表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/12

第7話「復興の未来」

 王都の外れ、獣人街。狭い路地はゴミと汗の匂いが混じり、騎士団も近づかない治外法権の地だ。薄暗い建物がひしめく一角にその店はあった。




“カランカラン……”




「よう、兄弟」


「久しぶりっす!」




 むっとした熱気とタバコの煙の中、モルトが慣れた足取りでカウンターへ。狐耳をピンと立て、バーテンダーに笑いかける。




「モヒート、キンキンに冷やしたやつっす!」




 狐人が考案したハーブ香るカクテルを頼む。氷がカランと音を立て、モルトは喉を潤した。




「で、マスターはどこっすか?」


「奥で『お仕事』さ」




 背後から声。振り向くと、赤みかかったもふもふ尻尾を揺らす狐人の男、バドがニッと笑う。




「バドっすか! 元気そうで何よりっす!」


「王都は物騒でな。俺たちゃ忙しい。マスターの様子見てくるよ」




 バドが奥に消えると、入れ替わりに痩せた犬族の男が近づいてきた。目がぎょろりとモルトを捉える。




「お前がモルトだな。トーゴ家が追放されて、俺たちの仕事が消えた。執事だったお前のせいじゃねえのか?」




 トーゴ家は亜人たちの保護を担ってきたが、アウル行きでその職は公爵預かりになっているのだ。尻尾がシュンと垂れた。




「……確かに、自分の力不足っす」


「何?」


「トーゴ家を支えきれなかった。けど、だからこそ、今できることをやるっす」


「ふん、じゃあ俺の食い扶持はどうしてくれる?」




 男がモルトの胸倉を掴む。店内がざわつき、鋭い爪が光る。モルトの心臓が跳ねたが、目を逸らさず続ける。




「アウル領が入植者を募集中っす! 早い者勝ちで家と農地、収穫までトーゴ家が面倒みる。身一つで来ればいいっすよ」


「そんなうまい話、あるわけねえ!」




 男の手が震え、ナイフがチラリと見える。店内の空気が凍り、モルトは息を呑む。だが、奥から人懐っこい声が響いた。




「よう、モルト。騒がしいな」


「ウーゾ! 久しぶりっす!」




 裏ギルドの主、ウーゾが分厚い手を差し出す。モルトが肉球を握り返すと、店内の緊張がわずかに緩む。ウーゾは男を一瞥し、笑った。




「モルトの話、本物だ。俺が知ってる。王都きっての執事が嘘をつくわけねえだろ?」


「し、しかし……」


「アウルでの暮らし、気になるなら話聞いてみろ。モルト、詳しく教えてやれ」


「家と農地、自由な暮らし。ハヤト様が約束してくれてるっす。風土病? もう解決済み。希望者は明日、店の裏に集合っす!」




 男がナイフを下ろし、店内がざわめく。ウーゾがモルトの肩を叩いた。




「さすがだな。だが、モルト。一つ忠告だ」


「なんすか?」


「アウルの噂を聞いた。王国はトーゴ家の動きを怪しんでる。入植者を送るなら、気をつけろよ」




 ウーゾはそう言いながら、モルトの出した依頼書にドラゴンの骨で出来た判を押した。




 ◆




 一週間後、店の裏にアウル行きの一行が集まった。五家族と元使用人たち。犬族の男もそこにいた。




「モルトさん、悪かったな……」


「気にしないっすよ。来てくれて助かったっす!」




 男が頭を下げ、モルトは尻尾を揺らして応えた。




「それじゃ、出発するっす‼」




 大型馬車に乗り込み、モルトは一行を見回した。アウルでの新生活。そして、ウーゾの忠告。公爵の影がちらつく中、モルトの尻尾が小さく揺れた。




 ◆




 ブラックベリーでは、復興が着々と進んでいた。港に商会の船が到着し、日用品や穀物が積み下ろされている。モルトたち一行も無事到着した。




「ハヤト様、どうやら王国から目を付けられているみたいっす」


「まあ、今に始まったことじゃないけどな。それより王都の様子を聞かせてくれ」


「ハヤト様、最近王都では、ラプトルの素材を使った武具や装飾品が人気だとか」


「ま、まあそおっすねえ」


「ラプトルか。あの大森林の遠征は、思い出したくもないが、ここからは大森林まで船でほど近いな」


「危険ですが、ハヤト様の次元流なら。仮に定期的に捕獲できるならブラックベリーの復興は間違いございません」




 ドランブイが目を輝かせる。


 一般的に流通していないラプトル。皮や骨、更には爪や牙など捨てる所が無いばかりか、肉も極上の品質である。




 俺たちの未来が、確かに動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ