第11話「ディラノの咆哮」
「ハヤト様、お目覚めでしょうか」
「う……うん」
「すぐ甲板までお越しください」
ドランブイの声で俺は目をこすりながら寝台から這い出た。昨日はモルトのせいで碌に眠れなかった。執事に毛布を掛け直す主人がどこにいるんだ。
甲板に出ると、軍服姿のセリスが立っていた。朝焼けに照らされた銀髪が風に揺れ、鋭い目で俺を見つめている。急いで船べりから外を覗くと、昨日仕掛けた罠の檻が見えた。全てにラプトルが詰まっている。大漁だ。
「檻に入りきらないラプトルは、私たちで追い散らしておきました」
「自分も遠距離攻撃で追い払ってやったっす~!」
セリスが淡々と報告し、モルトが胸を張る。檻の周りには骨や野菜くずが散乱していた。遠距離攻撃とはそれか……。呆れる俺にセリスが顔を赤らめながら近づいてきた。
「そういえば、お兄様。モルトから聞きました。昨晩は寝相が悪くて、何度も毛布を掛けてもらったとか」
「え?」
「心配ですので今晩からは私がお兄様のお世話しようと思うのですが」
「いや、待てセリス!……こら、モルト‼」
「わ、わ、わ! それは言いっこなしっす~!」
俺の形相に慌てたモルトが尻尾を振って逃げ惑う。これ貸しだからな。覚えてろ。
「ハヤト様。檻の回収を急がれた方がいいかと。ラプトルは共喰いの習性がありますので」
「そうだな」
10の檻にかかったラプトルは全部で12頭。複数頭入っている檻もある。ドランブイとしては商品が傷ものにならないうちに早く回収したいらしい。
ラプトルの咆哮が遠くで響く中、檻の回収作業を急ぐことにした。今の所、周囲に異常はない。警戒は俺一人で十分だ。
「セリス、檻の回収を頼む」
「お兄様の側がいいのですが……」
セリスは不満げな声をあげたものの、山エルフ数人がかりでも動かすのがやっとの重い檻をひとりで軽々と引っ張ってくれた。
最後の檻が船に積み込まれた瞬間――。
「ギリャリャリャリャ!」
雷鳴のような咆哮が茂みを切り裂き、巨大なドラゴンが姿を現した。鱗に覆われた体が陽光を跳ね返し、鋭い爪が地面を抉る。ラプトルの何倍も大きな巨体。ディラノだ。
「ハヤト様、危ないっす!」
「お兄様! すぐに助太刀に参ります!」
「セリスには皆を守る任務を与える」
「で、でも」
「それからお前を守るのは俺だ」
「は、はい、お兄様! 命に代えても任務を全うします!」
「セリス様、何デレてんすか」
“バシッ!”
セリスに叩かれ、涙目で尻尾を丸めるモルトを横目に、俺はディラノを見据えた。
どうやら向こうも俺を敵と認識したらしい。大口を開けて威嚇してくる。
「すうう……」
目を閉じ、呼吸を整える。
上体の力を抜き、両手を下げる。
風が頬を撫で、波が砕ける音が聞こえる。
「ギリャリャリャリャ!」
ディラノが突進してきた刹那、『二の型』で剣を横に薙ぐ。爪の軌跡を捉えて叩き落とした。ディラノがよろめき、俺は間合いを詰め、『三の型』の連撃を叩き込む。鱗が砕け血飛沫が舞った。
「チェストー!」
動きの止まったディラノに対し、上段に構えた剣を撃ち下ろす。
“ズダーン”
『一の型』が相手を完璧に捉えた。
剣が袈裟斬りに上体を裂き、轟音とともに巨体が崩れ落ちた。血が土を染める中、俺は剣を収めた。
「きゃーっ、ハヤト様~♪」
黄色い歓声に振り返ると、船べりではネグローニをはじめ、山エルフの船員たちが鈴なりになって声援を送ってくれていた。
◆
仕留めたディラノがネグローニたちによって解体され船に運ばれてゆく。
だが、山エルフたちは俺の前を通り過ぎる度、恥ずかしそうに顔を赤らめ俺に頭を下げていく。中には俺の方を見てこそこそ話している者もいた。
そんな中、ホクホク顔のドランブイが近づいてきた。
「さすがハヤト様です。このディラノの牙、爪、皮、骨そして肉の価値はラプトルの十倍以上はあります。それと……山エルフたちは、すっかりハヤト様の虜のようですね」
「そんな訳ないだろう。俺なんて剣しか能のないボッチなんだぞ」
「戦闘民族の山エルフは強い殿方に惹かれるのです。それから……私も女ですからわかるんです」
「痛っ!」
ドランブイの言葉が終わらないうちに、俺は腕をつねられていた。
「お兄様、あまりお浮かれになられませんように」
「まあ、ハヤト様も年頃の男子っすから仕方ないっすよ」
「お前また要らんことを! モルトがそのつもりなら昨日のことをばらすからな」
「わあっ、それは言いっこなしっす~」
「お、お兄様まさか……」
「いや違う、そっちじゃないから!」
頼むから、変な想像するのはやめてくれ!
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