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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元王子よ、今回の婚約破棄は万死に値する。だが卑しくも貴様は元王族だ。なので今回お前が罰として受ける『ざまぁ』を七つの極刑の中から選ばせてやる。

ここは異世界。勿論世界観は中世欧州風。なので魔物はいるし、魔法も普通に存在している。

そんな中、長年争いが絶えなかった魔界と人間界の関係を修復する為に、今回魔界の王である魔王の娘と、人間界の王であるウロナ王の王子との婚約話がまとまった。


だが、残念ながらウロナ王の王子はアホな事で有名だった。なので事もあろうか初デートで魔王の娘に対して昨今大流行な『婚約破棄』を噛ましたのである。

いや、これだけだと本当に王子がアホのように感じただろうが、王子側にも言い分はあった。何故ならば魔王の娘は『オーク』だったからである。


まぁ、相手が仮にドラゴンだったとしても王子としては受け入れられなかったであろう。三歩譲って相手がエルフならまだ王子も納得したかも知れない。

しかし残念ながら王子の婚約者は『オーク』の娘だったのである。因みにオークとは所謂『ブタ』の魔物だ。また牛の魔物は『ミノタウロス』で、馬の魔物は『ケンタウルス』である。


まぁ、『ミノタウロス』と『ケンタウルス』は上半身は人間の姿なので、仮に人間部分が絶世の美女だったならば王子も結婚相手として受け入れたかも知れない。

特に『ミノタウロス』は牛の魔物なのでおっぱいは大きいだろうしね。


因みに魔王には血縁関係を持った娘はいない。なので今回のオークの娘も養女である。だがこれは魔界の上流階級ではよくある事だった。

その理由はより良い能力をもった者が家系を継ぐべきだという習いが魔界の上流階級にあったからである。


つまりオークの娘は見た目はオークだが、その秘めたる能力は魔王の娘として相応しいものを持っていたという事だ。

なので幼子の内からオークの娘は魔王の元に引き取られ、魔王もオークの娘を目に入れても痛くない程の可愛がりようだった。


なので今回の婚約破棄に対して、魔王は元王子を八つ裂きにしても気持ちが収まらないほど激怒していたのである。

しかし元王子にしてみれば『オーク』はどこから何処までもブタだった。人間らしいところと言えば、二足歩行をするところと人間の言葉を喋る事くらいである。


なので人間界の多くの人々は今回王子がぶち噛ました『婚約破棄』に同情的であった。しかし、王子は王族だ。そして王族には国を安定させ、平和を維持するという役目がある。

その為には個人の感情は隠し、政治的な目的での政略結婚をするのは当然の義務だったのだ。


かくして今回の婚約破棄事件により、魔界と人間界の間にはこれまでにない程の緊張が走った。それに対して人間界の王であるウロナ王は、王子を絶縁し元王子を魔王の元へと送って、煮るなり焼くなり好きにしてくれと伝えた。



そしてここは魔王城の大広間。今や只の人となった元王子が玉座に座る魔王の前で運命の時を待っている。

そんな元王子に魔王は冷たく言い放った。


「元王子よ、今回の私の娘に対する婚約破棄は万死に値する。だが卑しくも貴様は元人間界の王族だ。なので今回お前が罰として受ける『ざまぁ』を七つの極刑の中から選ばせてやる。」

「・・。」

魔王の言葉に元王子は返事もしない。なので魔王は横に控える法務大臣に後の説明を任せたようである。


「こほんっ。それでは魔王様に代わりまして法務大臣である私が『七つの極刑』についてご説明致します。」

法務大臣はそう言うと、元王子の返事も待たずに説明を始めた。


「ひとつ、八つ裂きの刑。これは文字通り体を八等分にして、尚且つ頭の部分には生命維持装置を付けて己が過ちをホルマリン漬けの容器の中で悔やませる刑である。」


「ふたつ、水責めの刑。これは足に重りを付けて水に沈める刑である。但し呼吸が止まる寸前に水から引き上げ死なす事はしない。その代わり永遠に繰り返し己が過ちを悔いさせる刑である。」


「みっつ、火炙りの刑。これは炎天下の鉄板の上に裸で放置し、徐々に皮膚を焼く刑である。因みに日が沈んだ後の夜間は、鉄板を下から炙りこんがりとさせる。その後、火傷自体は魔法で完治させ、翌日に再度焼くを繰り返す刑である。」


「よっつ、飢餓の刑。これはおいしそうな食べ物を目の前に並べ、尚且つそれを他人が食べるのを見させ続ける刑である。因みに匂いだけは幾ら嗅いでもよいものとする。また、体力維持の為に水分と栄養の補給はホースにて直接胃に流し込む。」


「いつつ、極寒の刑。これは氷付けにして低体温症になるまで放置する刑である。ただ、ある程度続けると耐性が付いてしまうので、時々南の島でバカンスを過ごさせ気が緩んだところで再度氷付けにする緩急を伴った割りとぬるい刑である。」


「むっつ、ネット禁止の刑。これはアニメの視聴も含む刑である。但したまに音声だけは聞かせてフラストレーションを上げるものとする。」


「ななつ、ひとりぼっちの刑。これは個室に閉じ込め他人との接触を経つ刑である。但しネットは見放題とする。しかし書き込み等は出来ないようになっている。この刑は『七つの極刑』の中ではネット禁止の刑共々一番楽な刑である。以上が『七つの極刑』の内容である。何か質問はあるかね?」

法務大臣の問いかけに初めて元王子が口を開き抗議してきた。


「待てっ!いくらなんでもネット禁止は刑が重過ぎるだろうっ!俺に死ねっていうのかっ!」

「えっ?いや、ネット禁止の刑はひとりぼっちの刑共々『七つの極刑』の中では一番軽い刑なんだが?」


「そんな訳あるかっ!どう考えても一番つらいわぁ!」

「お前、感覚がおかしいんじゃないのか?まぁいい。別に全部を試せと言っている訳ではない。どれかひとつでいいんだ。なのでネット禁止の刑が嫌ならば選ばなければいいだけだ。」

法務大臣に正論で返された元王子はそれでも尚引き下がらない。


「えーと、俺としてはインキュパスによる淫夢の刑ってのがいいんですけど?」

「元王子よ、そんなぬるい刑を魔王様がお前に科すと思っているのか?」

再度正論で返された元王子は漸く諦めたようである。そして大して悩む事もなくひとりぼっちの刑を選んだ。

その理由は当然ネットが見放題だからだ。まぁ、書き込みが出来ないのは少々面白くないようだったが背に腹は替えられないと諦めたのだろう。


これによって正式に元王子への刑罰方法が決定した。ところがここで事の推移を大広間の奥から見守っていたオークの娘が魔王の元にドスンドスンと走りより元王子の助命を願い出たのだ。

その事にその場にいた全ての者たちが驚く。


だが、オークの娘の事を良く知る魔王は「元王子に真実の愛があるのならばお前の願いを受け入れよう。」と妥協した。

その方法とは元王子がオークの娘にキスをする事である。つまりブタにキスをするのだ。


そんな魔王の妥協案にその場にいた者は慌てる。そう、彼らにとってはオークという存在はあくまでオークであり、魔物たちにとっては種の違いはそれ程恋愛に影響を及ぼさないのだ。

なので魔界では結構な比率で異なる種同士から生まれたハーフが存在するのである。因みに遺伝子云々という問題はここでは論じない。


そして魔王から許しを得たオークの娘は、頬を赤く染め潤んだ瞳で元王子の前に歩み寄ると、そっと目を閉じて元王子からのキスを待った。

だが、当然元王子は躊躇する。そう、元王子にとってこれは究極の選択なのだ。因みに一回くらい我慢しろよという声もあるかも知れないが、魔王の娘にキスしておいてそれじゃどうも、と帰れる訳がないのである。


なのでキスをしたならば元王子はオークの娘と強制的に結婚する事になるのだ。そして当然王家の習いとして子供を授からなければならないのである。

つまり一回キスするだけでは済まされないのが今回の妥協案の怖いところなのである。だからと言って拒否すれば元王子には『七つの極刑』が待っている。なので王子としてはいっその事、剣で胸を貫き楽に死にたいと願ってもおかしくはない。


しかし元王子には心残りがあったらしい。それは来期に始まるアニメをなんとしても視聴したいという思いだ。

だが死んでしまってはアニメを観る事が出来ない。その思いが元王子に究極の選択を決断させた。


そう、元王子はオークの娘とキスする事を選んだのであるっ!

因みにこの場合のキスとは、ほっぺにチュっとかいう子供騙しでは済まされない。それこそぶちゅっと1分くらい熱烈にチュッチュしなければキスと認めて貰えないのである。


しかしアニメの為にと腹をくくった王子にもはや怖いものはなかった。なので目を瞑ったままのオークの娘を引き寄せると、そのままぶちゅっと唇を奪ったのである。

しかしここで奇蹟が起こった。なんと元王子にキスされたオークの娘の娘が輝きだしたのだ。そしてその姿がみるみる内にオークからエルフへと変身していった。


そう、王子から真実の愛?であるキスをされた事によりオークの娘は前世に掛けられていた魔法が解けたのだ。

実はオークの娘は前世で悪い人間の魔女に醜いオークに生まれ変わる呪いの魔法を掛けられていたエルフ族の族長の娘だったのである。そしてその魔法を解く方法こそが真実の愛の『キス』だったのである。


まぁ、実際に王子の愛が向けられていたのは来期から始まるアニメだったのだろうが、それに関して他者が知る術はない。

そして今、呪いの魔法が解けたオークの娘は、それはそれは美しいエルフの娘へと姿を変えていた。


その姿を見て王子は驚愕する。何故ならばオークからエルフの娘に姿を変えた魔王の娘は、王子が来期に見たいと願っていたアニメのヒロインそっくりだったからであるっ!

いや、これでは元王子だけがおいして思いをしてしまい、全然『ざまぁ』になっていない。


そもそも何故魔王の娘は王子を助けようとしたのだろう?そもそも元王子はそれ程ハンサムではないぞ?だが異性の好みというものは人それぞれで、何故かエルフの娘的には元王子がどストライクだったらしい。

なので周りからしたら納得のいかない展開ではあるがエルフの娘としてはこの結末でも十分にハッピーエンドだったらしい。


当然元王子も変身したエルフの娘に対して体中が熱くなる思いを感じエルフの娘を強く抱きしめたのである。

だが、物語はこれで終わらない。終わってしまっては読後感が酷すぎる。なのでなんとしても元王子には酷い目にあって貰いたい。そして物語の神様はそんな期待に応えてくれた。


そもそもエルフは長寿である。故に種を異にする種族と結婚する場合は相手の老化を抑える為に冷凍保存し、一年に一度七夕の日にミルクで解凍して二週間だけ逢瀬を楽しむのが慣わしであった。

これによって寿命が50歳前後と言われている異世界の人間でも経過寿命が26倍となり結果的に1千年近い期間を生きられるようになるのである。


なので元王子はエルフとなった魔王の娘と結婚式を挙げ、初夜を迎えた次の日にはカチンコチンの氷付けにされて冷凍庫に保管された。当然アニメは観る事は出来なかった。

つまりまぁ、今回元王子は『七つの極刑』の内、図らずも『極寒の刑』と『ネット禁止の刑』と『ひとりぼっちの刑』のトリプルセットを喰らった事になるのだろう。


しかし、元王子自身の感覚ではそれらの刑を受けている時は意識が無いので罰としては意味が無いかも知れない。

それにアニメに関してはエルフの娘が録画しておいてくれると約束してくれたので来年の七夕には観る事が出来るはずだ。


そう、なんのかんのあったが今回の婚約破棄で一番いい目を見たのは王子だったというオチである。

これこそが世の中の無情。故に人々はチカラにて物事を解決しようとするのだろう。だが、それでも人々は願わずにはいられない。


そう、来年の七夕の日は是非とも雨となって天の川が増水し、元王子は魔王の娘と会う事が出来ず、アニメの視聴がお預けになるように願ったのであった。


-お後がよろしいようで。-

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