イヌモアルケバボウニアタル?
オレが彪樫館に入って、6ヶ月ちょっとが過ぎた。
今は、自分の部屋にいる。
「遊憂ー!玄関に来てー!」
ドアごしに聞こえる声。權那の声だ。
「ああ…分かってるよ。すぐ行く」
オレは、持っていた本を置き、椅子から立ち上がる。
ドアをゆっくりと開ける。
今日は、彪樫館に入館する者を迎える日だ。
ゆったりとした足取りで玄関へ向かう。
着くと、いろは以外の全員が揃っていた。
「いろは…?」
「あぁ、部屋の整理してから行くって」
そうか。あの男が男が来て、いろはの部屋はぐちゃぐちゃになったんだ。
「さ…いろはが来てないけど、もう時間だし、扉を開きましょ」
この扉の向こうに入館者がいるはずよ。と、扉を指差す權那。
すると、指差すのと同じタイミングで、いろはが走ってきた。
「ゴメン遅れたぁ!」
「遅いよー」
粕楽が返事を返す。
息を切らして謝罪の言葉を述べるいろは。
「時間ピッタリね。じゃあ、開こう」
ギギギギギギギギギギギギギギイィ……
眩しい光が辺りを包む。
その中で見える、一人の人影。
最初は逆光で見えなかったが、人影が歩み寄って来てくれたおかげで、顔のパーツがよく見えるようになってきた。
少女だ。
長い薄桜色の髪は結んでいない。同色の瞳は軽くつりあがっている。
髪は不思議なことに、光の角度や、光の質などで色が変わるようだ。
着てる服は薄桜色の和服。
髪型や瞳の色などが違うけれども、漂わせている雰囲気、顔のパーツはいろはと同じものだった。
「?」
いろは以外の4人が首を傾げる。
「私は遁抱かるた。いろはの双子の妹ですわ」
声もいろはと一緒だ。
「一卵性双生児ってヤツよ。1分2分の差でわたしの方が早く生まれたの」
いろはが教えてくれる。
「じゃ、あの子も…」
「そう。半妖よ」
「それはもう心得ていますわ。いろはに教えてもらったのです」
そして、深くお辞儀をしたかるた。
「今日から彪樫館に入館します。よろしくお願いしますわ」
にこっと微笑みをこぼす。
「あっ…ああ、よろしくな」
「申し訳ございませんが、自己紹介は案内後でもよろしいですか?」
丁寧な言葉遣いで、なんか調子狂う……。
今回の案内役は粕楽・權那ペア。
オレ・いろは・蝋はサウズにあるでっかいソファで待ってる。
待っててと言われた。
あー退屈。
「なあ、いろは。かるたって、どんな子なんだ?」
蝋が何気なく尋ねる。
「確かに。もう半妖だって自覚してたしな、謎がまだいっぱいだ」
オレも言う。
「うーん。気にする事じゃないと思うけどな」
手に持っているアイスを食べながら言ういろは。
「本人に聞く方がいいと思うよ?そろそろ戻ってくる頃だし…ほらね」
という言葉と同じタイミングで扉が開く。
少し顔を輝かせているかるたと、ニコニコ顔の粕楽と權那。
「すごく広かったです!今日から此処に居れるなんて…夢みたい!」
なるほど、これが常人の反応か。
オレは一つ学んだ。
「じゃ、自己紹介に入るぞ!オレは…」
蝋が仕切り、テキパキと自己紹介を進める。
「私は遁抱かるた。先程申した通り、いろはの双子の妹ですわ。いろはと同じく、猫娘です」
もう動物変化も出来ますわ。と、猫に変化して見せるかるた。
「部屋は遊憂の部屋の隣よ。遊憂、仲良くしてやってね」
「あぁ、分かってる。…よろしくな、かるた」
「ええ。よろしくお願いしますわ」
優しげな笑顔を向けられ、とまどうオレ。
このあと、奇妙な客が来て、オレ達5人…いや、6人がある事件に巻き込まれる事は、誰も知らない。