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第4話 イケメンすごい

「おーい。・・・ポボスー。・・・大丈夫かー?」


冒険者ギルドのマスター、ツィリルが、すごく離れた場所から心配そうに言ってきた。

そんな遠くから心配されても、全然心配されてないみたいだ。


俺(new! 呪い付き)は、地面に横たわったまま、空を見上げていた。

今日の空が、やけに青くて綺麗なのだ。

まるで誰も呪われてないみたいな、平和な空の色だった。

俺はまだ、唖然(あぜん)としていた。


「ポポスー。大丈夫かー?」「生きてるかー?」


王国兵の鎧を着た冒険者達も、すごーく遠くから声をかけてきた。

心配してるなら、もう少し近づいてから声をかけて欲しかった。


邪竜アドラを見ると、巨大な体を静かに横たえ、血で赤く濁った目を俺に向けたまま、どこか満足そうな顔をして息絶えていた。


「アドラ」

俺は寝転がったまま、三つの国を滅ぼした伝説の邪竜に呼びかけた。

「おまえ、間違えてたんだよ」


指摘したって、アドラは聞いていないのだ。間違いに気づかないまま逝ってしまった。

凶悪な邪竜の顔が、少し間抜けに見えた。


「ポポスー。どこか痛いかー?」「気持ち悪くなってたりしてるのかー」


冒険者達は近寄ってはこないけれど、遠くからしきりに声だけかけてくる。


「ポポスー。それで、何の呪いだったんだー?」


いや、ほんと。それがさっぱり分からないのだ。

俺は、何の呪いを受けたんだろう。

死ぬのか、溶けるのか、病気になるのか、これから俺はどうなるんだ?

とりあえず今は、どこも痛くないし、苦しくもないけれど、不幸になることだけは決まったんだろうなあ。

これからどうしよう


答えなんてないのだ。

それで俺はまた綺麗な空を見上げた。


邪竜の呪いって・・・

これからどうすればいいんだ?

もし俺が王都で人気の芝居に出てくる可憐な乙女だったら、今頃、いい感じに気絶して、目が覚めるまでの間に、何処かの有能なイケメンが、全部をいい感じにしておいてくれるんだろうけれど、あいにく俺は可憐な乙女じゃなくてただの下っ端冒険者だから、俺の元に有能なイケメンは現れない。

顔馴染みの冒険者達でさえ、遠くから声をかけてくるだけで、近づいてもこないのだ。

・・・自分でどうにかするしかないのか。

でも、邪竜の呪いって・・・どうにか出来るものなのか?限りなく無理っぽくない?


投げやりな気持ちの俺の元に、カツンカツンと力強い足音を響かせながら、やっと誰かが近づいてきた。

アドラの呪いを気にせず近づいてくるなんて、どんな勇者だろうと思って見ると、本物の勇者様だった!


「君、大丈夫かい?」


金色に輝く鎧を着て、金色に輝く剣を手にした勇者マクシミリアンは、驚くほど端正な顔に爽やかな汗を滴らせ、心配げに俺を覗き込んだ。


あまりにも煌びやかな勇者様の美貌に動揺した俺は、まともな返事も返せず、「え?あのっ」と視線を逸らしてしまった。


こんなに綺麗な顔をした男を見たのは生まれて初めてだった。こんな綺麗な顔をした女だって見たことがなかった。

王都を出る時、女の子が「きゃー勇者様ー!めっちゃイケメン!」と叫んでいたけれど、『イケメン』に、『めっちゃ』をつけたくらいでは追いつかないくらいのイケメンっぷりなのだ。

え?何この人。すごい。


動揺し続ける俺の側で片膝を折った勇者様は、国宝の剣を無造作に地面に置くと、不恰好な鎧をつけた俺を優しく抱え起こし、すぐ側から俺の顔を見つめながら、囁いたのだ。


「アドラは呪いと言っていたが、君は呪われたのかい?」



もし俺が『きゃー勇者様ー!めっちゃイケメン!」と叫んでいた女の子だったら、速攻で恋に落ちていたに違いないのだけれど、幸いな事に俺は呪いを受けたばかりの下っ端冒険者の男だったから、なんとか恋には落ちなかった。でも、俺の中にある禁断の何かをゆさ振られた気がした。

何この人!


「い、いえ、あの、だ、大丈夫です」

俺はなんとか頑張った。


それなのに、俺の頑張りを無視するかのように、勇者様は美しい瞳に憂いを滲ませ、心配げに長いまつ毛を振るわせると、

「本当に?」と聞いてきたのだ!

何?この攻撃力!


俺が恋に恋するお年頃のご令嬢だったら、速攻で恋に落ちるほどのイケメンっぷりだったけれど、幸いな事に俺は恋にも幸運にも無縁の下っ端冒険者だったので、

「・・・大丈夫です」

となんとか答えられた。


いや、でもイケメンの破壊力すごい。


「勇者様!すぐそいつから離れてください!呪いを受けた男に触るなど危険です!」


誰かが遠くで叫んでいる。

多分、騎士団の誰かだ。

俺は騎士が警告するほど危険な男になったのだ。


しかし、爽やかイケメンは、俺を安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だよ。騎士団長。私には呪いは効かない」

「勇者様に数々の加護があるのは分かっておりますが、邪竜アドラの呪いですよ!」

「邪竜アドラの呪いでもだ。私に呪いは届かない。精霊が守ってくれている。そうだろう?」


爽やかイケメンが辺りを見回すと、イケメン周りの空気が華やいだ気がした。

イケメンに寄り添い守護を固める精霊達が、イケメンの信頼を喜んでいるみたいだった。


でも、そうか。と、俺は邪竜アドラに目を向けた。

おまえが間違えずイケメンに呪いを投げつけても、結局呪いはイケメンには届かなかったんだな。


安らかな死に顔を俺に向ける邪竜アドラが、急に気の毒に思えた。


B L展開にはならないです。勇者がイケメンすぎるだけです。

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