2.ある日の早朝
この世界は最高神ザルバラァーダが定めた規則がある。それが種族という遺伝子であり、権能と呼ばれる異能だった。
この世界では竜と人のハーフである竜人や御伽話にしか出ていないと言われるが発見報告のある天使、そして人間が存在する。
はるか昔、竜人や天使などは存在しなかった。言い換えれば、人間のように規則で歩行して独自の文化を表現することのできる種族は人間以外存在しなかったのだ。
そのせいで人間は傲慢になり、自身の欲を満たすために他種族を見下して汚い方法で自らが頂点に立つように仕向けた。
しかしある時…伝説上で最高神ザルバラァーダはそのことに憤慨して人間が最高の種族とならないように工夫を凝らした。
その結果が竜人のような竜と人間のハーフや、種族として特別な力を持つ天使などを誕生させていったのだ。
これが最高神ザルバラァーダを祀る者たちの語る世界誕生秘話だ。
今世界は形を変えて変化していっている。
中心には大きな国…ヨルアユナ帝国を獣人が築き、北西にはさまざまな種族が各々の文化を持って生活し、南東には竜人の栖が出来た。
その世界の…北西にある小さな集落に、猫又族の集落があったのだ。そして、たった1人の人物が誕生したおかげで20年も待たずに世界は危機に陥ることになる。今回はその人物の…少年の…ライカ・ラァーダの物語。
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冬がまだ終わり切らない早朝の朝
凍るような空気を割いて走る人物…否1匹の猫が居た。猫はその黒い毛並みを靡かせながら颯爽と走り去っていく。
猫は走って走って…ようやくその足にブレーキをかけた。そして白い壁の清潔感のある建物の中に入っていくのだ。
その建物には1人の中性的な人物が飾られていた。
猫はその人物を一目見て、感嘆の声を上げてからニコリと笑って神父の服を着た猫に話しかける。
「おはよう、神父様!10になったから…祝福を授かりにきました。」
その人物こそが、ライカ・ラァーダ…否ただのライカだった。
ライカはこの世界の最も北西に位置する猫又が集まる集落にいる少年だ。そしてここの猫達は最高神ザルバラァーダの信者であった。
猫又達は最高神ザルバラァーダのことを大切に思い、毎日のようにザルバラァーダのことを拝んだ。
ライカの言葉を聞いた神父風の猫…否神父はその言葉にニコリと笑ってそばに駆け寄る。そしてスリと頭を擦り合わせた。
「あぁ、ライカ。よく来ましたね。こんなに早くきたのはここ数年で君だけですよ」
「本当?楽しみだったから全力で走ってきたからな!」
「ふふ、そうですか。」
神父は微笑み、そして顔を真剣なものに戻す。
ライカの瞳をまっすぐと見つめてからゆっくりと瞼を閉じて、「ついてきなさい」とライカに一言だけ伝えて歩き出した。
《祝福》。それは猫又達が最高神ザルバラァーダを拝み続けた結果生まれた偶然の産物だった。
猫又は通常、一つの自分が大切だと思うものに対しての執着が凄い。それが家族だったり番だったり仲間だったりするのだが…
この今の時代を生きる猫又にとっての大切なものというのは最高神ザルバラァーダだったのだ。
自分達と同じ形態になった猫又の祖先は最高神ザルバラァーダに助けられたことがあった。それが本当か嘘かは今ではわからない。ただ、旅をしている途中に竜に襲われた時にザルバラァーダを名乗る人物に助けられたのだ。
それが祖先の大切なものとなり、ザルバラァーダという神を知った時に一生をかけて信仰した。それをその子も、その子も真似をして…やがて猫又という種族全てが最高神ザルバラァーダの信者となったのだ。
最高神ザルバラァーダはそれを受け止めて、猫又に《祝福》という名の異能……《神の叡智》を授けてもらうことになった。
それは最高神ザルバラァーダの信仰度によって力の大きさが変化する。火を吹けるようになったものも居れば、猫耳の下に羊のツノが生えただけのものもいる。
最高神ザルバラァーダの祝福は決まって年が10になった時に授かっている、だから猫又の少年少女は10になる日を明くる日も待ち続け、最高神ザルバラァーダに忠誠を誓うのだ。
「さて、ここで良いかな。ここで祝福を授かろう。」
ふと神父がそう呟いた。その言葉を聞いてライカが体を震わせる。
ライカは他の猫又と比べても人一倍信仰心が強かった。最高神ザルバラァーダのことは祝福を授かるようになった起源以外にも語られている。それも、世界各地でだ。
最初は祝福を得たいがためだけにやっていた信仰だったが、いつの日か心の底から最高神ザルバラァーダのことを信仰していた。
「ライカ、このザルバラァーダ様の像の前で祈りを捧げればいい。そうすれば一瞬のうちに祝福を授かることが出来るから」
「は、はい」
そう神父に伝えられてライカは固唾を飲んだ。
もしも祝福をもらうことができなかったら…?
もし、貰う祝福がないも等しいものだったら…?
ライカには夢があった、他の人にとっては小さい夢でも、ライカにとっては大きな夢が。
祝福がないも等しいものならば夢は叶えられないかもしれない。
そう思って緊張で視界が白くなってきたあたりで、ふと自分の頬を何か暖かいものが触れた。
「大丈夫、祝福を得られないバルティアはいないから安心して。それにライカはザルバラァーダ様のことを心の底から信仰しているだろう?」
神父が頬を寄せて慰めてくれていた。怖かった思いがふと、薄れていくのを感じた。
「あぁ…そうだよね。うん!頑張るよ!」
「うん、頑張れ」
それだけを伝えると神父は一、二歩下がりライカのことを見守る体制へと変化する。それをライカは目の端で見届けてから、深く深呼吸をして首を垂れて祈りを捧げた。
最高神ザルバラァーダ様、俺に祝福を分けてください。
そう、心の中で呟いた途端。
視界が揺れた。
猫又のような姿をしたネコ科の種族バルティア




