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第8話『生憎となぁ! あの日からずっと正気なんだよ!!』(オーロ視点)

(オーロ視点)




ミラと瞬が教会から出て行ってから、俺はこの教会の中庭に出て、ジルスターの教会にもあった様な大きな木に寄りかかり、目を閉じていた。


こうしていると思い出すのは、ジルスターで過ごした日々の事だ。


偶然アマンダと出会ってから、流されるままに教会で生活する様になって、初めは戸惑っていた子供達も同じ時間を過ごす内に慣れていったのか、俺に対しても遠慮なく接する様になっていった。




『なぁなぁオーロ!』


『オーロさん、だ。このクソガキ』


『へっ! 偉そうにしてるけど、最初ボロボロだったし。弱っちいんだろー!?』


『生意気なガキだな。ったく』


『ごめんなさい。オーロさん。失礼な事を』


『気にするな。アマンダ』


『ほらー気にするなって言ってるぜ姉ちゃん』


『そーそー!』


『お前らには言ってねぇよ! クソガキ共! オラっ! 年上に対する態度って奴を今日は教えてやる!』


『うわー!』


『逃げろー!』




ドタバタとガキどもに合わせた速度で走り、捕まえてはくすぐって負けを認めたら解放する。


そんな事をやって、クソガキ共も、子供たちも、アマンダもよく笑っていた。


そして、俺も……おそらくは人生で最大の幸福を味わって笑っていた。


本当に楽しかったのだ。


最高の日々だった。




『なぁなぁオーロ』


『どうした。アレク』


『俺もさ。傭兵になりたいんだけど、どうすれば良いんだ?』


『諦めろ』


『なんでだよ! 傭兵って儲かるんだろ!? なら……』


『バァカ。お前に傭兵なんて向かねぇよ』


『はぁー!? バカにすんなよ! 俺だって強いんだからな!』


『そうじゃねぇよ。強いかどうかってのは重要じゃねぇんだ』


『はぁ?』


『アレクシス。お前、人を殺して金を手に入れて、それをアマンダやヴィルヘルムに言えるか? 金の為に、俺たちが幸せになる為に、誰かを不幸にしてきたんだって、癒えるか?』


『っ!』


『アレク。お前はアマンダやお前の事が好きな妹や弟の事を裏切れないだろ? だからな。お前に傭兵は向かん』


『……でも』


『だからな。俺がとっておきの仕事を教えてやる』


『え?』


『その名も冒険者だ。まぁ稼ぎは確かに傭兵よりも悪いが、それでもお前がその手で人助けをしてるって聞いたら、アマンダは喜ぶぜ』




俺はアレクの腹に握りしめた拳を軽く当てる。


アレクはそんな俺を見て頷き、この日からアレクやヴィルを鍛えてやった。


そして、あの日も。


二人は鍛えた腕で教会の子供たちやアマンダを守る為に、戦っていた。


ボロボロになって……助けに来た俺の手を握りしめて、アマンダを助けてくれと、子供達を守ってくれと言っていた。


結局俺は……何も守る事が出来なかったワケだが。




「オーロさん」


過去の記憶に沈んでいた俺は、不意に聞こえて来た声に顔を上げた。


そこに居たのはあの日々と何も変わらない笑顔を浮かべたアマンダだ。


まるであの日に起こった全てが夢であったかの様に、当たり前の様に俺を見て笑っている。


「どうした。アマンダ」


「いえ。お一人で何をされているのかな。と思いまして」


「特に、何もしていないさ。昔もこうしてここで眠っていただろう?」


「そういえば。そうでしたね」


アマンダは俺の隣に座り、俺に体を預けながら同じ様に中庭を見つめた。


本当に似ているのが見た目だけなんだな。




『オーロさん! ひなたぼっこですかー? 気持ちよさそうですねぇ』


『ならお前もすれば良いだろ。ほれ。隣に来いよ』


『えぇぇええ!? よ、よろしいのですか!? 隣同士で座ったら、それはもう夫婦では無いでしょうか!?』


『んなワケねぇだろ。それとも何か? 飯の度に俺の隣に座るリーニャは俺と夫婦になったってのか?』


『た、確かに。そうですね。リーニャちゃんはオーロさんの事が大好きなだけですもんねー……って! まさか!? まさかオーロさん!?』


『何を想像してんだお前は。リーニャはまだ9歳だぞ。何が起こるってんだ何が。15年は何もねぇよ』


『じゅうごねん』


『……なんだよ』


『いえ。私、今15歳なんですよ』


『そうか』


『なので、後9年かーと思いまして』


『バァカ』


『わ、わわ』


『そんなに俺が待てねぇよ。お前が望むんなら明日にでも夫婦になりてぇくらいだ』


『お、おおお、オーロさん!?』


『ま。手を出すのはまだまだ先だろうがな。流石にガキを抱く趣味はねぇ』


『もう! オーロさん!!』


『ワッハッハ。いい女になれよ。アマンダ』


『もー! 恥ずかしいですから! 離してください!』


『もう少し良いだろ』


『抱くのはまだ先だって言ってましたのに』


『そういう抱くじゃねぇって……ん? アマンダ。お前、香水でも付けてんのか? なんか良い匂いが』


『キャー!! きゃあ! 離れて下さい! もう!』




騒がしくて、いつだって落ち着きがなくて、でも不思議と誰もが慕っていた。


悪意なく、純粋なアマンダが幸せである様にと祈っていた。


そして、アマンダの愛する子供たちが幸せである様にと願っていた。


だから……。


もうアマンダを安らかに眠らせてやろう。


「……なぁ、アマンダ」


「なんでしょうか。オーロさん」


「お前、これからどうするつもりだ」


「そうですね。出来ればオーロさんと一緒に居たいです。いつまでも」


「そうかい。なら、残念だが、俺とは意見が違うな」


俺は懐からナイフを抜きアマンダの胸目掛けて突き出した……が、アマンダは超人的な動きでそれをかわすと、地面を蹴り、遠く離れた場所まで跳んで行く。


なるほど。良い反応だ。


「と、突然何をするんですか!? オーロさん!」


「アマンダは綺麗な道の上でも転ぶし、教会の中を歩いていても椅子に足を引っかける様な女だった」


「そ、それは……生まれ変わってこうして、大丈夫になったんです」


「あぁ。そうかい。なら……もう一度地獄へ行け! このクソ野郎!」


俺は地面に置いておいた大剣を持ち、それを振りかぶる。


そして離れた場所に居るアマンダに向かって飛び込み、勢いよく振り下ろす。


「俺を愛してるんだろ!? なら大人しく斬られてくれ!」


「オーロさん! 正気に戻って下さい!」


「生憎となぁ! あの日からずっと正気なんだよ!! 狂った方が楽だったが、それも出来なくてね!」


「っ!」


「これ以上、その姿で動いてくれるなよ! 偽物が!!」


「くっ! まさか気づいていたとは……!」


アマンダだった奴は、その姿を変え地面に両手を付ける。


瞬間、教会の中庭から闇が噴出した。


あの時、ジルスターで見たものと同じ、黒く、底の見えない夜の闇を切り抜いた様な絶望の世界だ。


「バレた以上は仕方ない。ここで貴方を処理して、あの子の所へ向かうとしましょう。もう少し時間が欲しかったけれど、贅沢は言えないわ。今はまず一つの結果を求めるとしましょう!」


変身の魔術だったのか、顔や体すら変わったソイツは周囲を黒い人型に囲まれながら怪しく笑う。


「お前……! アダラードの仲間か!?」


「アダラード?えぇ。その通りよ。同志アダラードは我らの仲間。そう! 私たちは闇神教! 光聖教の連中に追いやられ、歴史の影に潜んでいた真なる神の代行者! 私たちの目的は! 偽りの歴史を砕き! 真なる歴史を呼び起こす事!」


「そうかい。なら……俺の敵だ!!」


俺は大剣を構えながら女が生み出した多数の黒い人形に向かって切りかかるのだった。

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