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第6話「視線と正座」

「おお、ハヤト殿、よく戻られたの。まずは無事で何より。じゃがの……」




 キールの館に戻った俺は、早速今後の方針を相談した。キールは笑顔で迎えてくれたが、俺の提案に険しい表情を崩さない。




「資金や資材の援助は快諾するが、職人たちを貸すとなると……ハヤト殿には気を悪くしないで欲しいのじゃが、ブラックベリーでは風土病がの……」




 キールが申し訳なさそうにため息をつく。




「実は、わらわはハヤト殿があの街をあきらめてくれたらと密かに思っておった。いっそ別の地に一から街を造るのもいいかと」


「そのことですが、かつて祖父がこの地でしたことを詳しく教えてもらえませんか。俺の考えが合っていれば、ブラックベリーは復活するかも知れません」


「ふむ……」


「病気を予防し、病の噂を払拭できれば、職人も集まるでしょう」




 キールが少し驚いた顔で俺を見た。




「三十年前、インスぺリアルは病に苦しんでおった。手足がしびれ、足がむくみ、寝込む者まで出た。そんな時、デューイ殿が現れたのじゃ。病人を椅子に座らせ、小さな木槌で膝をコンと叩く。健康なら脚が跳ねるが、病に侵された者は動かぬ。あの不思議な光景を今でも覚えておる」


「で、ではデューイ様はどんな治療を?」




 ドランブイが身を乗り出す。




「治療ではない。デューイ殿は異世界の料理を振る舞ってくれただけじゃ。例えば、それまで肥料にしていたマメを青いうちに収穫し、さっとゆでると旨いつまみに。動物の内臓をよく洗って野菜と煮ると美味い鍋が出来た。肉に衣をつけて揚げたカツはエールにぴったりじゃ。香ばしい匂いが館に広がり、病人たちが少しずつ笑顔を取り戻していったのじゃ」




 キールが懐かしそうに目を細める。




「最初は食べる習慣のないものばかりで、みんな嫌々じゃった。だが、デューイ殿は『これが栄養を補い、体を強くする』と教えてくれた。マメには力が、内臓には血を作る成分が、肉には疲れを癒す滋養があるとな。数日もすると、病が治っていったのじゃ」




 この病は、かつて祖父が話してくれた『エドワズライ』というものに違いない。


 祖父は治療ではなく、新しい食文化を伝えたのだ。食用とされていなかった食材を奨励し、病を克服した。今では祖父の伝えた異世界料理がインスぺリアルの郷土料理として根付いている。




「ドランブイ、ブラックベリーの病はどんな症状だったんだ?」


「はい、キール様がおっしゃったものと同じでございます。手足のしびれとむくみ……」


「何だと! 誰ぞおらぬか!」




 キールが勢いよく立ち上がり、指示を飛ばした。




 ◆




「モルト、王都への頼み、くれぐれも頼んだぞ」


「任せて欲しいっす! 王都で人を集めるなんて執事の腕の見せ所っすよ~♪」


「本当に大丈夫か?」


「何言ってんすか。余裕っす!」




 楽観的なモルトに少し不安がよぎるが、これでも自称トーゴ家の筆頭執事。王都で現状を伝え、入植者を探して欲しいと頼んだのだ。




「では、行って来るっす!」


「無理するなよ」


「危ないときは逃げてね」




 護衛としてピニャとその妹コラーダが同行する。




「ハヤト様、お久しぶりです。こっちは妹のコラーダです」


「姉がお世話になりました。よろしくです!」




 ピニャが恭しく頭を下げ、コラーダが元気に笑う。銀のシミターを佩き、フード付きマントが風に揺れている。




「よろしくお願いします」


「大船に乗ったつもりでいてください」


「それでは、出発しましょう。……え~と、モルツ様?」


「モルトっす~!」




 それなりに元気に出発していったモルトを見送り、俺たちは再びブラックベリーへ向かった。 三十名の山エルフの職人たちも一緒である。




「ハヤト様。リビングの品々は商会で買い取り、オークションに出すつもりです。希少な木材の家具は王家や貴族向けに高額で売れるかと。復興資金として十分な利が見込めます」




 カルア海の南に、国土全体が城壁で囲まれたエルフの国がある。大河を下れば近く、ドランブイの商会本店がそこにあるそうだ。




「頼んだぞ。ブラックベリーの復興に繋がるなら、それでいい」







 オークションをドランブイに任せ、俺たちは山エルフの職人たちとブラックベリーの復興に取り掛かった。街の建物は使えるが、内装の改修が必要。職人に街を任せ、俺とセリスは農地開墾に汗を流した。




 砂漠の風土は過酷で、日中は灼熱の陽光が照りつける。キールから譲られた馬を操り、乾いた土を耕す。汗が額を流れ、シャツが肌に張り付く。セリスは慣れた手つきで手綱を操り、農耕馬で畑を耕す姿が堂に入っている。植えるのは祖父が伝えた『サツマイモ』――痩せた土地でも育ち、茎や葉まで食用になる優れものだ。




「お兄様~! こっちはもう耕せました~!」


「さすがセリスだ。そろそろひと休みするか」


「はい、お兄様」




 農地近くの一軒家で休憩する。外は暑いが、日陰は涼しい。セリスがバスケットから水筒を取り出し、コップに注いで渡してくれた。




「お兄様、お疲れ様です」


「おっ、ありがとう」




 コップを口に運ぶと――。




「ぶはっ! 酒だ!」


「お、お兄様?!」


「何で酒なんだ!」


「汗を流した後は火酒が一番かと」




 セリスの酒豪は父ドワーフ譲りだ。母エルフの美貌とは裏腹に、樽でも飲み干す酒量を持つ。




「シャツがびしょびしょだ」


「お兄様、お許しください」


「そうしょげるな。せっかく用意してくれたんだ。今晩水で割って味わうよ」





 しょんぼりするセリスを慰め、俺たちは領主館へ戻った。何だかいい匂いが漂っている。揚げた油とソースの香り。俺の好物の『クシカツ』だろうか。何だか無性にエールが飲みたくなってきた。




「辺境伯様、おかえりなさいませ~!」




 領主館の門をくぐると、玄関前には獣人のメイドがずらりと並んでいた。猫人、犬人、兎人……と、種族は違えど、全員メイド服を着たケモ耳の美少女揃い。しかもみんな胸元がゆるくスカートが短いのですが……。


 目を丸くする俺に、ドランブイが微笑んだ。




「デューイ様より伝えられたというインスぺリアルの郷土料理をご準備しました」


「確かにいい香りがするけど、このメイドたちは?」


「南部から呼びました。領主館の管理と復興の手伝いに。ハヤト様好みかと」


「どういうことだ?」


「最近、ハヤト様が私の胸元や脚に視線をくださるので、喜んでいただけるかと」




 確かにドランブイの服が最近短めになった気がしていたが、俺は無意識に目で追っていたのか? いやそんなはずは……。




「お兄様っ!」


「誤解だ、セリス! 俺はただ――」


「言い訳は聞きたくありません! いやらしい‼」


「そ、そんな……」


「もう、知りません!」




 メイドたちがクスクス笑う中、俺はこの日、濡れたシャツのまま玄関先に正座させられ、異世界料理のお預けを喰らってしまったのだった。

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