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第1話「辺境への道」

 大森林への遠征から一か月。


 俺たちは馬車で辺境へ向かっていた。同乗するのはセリスとモルトだけだ。




「王都追放なんて納得できません! 大森林で一番武功をあげたのはお兄様なのに!」


「武功と言ってもラプトルを斬っただけだそ」


「それでも他の隊なんて何も出来なかったじゃないですか。大体、いきなりお兄様に前線の指揮を丸投げしておいて、退却した責任をとらせるなんてひどすぎます!」




 セリスが拳を握りしめ俺を睨む。軍服の肩がわずかに震えている。




 この度の叙勲の儀において、トーゴ伯爵家の当主である俺は辺境伯の爵位を授かったのだが、賜ったのははるか辺境の地。




「いくら辺境伯といっても、アウルなんて」


「自分も早く王都に帰りたいっす」


「まあ、住めば都かもしれないぞ」


「もう!」




 トーゴ家は伯爵家とはいえ、異世界から転移してきた祖父デューイの血を引くというだけで、王国貴族からよそ者扱いされ、王都では獣人やエルフといった亜人たちを管理する汚れ仕事を担ってきたのだ。今回も遠征の失敗を押し付けられた格好だが、俺としては息苦しい王都を離れることが出来て内心ほっとしているところもある。




「税も出仕も免除なんだ。悪くないだろ」


「アウルなんて辺境すぎて誰も行きたがらないだけっす。赴任が義務付けられたのも帝国の圧力って噂っすよ。トーゴ家なら亜人を使ってどうにかするって貴族連中の思惑じゃないすか?」


「お兄様、何か隠してませんか?」




 セリスの追及に俺は目を逸らし、窓の外に広がる丘陵を見つめた。


 王都では貴族たちの陰謀は尽きず、トーゴ家はいつ潰されてもおかしくないのだ。




「セリス、王都に残ればまた前線に駆り出される。モルトだって貴族に使いつぶされるだろう。辺境ならお前たちを守れるし、祖父が遺したの文献を整理する時間も取れるからな」




 俺の言葉にセリスが目を潤ませ、静かに頷いた。彼女の手が俺の袖をそっと握る。




「ほんと物は言いようっすね。それと、自分の尻尾はクッションじゃないっす!」


「いいじゃないか。減るもんじゃあるまいし」


「何言っているんすか!」




 モルトが俺の背中からもふもふした尻尾を引き抜く。獣人である彼も、元はトーゴ家が管理してきた亜人の一人だ。




「自分は王都の戻りたいんすからね。そこんとこ、忘れないでほひいっふ!」




 モルトは風呂敷から取り出した団子を口に入れながら尻尾を揺らした。


 もきゅもきゅもきゅ……。口いっぱいにほおばっているせいで、両頬が膨れてリスみたいになっている。だが、それって……。




「あっ、お前それ俺の昼メシ!」


「いいじゃないっすか。減るもんじゃあるまいし」


「お前の尻尾と一緒にすんな!」


「んなこといまさら言われても……って、痛っ! ハヤト様のせいで舌嚙んじゃったじゃないっすか」


「自業自得だろうが!」




 もふもふ尻尾を逆立てて逆切れするモルトに、馬車の中の緊張が解けた気がした。


 

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