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 僕と お父さんと 風船と 空と

作者: 紅木

  お父さん!見て!きれいな青空!

  本当だ。真っ青だね。

  どうして空は青いの?

  どうしてだろうね。

  お父さんにもわからないの?

  ・・・。そうだね。

  ほんとに?

  ほんとさ。

  どうしてわからないの?

  わからないからだよ。

  どうして?・・・?

  わからなくなってきたね?

  ・・・。うん。

  ・・・。

  ねえ。風船・・・買って?

  いいよ。そこで買っておいで。ほら。これだけあれば買えるね?

  うん。ありがと。


 駄菓子屋の曇ったガラスから見上げる空は黄ばんで汚く見えました。

 日の当たる場所で朽ちてしまうのだと思っていました。

 けれど、そうではありませんでした。

 小さな男の子が私を澄んだ空の下へ連れて行ってくれました。

 そこは、まぶしく、常に新しい風の吹く世界でした。

 よどみ、時代から隔離された世界にいた私には不釣り合いな気がしました。

 そのせいか、今もうすでにあの古い世界に戻りたい気がします。



  買えたかい?

  うん。これ。おつり。

  いいよ。お小遣いにしておきなさい。

  ほんと!?ありがとう。

  どれ、膨らませられるかい?

  ・・・。

  もう一息、息が足りないみたいだね。膨らんだり、しぼんだりしているよ。

  ・・・。

  大丈夫かい?顔が赤くパンパンになっているよ。まるで風船みたいだ。

  ・・・プハッ。もう。いろいろ言われたら気が散って膨らまないじゃないか!!

  そうかい。それは悪かったね。風船が膨らむまで黙っていることにするよ。

  ・・・。

  ・・・。 

  ・・・。

  ・・・。

  もう!!お父さんやって!この風船固い!

  もうちょっと頑張ってみたらどうだい?

  ・・もういい。

  そうかい。・・・・・・・。

  すごい、すごい。どんどん膨らむ。はやいね。

  ・・・・・。はい。どうぞ。

  ありがと。

  ・・・。

  ・・・。

  ずっとそうやって抱えて歩くのかい?

  うん。だって、紐がついてないもん。

  確かに・・・。家に帰ってから膨らませばよっかったな。

  うん。でも、待てなかったもん。しかたないよ。

  そうだな。


 私の中を出たり、入ったりした塊は、ほんのりとミルクのような、お日様のような、甘いにおいがしました。

 明るく、優しいものでした。

 しかし、心の中に絡まった毛糸のようなわけのわからないものを残していきました。

 そして、そのあとに、生暖かい風が私の中のほとんどを埋め尽くしました。

 それは、とても居心地が悪く、気持ちの悪いものでした。

 しかし、慈愛と幸福に満ちた風でした。

 愛や幸福は、私には相容れないものなのでしょうか?

 そうだとしたら、それはとてつもなくさびしいことです。


  

  あんまりギュッてしたら割れるかな?

  そうだね。風船だからね。

  じゃあ、飛ばないように、割れないようにしないといけないんだね。やっぱり。

  そうだね。

  でも、すごく難しくて・・・あっ!!

  飛んでいったね。

  うん。・・・。じゃーん!大丈夫でした!まだあるから。


 男の子は私を赤ちゃんでも抱いているかのように優しく、強く抱きしめてくれました。

 ほんの少しさびしかったので、とてもうれしかったです。

 私の居場所はここなのだと思えました。

 しかし、幸せは長くはありませんでした。

 突然、空が私をさらっていきました。

 私にはどうすることもできませんでした。

 とても理不尽に感じました。

 悔しかったです。

 とてもとても腹がたちました。

 なぜか?自分の夢を他人に奪われたのです。

 それが、たとえ一瞬のうちだけ思い描いたものだとしても。

 だから、私は空に思いきり文句を言って、ののしってやろうと思ったのです。

 しかし、実際にはできませんでした。

 空は私を認めなかったのです。

 どんどん近づいていく私の声も、姿も。

 聞こえず、見えないようでした。

 空はさみしかったのです。

 さみしくて、さみしくて死んでしまいそうでした。

 心が虚ろに呑まれていました。

 私にはその辛さがよくわかりました。

 本当にどうしようもないのです。

 それから逃れるすべがないのです。

 しかし、私は言いました。

 独りではないと。

 私がそばにいると。

 空には聞こえませんでした。

 私は、辛くて、悔しくて泣きました。

 毎日、毎日それを繰り返しました。

 いつの日か体の中は空っぽになっていました。

 そして、どんどん空から離れていきました。

 その時初めて、私が空の目に映りました。

 空はただ一言、やっぱりとつぶやきました。

 

 地上に落ちた時、私は独りでした。

 居場所は空に奪われました。

 あとは、ただのゴミとなって捨てられるだけです。

 誰にも大切に想われることはありません。

 私が死ぬとき、私も「やっぱり」と思うのでしょうか。

 


  お父さん。あの風船どこに行ったの?

  空のところだよ。

  ずっとそこにいるの?

  どうだろうね。

  わからないの?

  そうだね。

  わからないことばっかりだね。

  ・・・。そうだね。

 

 

 思いつくままなので、全然わからないかもしれません。

 どう意味が分からないのかを指摘してくださるとうれしいです。 

 読んでくださってありがとうございました。

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