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第3話 邪竜アドラの呪い

邪竜アドラ討伐へ向かう行列は、待ち構えていた王都の人々に大歓迎された。


王都に向かって邪竜アドラが近づいているという噂があり、王都から逃げ出す人も増えたせいか、待ち構えていた人数はそれほど多くはなかった。

それでも声の限りに叫んでいたのだ。


「勇者様!どうか、王都を、我が国を救ってください!」「勇者様!ガンバってください!信じてます!」「勇者様ぁー!きゃー!めっちゃイケメン!」


大騒ぎだった。

勇者様は、王都の人々に、これほど人気があったのか。


勇者様の後ろには、騎士団や兵士達の長い行列が続いていたが、人々はただただ勇者様の方だけを見つめていた。行列が進み、勇者様が遠く見えなくなっても見つめていた。


だから、行列の後ろの方で起こっていた、王国兵の鎧を着た冒険者同士のひどい(いさか)いは、王都民に気づかれなかったと思う。たぶん。


「今、ぶつかってきたよな!」

「はあ?うるせえな。おまえがフラフラしてるだけだろ」

「なんだと!やるか!?」

「やるよ!」

「はーい。残念なお知らせでーす。君たちの報酬、今、減額されましたー。殴り合いしたら、更に減額ぅー。更に更に、僕がムカついたら、後から僕にぶっ飛ばされまーす。僕、記憶力いいから・・・忘れないよ・・・」


冒険者ギルドマスターのツィリルによって、冒険者達の報酬が次々と減額されて行くのを眺めながら、俺は進んでいった。

満額で報酬をもらえるのは、俺だけかもしれない。


邪竜アドラ討伐の一行は、熱烈な王都民に見送られながら、王都を囲む外壁の堅牢な門を抜け、更に進んだ。


進んだ。

進んだ。

進んだ。


・・・・。


進むのはいいけれど、これ、何処まで進むんだろう。


王都から続く道の向こうには、《王の盾》と呼ばれる巨大な岩山があった。この道はあの《王の盾》の手前で左右に分かれ、それぞれの場所へと続いて行くのだ。

邪竜アドラは、そのどっちかにいるんだろうか。


でも、俺は重い鎧のせいで、もうすでに限界なんだけど、・・・まだ進むの?


邪竜アドラが今、何処にいるのか、王宮は公表していなかった。ここ数ヶ月は王都に入ってくる者もほとんどなく、入ってきても邪竜アドラについては固く口止めされている者ばかりだった。情報は厳重に伏せられているのだ。


何処に向かっているのかも分からないまま、冒険者達は進んでいた。


「おい、ツィリル。これ、いつまで歩けばいいんだ。っていうか、アドラって、今、何処にいるんだよ。何日も歩くのか?」


とうとう冒険者の一人が、ツィリルに聞いたのだ。


「そんなに歩かなくて大丈夫だよー」

ツィリルは、チャラく言った。


「ほら、あそこにいるでしょー」

「あそこに・・・いる!?」


ツィリルがチャラく指さしたのは、皆で進む道の真っ直ぐ先にある岩山《王の盾》のてっぺんだった。


・・・さっきまでは、確かに、ただの岩山だったのだ。

それなのに今は、その岩山のてっぺんから、巨大な竜が赤黒い顔を出していた。


あれが邪竜?

あんなにデカいの?

こんなに王都の近くまで来ていたのか?


まるでひどい悪夢みたいだ。

いや、悪夢であってくれ。

邪竜が俺たちの方を見ているのが、現実なんて嫌だ。悪夢の方で頼む!


「立ち止まらないで!」


あまりの光景に立ち止まる冒険者達に、ツィリルが叫んだ。


「大丈夫だよ!勇者様を見て!勇者様の方だけを見て歩くんだ!」


そんな事言ったって、勇者様は行列の一番前にいて、後ろの方にいる俺たちには見えなかった。


「勇者様の方をよく見るんだ!」


ツィリルが、何度もそう叫ぶので、目を凝らして見てみると、世界が濃く揺らぎながら、勇者様の方へと集まって行くのが見えた気がしたんだ。


「勇者様の上で力が揺らいでるのが見えるでしょ。二十五の精霊達が集まってきている。あの勇者様は勝てるよ!だから進むんだ!勇者様の近くが一番安全な場所だ。生き残りたいなら、置いていかれるな!進め!」


邪竜アドラに睨まれながら、俺たちは必死になって歩を進めた。勇者様について行くことは、邪竜アドラに近づいていくことだった。

古参の冒険者達の足も震えていた。誰も走る事は出来なかった。

ツィリルだって、チャラいながらも緊張した足取りだったんだ。


その間にも、邪竜アドラは岩山の上に体を出し、巨大な翼を広げ、遂には空を飛んだ。

真っ直ぐ、こっちに向かってくる!

なんて大きさだ!

もうダメだ!

なんでこんな所に来ちゃったんだろう。絶対ツィリルに騙されたんだ!

邪竜アドラは、俺たちを踏み潰そうと、真上から降りてきた!


絶望して迫ってくるアドラの足の裏を眺めていると、勇者様の方から竜巻のような風がわき起こり、アドラの方へと向かっていった。


俺達は吹き飛ばされないように、必死に地面にしがみついた。

そしてなんとか空を見上げると、邪竜アドラの巨大な体が、まるで突風に巻き込まれた小鳥のようにクルクルと空へ舞い上がって行くのが見えたんだ。


邪竜アドラは、空でたっぷり回転させられた後、誰もいない地面に叩きつけられた。地震のように大地が揺れた。邪竜アドラは「きゅううう」と、あの巨体からは考えられない、哀れな声で鳴いていた。


騎士団達が、邪竜アドラに向かい、半円形の陣を作り始めた。


「さあ、僕たちも、あの後ろに並ぶよ」


ツィリルに急かされて、冒険者達も騎士団の後ろに付いたのだ。

俺は下っ端冒険者なので、一番左端の一番後ろに付いた。


勇者様がやっと見えた。

勇者様は馬から降り、邪竜アドラに向かって歩いていた。あの立派な体躯の馬も、勇者様にとっては足手纏いなのかもしれない。

勇者様の鎧は金色に光っていた。右手に抜き身で持った大剣も、眩しいほどに輝いていた。まるで神様みたいな姿で進んでいった。

ゆっくりと身を起こし始めた邪竜アドラが、体がデカいだけの哀れな竜に見えてきた。


「いけるな。勇者様」

「いける。いける」

「勝てるな。勇者様」

「絶対勝てる」


冒険者達は小声で(ささや)きあっていた。

下っ端冒険者の俺も「頑張れ勇者様」と(ささや)いたのだ。


三つの国を滅ぼし、我が王国まで滅ぼすのかと思われた邪竜アドラは、まるでちっちゃなトカゲみたいに勇者様にやられていった。


邪竜アドラが口から吐き出した炎は、勇者様が軽く上げた手により、ふわりと止められた。

邪竜アドラが踏み下ろした足は、勇者様の軽く上げた剣によって、切り落とされた。

勇者様が光る剣を振り下ろす度に、邪竜アドラの傷が増えていった。

見ていると気の毒になってくるぐらい、邪竜アドラは為す術もなくやられていった。


そして勇者様が真横へ切った剣により、邪竜アドラはまた吹き飛ばされ、俺の前の地面に叩きつけられた。

邪竜アドラが、また弱々しく「キュウゥゥゥ」と鳴いた。頭から流れ出た血で、アドラの目が真っ赤に染まっていた。


俺は、「すげえ」「すげえ」と呟きながら、魅入られたように目の前の邪竜アドラを見つめていた。

この悪辣な竜も、遂に最後の時を迎えるのだ。


それから、もっとすごい事が起こった。

邪竜アドラが、巨大な黄色い牙を見せつけるように口元を引き攣らせると、聞き取り辛い、くぐもった声で喋ったのだ!


「我が人などに負けるとはな。・・・ふん。いいだろう。我はここで死ぬことにする。しかし、我を倒した人よ。おまえをただ喜ばせる事は赦し難い。我を倒したおまえには、死よりも恐ろしい呪いをくれてやろう。ふふふ。ふふふ」


え?アドラって、人間の言葉を喋れるの?


俺は驚いて邪竜アドラをしばらく見つめていた。

正直なところ、その時の俺の気持ちはただの見物人だった。勇者様の強さや、邪竜アドラの巨大さに、ただ感心しているだけの気軽な見物人だったのだ。


でも、突然、気がついた。

なんだかすごく、見通しがいい。あれ?俺の前に並んでいたはずの騎士様達が、ごっそりいない。隣に並んでいたはずの冒険者達もいなかった。


辺りを見回してみると、騎士達も、冒険者達も、ツィリルも、とっくに遠くに退避して、俺の方を見つめていた。

勇者様だけが、先ほどと同じ場所で、大剣を手に、こちらを見ていた。


あれ?それじゃあ、アドラは俺に話しかけてるのか?

え?もしかして、俺を呪うって言ってるの?


「いやいやいや」と俺は言い訳するように呟いた。


でも、すぐ前にいる邪竜アドラの血で曇った目は、真っ直ぐ俺を見つめている。


「いやいやいや」と、誤魔化すように俺は言った。「間違えてるよ!」


邪竜アドラは、俺の言葉など聞いていなかった。

「我を倒した強き人よ。我が呪い。受けるがよい」


「ち、ちょっと待ってくれ!勘違いしてるから!俺はここに立ってただけだから!俺は、おまえを倒してないから・・・!」


しかし瀕死のアドラは、最後の力で体を震わせ、臭い息と、黒い霧のような呪いを俺に向かって吹きかけたのだ!


臭い息は俺を吹き飛ばし、さっきの邪竜アドラみたいに、俺を床に叩きつけた。


痛みと臭さで「きゅうぅ」と憐れな声を上げた俺に、黒い霧がまとわりつき、やがて俺の体に染み込んでしまった・・・。



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