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第2話『……アマンダ』

怪しげな言葉を残して消えた占い師さんの居た場所を覗き込み、何か情報が無いかと探していたのだが、明らかにおかしな貼り紙を見つけ、私はそれを剥がした。


そして、書かれた文字を解読しようとしたのだが、公用語で書かれており、特にその必要はないようだった。


「なるほど。用意が良いですね」


「それは?」


「どうやら地図みたいです。場所としてはここからそれほど遠くは無いですね」


「……なるほどな」


私の言葉にオーロさんは一言呟いて、そのまま黙ってしまった。


そして、シュンさんも何も言わず、ただ黙って私を見ている。


これはどうするべきなんだろうか?


いや、普通に考えれば行くべきじゃない。


私の記憶が正しければ、地図の場所は既に滅んだ街だ。


確か酷い流行病で国家連合が住民を避難させ、街を封鎖したと記録にはあった。


そんな所に近づいて、病気になっても大変だし。もしかしたら魔物や危険な人が住み着いているかもしれない。


だから近づくべきじゃない……。それは分かっているのに。


ただ一点。死者に会えるという点だけが私の頭で引っかかっていた。


だって、オーロさんもシュンさんも酷い事件で大切な人を亡くしているのだ。


もしもう一度会えるのなら、会いたいだろう。と思う。


「……オーロさん」


「正直な事を言うとな。気にはなっている。しかし……」


「オーロさん! なら行きましょう! 気になっているんでしょう? アマンダさんに、孤児院の子たちにまた会えるかもしれないんですよ!? もうこんなチャンス無いかもしれません!」


「冷静になれミラ。誰がどう考えてもおかしい話だ。罠だと考えるのが自然だろう」


「それでも、罠じゃないかもしれません」


「ミラ……」


「良いじゃ無いですか。罠なら罠で、こんな酷い罠を仕掛けるなんて、酷い! って怒って、暴れちゃいましょう! こんな酷い事を思いつく人がもし居るのなら、私、絶対に許さないです! ほら! 最近私、体を鍛えてるんですよ! ふんふん! えいやって叩いちゃいますから!」


私は両手を握りしめて、そのまま風を切る様に拳を繰り出した。


うーん。我ながら強くなった!


「だから。だから……もし少しでも可能性があるなら、オーロさんの心に引っかかっているなら、行きませんか?」


「……瞬」


「俺は構わん。何が出ようが斬り捨てるだけだ」


「そうか。分かった。なら行こう。その死者の都とやらへ」


「はい!」


私は手を挙げながら元気よく返事をして、オーロさん達へ向けていた地図を改めて見る。


どうか、この都に救いがあります様にと祈って。




占い師と出会った街を出て、数年は整備されていない道を歩いていた私たちは、道の果てに見晴らしのいい場所に出た。


その場所は大きな木々も背の高い草もなく、歩きやすい綺麗な丘だった。


そして、丘の上まで登ると、その先に大きな街が見える。


丘との高低差が大きいのか街の全体が見えるのだが、だいぶ大きな街の様だ。


しかし、大きいとは言っても、その殆どがの農地や畜産で使っている土地の様で、実際に人が住んでいると思われる家はそこまで多くない。


静かでいい場所に見える。


「なんでしょうか。不思議と落ち着く景色ですね。それに風が気持ちいい」


私は両手を広げながら風を受けて、息を大きく吐いた。


そして振り向きながらオーロさんとシュンさんに笑いかけると、二人は何とも言えない微妙な顔をしていた。


「どうしたんですか? 二人とも」


「いや、何でもないぞ」


「そうだな」


「んんー?」


何だか変な感じだ。


まるで二人して何かを隠している様な感じ。


いや、隠している訳じゃないのか。


ただ、何を言って良いか本当に分かっていない様にも見える。


おそらくは現実に街が見えてしまった事で緊張しているんだろう。


当然か。オーロさんもシュンさんも過去の話をする時は本当に辛そうだったし。実際に辛いのだと思う。


ならば、死者に会う事が出来るというのが本当であれ、嘘であれ、この道を下ればその結果が見えてしまうとあれば、緊張もする。


うーん。そう考えるとやっぱり止めた方が良かったのかな。


どうなっても傷つくだけなら……。


「オーロさん。シュンさん。私の我儘になりますが、やはり……「オーロさん? もしかして、オーロさんですか!? 本当に!?」っ!?」


二人にやっぱり帰りませんか? と言おうとした私の背中からオーロさんの名を呼ぶ声が聞こえ、オーロさんが目を見開く。


信じられない物を見てしまった時の様に。


そして、零れる様な声で、私の背後に居るであろう人の名を呟くのだった。


「……アマンダ」




街を見下ろす事が出来る丘の上で出会った人――アマンダさんの案内により、私たちはサルヴァーラの街にあるアマンダさんの教会へと足を踏み入れた。


正直罠の可能性はあった。


というか罠の可能性が高い。正直罠の予感しかしない。


だって、街を見て、オーロさんもシュンさんも行く気が無くなり始めてて、私が止めようかと提案しようとした瞬間、オーロさんが求めていたアマンダさんが現れたのだ。


誰がどう考えたって怪しい。


私たちを街へ入れたい誰かがアマンダさんを差し向けたとしか思えない。


思えないけれど……。


それでも、アマンダさんの姿を見た後、酷く苦しそうな顔をしたオーロさんが少しだけ嬉しそうな顔をしたのだ。


心の底から安堵した様な顔をしたのだ。


あの顔を見て、オーロさんに罠かもしれないとか、危険だとか、帰ろう。なんて言う事は私には出来ない。


罠でも良い。


偽物でも良い。


今、この瞬間にオーロさんの心が安らぐなら、私はそれで良いと、そう思うんだ。


でも本当に罠だったり、あのアマンダさんが偽物だったら私は絶対に許さないから。


なんてことを、教会の祈りの間で、どこかへ行ってしまったアマンダさんが帰ってくるのを待ちながら考えるのだった。


「む」


「どうした? ミラ。手を握りしめたりして」


「オーロさんを泣かせる人が居たら、私が懲らしめようと思ってました」


「そうか。それは良い」


シュンさんは私の頭をポンポンと軽く叩いて、椅子から立ち上がった。


そして、教会の祈りの間から外へ向かって歩き始める。


「……っ! おい。シュン。どこに行く?」


「感動の再会という奴を邪魔する趣味は無いんでな。俺はその辺りを散歩してくる。どこかに甘味処があるかもしれんからな」


「そうか」


私はシュンさんの言葉を聞いて、椅子から飛び跳ね、シュンさんの背中に向かって走る。


「わ、私も外に出てます! 子供なので! 大人同士の関係は、見ないようにします!」


「お、おい! ミラ!」


「ごめんなさーい!」


私はシュンさんの後を追って、教会の外へと飛び出した。


本当は一人にしない方が良いんだろうけど、でも罠じゃない時は二人きりが良いだろうし。


落ち着いて話す時間に部外者は邪魔なだけだ。


「はぁ……」


「どうした。ミラ」


「何だか、どうなるのが正解なのか。まったく分からなくて、ため息を吐いちゃいました」


「人生なんてそんなものだ」


「そうなんですか?」


「あぁ。そうだな。だからこそ、俺たちは悩んで迷って、考えて、それでも進むんだろう?」


「……そうですね」


私はシュンさんと手を繋ぎながら何処へ行くでもなく、街の中をさ迷う様に歩くのだった。

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