松竹梅・後
「行け」
小さな狐火を灯すと、空に放った。
狐火はまるで蛇のように細長くなり、飛んで行った。
梅を、探すためだ。
「じゃ、さがすっスよ!」
ガサガサガサガサ…
オレは、近くの雑木林を調べ始めた。
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だいぶ、時間がたった。
しかし、一向に見つかる気配はない。
「なあ、刹鬼?」
「?」
「アンタのお母さん、死んじゃってるの?」
「ーっ…」
「図星、か」
沈黙が、続いた。
その沈黙を破ったのは、刹鬼だった。
「よく分かったっスね…なんでっスか?」
「アンタと初めて会ったときから、おかしいなって思ってたんだ」
狼願は、初めてオレにあったとき、槍を持っていた。
それで客人につっかかっていた。
こんな危ない行為、だれかが止めるはずだ。
刹鬼は目を見開き、蝋達も驚いていた。
つまり、いつもはこんなことしないってことだ。
いくらボケててもそこは大人、ちゃんと理性が止めるだろう。
なのに理性は止められなかった。
理性が失われる事件があったんだろう。
じゃあその事件は?
これは、刹鬼の行動で解かれる。
刹鬼は、家事全般をやっていた。
雷鳴家の家事、全部をだ。
前の夕食、布団敷き、風呂沸かし、着替えの用意…
ほかにも、もっとやっているはずだ。
本来なら、母親がやるべき仕事を。
それに、オレは2回来たにもかかわらず、母を見た事がない。
それから…理性が失われる事件は、母親が亡くなる。
それで理性を失うには充分だろう。
「見事な推理っス」
「でも、実際穴だらけだ。オレはプロじゃないからな」
「お母様は、自分が生まれた直後に亡くなりました」
「そんな前なのか…」
「ハイ。でも、かなりの愛妻家だったお父様は今でも立ち直れなくて、最初は、しばらく自室に籠って出てこないほど落ち込んでいました」
「…」
「自分は、写真の中のお母様しか知りません」
「悪かったな、酷なことを聞いた」
「いえ、いいんス。大丈夫っス」
また、沈黙が流れた。
「一人ぼっちは、寂しいか?」
「…ハイ」
「そうか…」
一区切り置いて
「一緒だな」
微笑んで、言った。
刹鬼も、笑った。
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「ふう…」
疲れた。
額には汗がにじみ、手には土がついている。
しかし、こんなことでめげるオレ様じゃない!
すると、
「狐火がやってきたっス!」
本当だ。
「…見つけたらしい」
「行くっス!」
「ああ、ほかに手段は無いな」
2人一緒に、走り出した。
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「梅!」
ぐでーーーーんと言う効果音がぴったりの梅。
所々傷だらけで、額もかなり熱い。
「大変っス…!」
「みんなの所へ行け!」
狐火に指示する。
「蝋は狼願と、かるたはいろはと!權那は竹と一緒、粕楽は松と探している。早くしろ!」
「記憶力いいっスね」
「まあな、欒!お前も!」
『待ってましたぁ!』
ずっとポケットの中に入っていた欒。
「お前は皆にこの事態を伝えてこい!狐火は喋れない、あくまでも道案内だ!」
『はいよっ』
上へと飛んでいく欒。
しばらくすると、ピタリと止まった。
『みいいいいいんなああああああああああ!!!!!!!!!!!』
みいいんなあああ!!!みいいんなあ!!みんなあ!み…んなぁ……な…
「うるっせええええ!!!!」
『私よ!欒よ!梅が見つかったわ!いまそこに狐火が行ってるわ、道案内よ!』
まだ欒のビッグヴォイスは続く。
『でも、梅は傷だらけ!おまけに熱まであるわ!早く屋敷に戻って、治療してるから!』
まだまだ続く。
『狐火は安全に屋敷に戻るためのものよ!しっかりついて行きなさいよ!!』
ひらりと戻り、ポケットに収まる欒。
「行こう!」
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ふう…(2回目)
梅は、大丈夫 だった。
でも、しばらくは寝続けるようだ。
これにて、一件落着?