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第7話『……アメリア様。聖女様方。私に力を貸してください』

ローリーさんの話が終わり、再び暗い世界に落ちていった私は、その中で多くの人の声を聞いた。


嘆き、悲しみ、苦しみ、絶望。


そして……怒り。


理不尽に殺された事。


自分たちの命を使い、自分たちが慕うローリーさんのお姉さんを苦しめた事。


それらを許容した国連や、何も知らず、呑気に生きている人達への憎しみ。


この世界を壊してしまいたいという衝動。


それが全て私に向かって覆いかぶさって、私のちっぽけな精神をその感情の波で押し流そうとしていた。


しかし、このまま押し流されてしまえば、きっとこの憎しみは大きな力となってこの世界を終わらせてしまう。


そうなれば、私の愛する人たちもまた、この憎しみの中に囚われ、永遠に終わらない悲しみの中に沈んでしまうだろう。


そんな事は嫌だ!!


私は闇の中でカッと目を開いて、両手を強く握りしめ、この暗闇の世界に囚われている人たちに光の魔術を使う。


この行動に意味があるのかは分からない。


でも、光の魔術は光の聖女アメリア様が世界に残していったものだ。


暗闇で、苦しむ人を照らす事だって! 出来るはずだ!!


「……アメリア様。聖女様方。私に力を貸してください」


両手を握り合わせて、祈る。


世界に光をもたらしたアメリア様に。


そして、そんなアメリア様の意思を継いで、世界を照らし続けた聖女様たちに。


私はこの暗闇の世界で囚われている人達を救うべく、祈った。


その祈りが届いたのか、私の前に大きな光と共に一人の女性が現れた。


『ミラさん。私の声が聞こえますか?』


「っ! はい! 聞こえます!」


『私はオリヴィア』


「オリヴィア様……といえば、アメリア様の後を継いで、魔王と戦ったお方ですね!」


『……』


「あれ? オリヴィア様?」


『ミラさん。一つ聞かせて下さい。私は貴女の時代にどの様に伝わっているのですか?』


「えと、書籍等でオリヴィア様の記載はそれほどありません」


『……なるほど』


「ですが、私はここでおかしいという事に気づいたのです!」


『おかしい。ですか?』


「はい! オリヴィア様もイザベラ様もそうですが、お二人が存在した時代には多くの事件が起きており、それは全て解決されているにも関わらず、お二人の名前が少しも出てこないのです!」


『ま、まぁ、私たちも完璧ではありませんから、そういう事もありますよ』


「いえ! それはあり得ません! 何故ならお二人が移動した記録を見れば、間違いなくその現場まで向かっているのです。つまり、お二人はそれぞれの時代で事件に立ち向かった。しかし、その記録は残っていない! つまり、これは何者かによって消されたという証!!」


『……は、はわ』


「勇者ルーク様も、おそらくは同じ様に消されたのではないかと私は推察しております。そこで過去に起こった歴史の事件をひも解いて、全世界に「ミラさん!」っ、は、はい!」


『貴女の素晴らしさはよく分かりました。本当に、よく、分かりましたから。その件はそれ以上深入りしない様に。また、世界にも広めないで下さい。良いですね?』


「え? ですが、これはオリヴィア様の名誉に関わる問題で……」


『ミラさん』


「……はい」


『真実を語りましょう。実は私もイザベラさんもルークさんも、非常に、非常に! 目立つ事が苦手だったのです。ですから、私たちは自分たちの記録を自分たちで隠しました』


「そ、そうだったのですか!?」


『はい。ですから、それが公開されてしまうと、私たちも非常に困ってしまいます。ミラさん。どうか私たちを救うと思って、この件は誰にも言わず飲み込んで下さい』


「分かりました! 私、ミラ・ジェリン・メイラーは、オリヴィア様やイザベラ様、そしてルーク様の行動について秘匿します!」


『ありがとうございます』


私は右手を上げ、オリヴィア様に応えてから偶然知ってしまった歴史の真実に震えていた。


オリヴィア様との約束がある為、公開する事は出来ない。


出来ないが……! やっぱりオリヴィア様もイザベラ様もルーク様も素敵な人だったんだ!!


「~~!」


『ミラさん?』


「あ! 申し訳ございません! ちょっと感動に震えていました! 私が幼い頃から憧れていた方が本当に、素晴らしい聖女様と勇者様だったのだと知る事が出来て!」


『憧れ……ですか』


「はい! 特にルーク様の冒険譚は子供の頃から大好きで! 何度も、何度も読んで……私もいつか世界に旅立ちたいと思っていたのです!」


『なるほど……それはきっとルークさんも、それにソフィアさんも喜びますね』


「ソフィア様! 歴史上初めて実戦での複数属性の複合魔術で魔王と戦った偉大なお方ですよね!? 確か記録に残されているご両親は本当のご両親ではなく、妖精の力を受け継いだ方の子供で、扱える属性も」


『ミラさん。落ち着いて下さい』


「はっ! も、申し訳ございません。私ったら、また興奮してしまって」


『いえ。ミラさんはまだ若いですから。感情を抑える事が難しいのは分かります』


「……はい」


『ですが、世の中には自分の秘密を隠したいと考えている方も多くいます。そういう方の事を忘れてはいけませんよ』


「申し訳ございません。オリヴィア様」


『知らぬ事、気づかぬ事、間違える事。それは誰もが起こしてしまう事です。ですが、あやまちを正してゆく事が出来るのも、また人間です。良いですね。ミラさん』


「はい。気を付けます」


私は両手を組み、オリヴィア様に頭を下げて自らの罪を謝罪した。


そして、そんな私をオリヴィア様は許して下さり、またこの世界での解決方法も教えて下さるのだった。


『話は大分逸れましたが、あまり時間もありません。まずはここから脱出しましょうか』


「はい!」


『では手を』


私は伸ばされるオリヴィア様の左手に右手を合わせ、そして握る。


『良いですか? ミラさん。怒りも憎しみも、無理に消そうとしてはいけません。何故ならそれもまたその人の一部なのです』


「はい」


『心を研ぎ澄ませて、よく聞いてください。彼らの声を』


「……はい」


私はオリヴィア様の手から伝わってくる温かい力を感じながら、私の体を通して世界に伝え、彼らの想いを……癒す。


「これが、アメリア様の願い」


『そうです。アメリア様は闇を否定しません。憎しみも怒りも。人が生きる以上、必ず存在する物。ですから、私たちが行うべき事は……』


「傷ついた人の心と体を癒す事!!」


私は癒しの魔術を使い、この闇に覆われた世界に存在する人の心を癒してゆく。


そして、その力は私が何をやっても変わらなかった世界に僅かだが光を与えた。


「……これが、彼らの本当の願い」


『そう。サルヴァーラの方々が本当に心から望んでいたのは、彼らの事を想い、最後の瞬間まで彼らを守る為に独り戦い続けていたエレノアさんを救う事』


私はその僅かに見えた光の向こうで眠り続けているローリーさんのお姉さんであるエレノアさんへと癒しの魔術を使う。


オリヴィア様の力も借りて放たれた癒しの魔術は、エレノアさんの心と体を癒し、長い眠りから目覚めさせるのだった。


【あぁ……】


【ありがとう。聖女様】


【エレノア様に救いを】


【どうか、エレノア様に幸福を】


エレノアさんが目覚めた事で、私の周囲を覆っていた暗い闇が砕け散り、世界に光が戻ってゆく。


『ミラさん』


「はい!」


『私が協力出来るのはここまでです。これより先は貴女が自らの力で進む道。貴女の活躍を見守っていますよ』


「ありがとうございます。オリヴィア様! 私、行きます!!」


私は現実世界に戻ってきたことで、ベッドから飛び降りて、この閉じ込められら空間から出るべく入り口に向かって走ってゆくのだった。

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