第2話 再会
「こんにちは、刈谷響さん。」
知らない男に名前を呼ばれ、動揺を隠せない。まずここはどこなんだ、こいつは誰だ、俺はベッドにいたんじゃないのか、数多の疑問が頭を飛び交う。
「あなたは選ばれたのです。」
そう淡々と男は告げたが身に覚えはない。俺はただいつもの退屈な日常を繰り返していただけだ。確かにこの日常に終止符を打ちたいと思ったことは幾度もあるが、こんな形じゃ…
「…誰なんだ」
「それには答えかねます。あなたは聞いたことがあるのではないでしょうか。そして身に覚えはないでしょうか。誰もがその可能性を持っているのにも関わらず、誰もが他人事と誤認してしまう。そんな出来事に」
「…まさ、か」
疑念と逡巡の中に一つの可能性、答えを見出す。
いつも聞こえてくるのに自分には起こり得ないと感じてしまう。
「毎日一人が消えていく…」
「ご名答です。刈谷さん。皆さんは、消える、と仰いますが、そんな物騒なものではございません。あるゲームの参加者になった、ただそれだけです。」
「お前はどこまで知って、てかここはどこな…」
「ルール説明をします。」
第一印象は親切な男だったが、今の行動ですべてが裏切られる。自分の言葉を遮り淡々と説明をするその様子には人として有るまじき温情のようなものが見受けられない。何をさせられるかたまったもんじゃない。恐怖で顔が引き攣るが必死に堪え男の言うことに耳を済ませる。
「今からあなたと同じ境遇の人達に会ってもらいます。そこで【罪人】を決めてもらいます。ルールは至極簡単です。では、他の方々がいらっしゃる部屋へご案内いたします。」
丁寧な口調で恐ろしいことを言う男。言いたいことはごまんとあるが、下手に口を聞くべきでないと本能で感じ、男に従う。
男と暗い廊下を歩く。暗さと淀んだ空気からして地下牢のようなものだと推測するが、禍々しい檻などは存在せず、あるのは長い廊下と少しばかりの扉のみ。日光のありがたみを今一度認識する。
男は一言も発さず、カタカタと革靴が地面と接する音を聞きながら恐怖に支配される。
【罪人】だと?
人間に100%善意に溢れた者など居ない。人間には裏も表も影も光もあるものだ。それを人間の尺度で図り、【罪人】を決めるなど馬鹿馬鹿しくて目眩がする。そしてそれに加担する自分も今からその一部になってしまうのか…
そもそも何を持って【罪人】なのだろうか?犯罪を起こしたからか?人の気持ちを踏み躙ったからか?
自分は【罪人】なのだろうか?
ただひとつ分かっていることもある。それはアイツらだけは【罪人】だということだ。r…
「着きましたよ。」
目の前に大きな扉が聳え立つ。男は慣れた手つきで施錠を外し、軋む音を立てながら丁寧に扉を開ける。
中から暗い蝋燭の灯りが見える。そしてそこに居たのは、
「あんた達誰だ?」
そこには顔も知らない【罪人】の候補者が6人座っていた。
6人と空席が円卓を囲んでいる奇妙な風景に息を飲み、そっと足を進める。
「ここに7人の候補者の皆様が揃いました。事前にルールは説明しておりますが、改めて。今から皆様には4日間かけて【罪人】を決めていただきます。判断材料といたしましてはそちらのモニターに表示されますので、皆さんの普段の行動や言動などから決めてください。では、始めて下さい。」
そんな事言われてたって何を話していいかわからない。誰が最初に口を開くのか、7人に緊張が走る。
「あのー、」
眼鏡をかけた学生と思われる1人の女性が口を開いた。
「私、相原恵というものです。よ、よろしくお願いします。」
「本井則子。こんなとこ早く出たいんだけど。雰囲気も薄暗くて気味が悪いったらありしゃない」
見た目は60くらいだろうか、本井と名乗ったおばさんが愚痴を吐く。
「原司と申します。家庭持ちです。以後、お見知りおきを。」
この中では1番好感が持てる。丁寧な口調のおじさんが名乗った。
そろそろ俺も言うべきか、
「刈谷響。」
適当に名乗った。
「倉本希です。一応モデルやってて、テレビとか出たことありまーす。」
容姿端麗な若い女性。こんな場所に似つかわしい。
「佐々木葵だよぉ。早く帰りたいぃ。てかお腹すいたぁ。」
あぁ1番苦手なタイプだ、と直感する。所謂地雷というやつだ。
「真島。真島健人。」
名前だけを雑に言うあたり、本気でくだらないと思っているのだろう。
ここにいる7人が自己紹介を済ませた。今から【罪人】を決めなければならない。名前の響きからしてその【罪人】にどんな制裁が加えられるのか、恐ろしくて考えたくもない。今からここにいる奴らは一応敵ということになるのだろうか。お互いがお互いの行動を見、簡潔に言えば1番悪いやつを決めるということだ。友情が生まれれば必然と【罪人】となる可能性は下がる。誰かに媚びを売り、自分がなる可能性を少しでも下げるべきか?
そんなことを考えていると、
モニターに電源が入った。