表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

- 3 - ニュース発表の裏側と新規アシスタント 2

炎の大陸最大手財閥の前会長ギリトは、もとは優しい雨降る小国――かつて世界大戦中に亡命した王家の姫君の血を引く家系だった。



ギリトの親世代までは、姫君の祖国において王族としての特権を持っていたという。



だが、その特権には条件があった。



姫君から数えて六代目以降は、王家直系との縁組がなければ王族の資格を失う、というものだ。



もし、五代目が姫君の祖国の貴族と正式に結婚していれば、爵位に見合う王族相当の地位が与えられ、体面は保たれただろう。



しかし、五代目は、婚約話が進んでいたにもかかわらず突如家を飛び出し、単身炎の大陸に渡って、現地で結婚、子どもを設けてしまった。



こうして六代目以降、王族としての資格も、特権も、すべて失われたのだった。

――本来なら、そこで平民として静かに生きる道を選ぶべきだった。



だが、五代目は違った。


彼女はなおも、王族時代の特権にしがみつこうとした。


当然、生家も、姫君の祖国も、これを冷たく拒絶した。


戦争になりそうで他国となやり取りを急激に減らしたこと、そして何より、勝手な結婚が婚約破棄となったことを理由に、五代目は正式に王族から除籍された。


五代目は焦った。


だが、すでに結婚の際、政略結婚を阻止するため、相手との間に解消不可能な神聖魔法契約を結んでいた。



結果として、どれほど嘆こうと、もう王族に戻る道はなかった。



自由を夢見て飛び込んだ炎の大陸での暮らしは、相手がそれなりに良家の出であったにもかかわらず、かつての王族時代とは比べ物にならないほど貧しかった。


やがて五代目は心を病み、その矛先は、日々子どもへと向かうようになった。



――もっとも深くその影響を受けたのが、六代目、すなわちギリトだった。



彼は、母から繰り返し語られた。



王族だった頃の栄光、教育、失った特権、そして自ら選んだはずの亡命と、それでもなお絶えることのない、生家や祖国への恨み。



それはまるで、子守唄のように毎晩繰り返された。



ギリトの父は、息子に真実を伝えようと努めた。


だが、仕事柄、商談で家を空けることが多く、説得の機会を持たないまま、ギリトが十七歳のときに早世してしまった。


――彼を正せる者は、ギリトがまだ「子ども」と呼べる年齢のうちに、誰もいなくなったのだ。



ギリトは、父方の祖父の補佐を受けながら急速に頭角を現した。


そして、孫娘が生まれる頃には、すでに炎の大陸で並び立つ者のない実業家へと成長していた。


豊かさにおいては、もはや優しい雨降る小国とは比較にならなかった。


だが、幼少期から植え付けられた「王族の栄光」「特権への執着」は、ギリトが手にした成功をしてなお、癒えることはなかった。


そんな折、家族旅行で訪れた東の連邦国で、孫娘が我が国アナベルの王子に恋をした。



ギリトは悟った。



――これは、神が与えてくれたもう一度のチャンスだ。


ギリトは即座に動き出した。


我が国の王子、王族、貴族のパワーバランスから、街娘たちが好む噂話、農民たちが求めるものに至るまで、あらゆる情報を集めた。



そして、その計画の一環として、我が研究所の副所長がターゲットにされた。

理由は単純だった。



我が国の王子は、国のために黙々と務めを果たす、隙のない人物として知られていた。


学業、武術、外交、すべてをそつなくこなし、個人的なスキャンダルもない。

だが――ただひとつ、個人としての情熱を傾ける対象があった。


それが、「記憶の湖」に関連する魔道具だった。



王子は、壊れた骨董品にすぎない魔道具でさえ、惜しみなく収集していた。



学生時代から、記憶の湖研究所での研究職に就きたかったと公言しており、直系の王位継承者でなければ本気で目指していただろう、とすら言われていた。




――そして、ギリトはその「弱点」を突いたのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ