居た。
「…分かった。行ってくる」
タッタッタッタ…
駆け足で玄関へ向かう。
「泰葉。何の様だ?」
「いやー美味しいジャガイモが沢山入ってきたからおすそわけしようと…」
「ごめんね、こんな時間に…」
泰葉の隣に男性がいた。
その声は…
(謎の男と一緒…!)
「お前…!」
【それとは違う。この人は、和。泰葉の旦那】
「和…?泰葉の…ダンナ!?」
「うんそうだけど…?どうかした?」
「ハッ、いやナンデモナイ!!ジャガイモありがとう!」
ばっとジャガイモを受け取り(というか奪い取り)部屋に駆けこむ。
部屋に入った途端に、ぼんやりと視界が歪む。
そのまま…意識を無くした。
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『遊憂?』
「なんだ?」
『将来のあんたは、此処をすっかり忘れていたわ』
「……」
『その方が良いのかもしれないけれど、あと、2日・3日で…』
「分かってる。この村が消えちゃうことになる。
だけど、こういう事があって未来のオレが居るんだから、いいんだよ」
『そうね』
3日後…火に包まれた村が在った。