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算聖、現代社会に驚愕する

関孝和と名乗るおじさんがうちにやってきて初めての夕飯を迎えた。


食べ始めるまでのおじさんの様子を説明するにも大変だ。


家の中を歩くたびに、驚きの声を上げてばかりだった。


「おおっ……この、壁に貼られた絵巻は何だ? ……いや、動いておる!? これは生きておるのか!?」


それは、リビングのテレビだった。ちょうどおばあちゃんが録画した旅番組を流していたのだけど、おじさんは仰天して思わず正座して凝視していた。


「えーっと、それテレビ。画面の中に人がいるんじゃなくて……その、光の点がすごい速さで動いてて、そう見えるんだよ……」


「光の……点……? 何を言っておるのだ!」


しばらく画面を見つめていたかと思うと、急に振り向いて僕の方へ詰め寄ってきた。


「ならばこれは!? この小さな箱……音が聞こえるぞ! 中に人が隠れておるのか!? なにっ、しかも……歌っておるではないか!!」


「それは……スマートスピーカー。音楽を再生してるんだよ。中に人はいないってば」


「まさか……神仏の御業か……」


さらに、トイレを案内すると、


「こ、この水は……流れた……何もせぬのに、勝手に!?」


「人が座ったら自動で流れるようになってるんだ。便利でしょ」


「から…くりなのか?」


そして、炊飯器を見るなり、目を丸くして


「この奇妙な材質な窯はなんだ!こんなもの見たことがないぞ! 異国のものか!?」


また、冷蔵庫を見るなり、


「この大きな箱はなんだ!中で食材を冷やしているのか?どうやって….? 原理はどうなっているのだ!?こんなものは誰が作れるのだ!?」


このおじさん、本当に何も知らないみたいだ……


おばあちゃんがため息をついていった。


「ほれ、いいから座りな。食べるよ」


今日の夕飯は、白米、なめこの味噌汁、ほうれん草のおひたし、鯵の開き。シンプルだ!


和食の定番な料理に対しておじさんは何も言わず、あっという間に食べてしまった。


おばあちゃんも食べ終わり、僕だけがまだ食べ続けていると、おばあちゃんがおじさんに質問した。


「お前さん。今の年号はなんだったかや?」


おじさんが答えた。


「宝永であるぞ。そんなことも知らぬのか」


「宝永…..? 令和だよ」


僕は答えた!


おばあちゃんは、全てを悟ったように僕をみて言った。


「一数、この人は多分江戸時代の人で間違えねえべや。宝永っていうのは1700年くらいだったかなあ。雷に打たれて気がついたら令和に来ちまったて感じだろうねえ」


それを聞いておじさんは、


「れいわ?つまり私が生きていた時代よりも後ということか!?」


僕は案外簡単に納得できた。こんなに機械に驚いていたし、倒れていた時に着ていた服も古かったから。それに、未来に来てしまうというのは、青い猫のロボットがやっていることと同じようなことだろうし。


おじさんはしばらく沈黙したまま固まってしまった。


1分ほどぼーとしてから口を開いた。


「私はどうすれば……」


少しかわいそうに見えたので何か声をかけようとしたら、おばあちゃんが口を開いた。


「そんなに気を落とすことじゃねえべ。色々未来の生活体験してみていくのがいいべ。一数にもいい刺激になるだろうし、ろくでもねえ息子夫婦ももうこの家に住んでねえからどこの部屋使ってもいいべ」


おばあちゃんの発言に僕は反対するように言った。


「おばあちゃん、警察に預けた方がいいんじゃないの?おばあちゃんもあんまり体良くないんだから負担になるよ!」


そうするとおばあちゃんが大きく目を見開き、僕の目を見つめて強く言った。


「大丈夫。一数、お前にいい刺激があると言っただろう。お前は人に気を使いすぎだ。何か自分の中に抱えていることがあるのだろう?」


おばあちゃんの何もかも見透かしているような発言と時々大切なことを言う時の訛りが解けたその強い口調に僕は何も言えず口を紡ぐことしかできなかった。


おばあちゃんは、僕をみて微笑み、体をおじさんの方に向けて言った。


「お前さんは、一数に世話になることが多いだろう。しかし、一数が困っていたら頼むよ。じゃあ、二人とも今日は風呂入って寝ちまいな。一数は、明日テストがあるんだろう?」


風呂は、古い家にしては珍しくリフォームされていて、ちゃんとユニットバスだ。


だけど――おじさんにとっては、またまた未知の空間だったらしい。


「この桶は何だ?中に湯が溜まっておる……まさか、中で体を洗うのか?」


「いや、体はこっちのシャワーで洗って、それから湯船に入るの。順番守らないとおばあちゃんに怒られるよ」


「しゃわー……? な、なんだこれは! この金属の棒から湯が出ておるぞ!? 井戸もないのに!」


「おじさん、お願いだからあんまり叫ばないで……」


僕が説明しても、いちいち目を見開いてはうなり、蛇口を回しては歓声をあげる。もう、ずっと実況してる感じだった。


風呂上がりも、なぜか僕のドライヤーに興味津々で、


「この風、どこから……? なぜ熱い!? 仕掛けが見えぬ……これは火事に繋がらぬのか……?」


「……寝よう。もう寝よう」


そして僕たちはそれぞれ布団に入ったけど、おじさんの質問は止まらなかった。


「寝具がふわふわだ……綿ではなかろう、この弾力は何で作られているのだ?」


「この薄い紙のようなもの……これは灯りを消すための道具か?」


「そう、それがスイッチ。押せば消えるから。……ってもう寝るよ、ほんとに」


おじさんの問いかけは、まるで延々と続く九九のようだった。


最初はちょっと面白かったけど、さすがに疲れてきた。


気がついたら、僕は眠りに落ちていた。


変な江戸時代のおじさんがうちに来てしまった。


まるで夢みたいな一日だったけど、これが現実なら……きっと、明日からも毎日がもっと不思議になる。


そんな予感を、僕はほんの少しだけ感じながら、静かに寝息を立てた。

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