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第9話 バケモノノマチ

 僕達はプレイアさんを待たせてはいけないと思い、雨上がりの道を突っ走った。

 1回か2回は足を滑らせたが、それでも決してやめなかった。そして急いで店内へ飛び込み、席へ戻る。そこには必死にタブレット端末と向き合うプレイアさんの姿があった。

 立体映像で、誰かと通話しているのが分かった。


「はい、分かりました。多分、そろそろ……あ」


 プレイアさんが後ろを振り返ると、僕達と目が合った。


「ちょうど来ました。はいアランくん。電話代わってもらえる?」

「え……えぇ⁉︎」


 その通話相手が誰だか分かり、店内に響くくらいの大声で驚いてしまった。

 ガタイの良くて金髪で、鋭い目つきの男性。ドラゴン型のバケモノの皮でできたスーツを着てないから一瞬わからなかったけれど、間違いなくドラゴンバースだ。


『アッハッハ! 大きな声でリアクション、元気の良い新入りだな』

「は、はい! 元気の良い新入りです!」

「おい、自分で何言ってるのか分かってねぇだろ?」

「本当にドラバース好きなんだ……」


 憧れのドラバースと話せるなんて、これ以上の夢はない。死んでも良いと思えるくらい、心の底から幸せを感じている。


「で、何の用だ? 今こっちにいねぇだろ」

『あぁ。そこにいるアランの力で、バケモノ対策できると思ってな』

「はい、なんでもします!」

「ちょ、ちょっと待ってね」


 僕の目の前に映っているドラバースを消して、通常の通話モードにしてタブレットを持ち、プレイアさんはなにやらコソコソと話していた。


「あ~……仲悪いんだ、プレイアとドラバース」

「へ、へぇ~……不仲説ってあったけど、本当だったんだ」


 そんな会話を気に止めることなく、プレイアさんはコソコソと通話している。話の内容が気になって仕方がなくって、聞き耳を立ててみると、どことなく彼女の声が尖っているように聞こえた。


「ありゃ当分終わりそうにねぇぜ。先に注文しとこうか!」

「え、あ、うん」


 テイラに促されるまま、僕はテーブルの座席側にある注文ボタンを押して、オーダー用の立体映像を出した。

 それに気付いたのか、電話をしながらプレイアさんが真っ先に注文をしていく。ながら作業ができるなんて、流石は有名ヒーローだ。


「……それにしてもさぁ。テイラって本当にセンチだよねぇ」

「ウッセェな」


 なんだかんだ言っても、こういう風に笑い合える関係なのって僕達だけな気がする。

 そんなことをふと思いながら、僕はあるものを手の甲に描いた。

 --それは1つの町並みだった。もちろん、実現化はしても、ミニチュア程度という欲を出しながらの能力だから、それ程度のサイズだが。


「おい、机のスペースなくなるだろ」

「アハハ、でも……この町、覚えてない?」


 そう。僕が書いたのは、僕とテイラの関係が始まったあの町。そして、今では、あの日のバケモノ騒動がずっと続いていて、「バケモノノマチ」と呼ばれている。


「あっ……この町って、テイラくんがいた町……?」


 ちょうど電話を終えたプレイアさんが席につくと、僕の実現化させた町を見てそう聞いてきた。


「……ねぇ、アランくん。もし、もしもだよ。理想と現実が違ったら、アランくんはどうする?」

「ちょ、おいプレイアさん⁉︎」


 僕に対するプレイアさんの問いかけに、テイラがものすごく焦りながら声を荒げた。


「テイラくん、良いから」

「え、え~っと……気にしない、ですかね?」


 何のための問いなのか理解できず、僕は適当な言葉を返すしかできなかった。


「うん。やっぱり、そう答えるよね……。ねぇ、アランくん。ヒーロー、好き?」

「はい、大好きです!」

「じゃあさ……そんなヒーローの近くで働ける仕事、したくない?」

「なっ、スカウトする気かよ⁉︎」


 もちろんながら、そんなプレイアさんの発言に対してテイラは反対した。でも、僕は今、そのプレイアさんの言葉で気付けた。

 僕は、ヒーローが好きなくせに何を迷う必要があるんだろうか、ってことに。


「……あの、もしですけど……ヒーローの皆さんが、僕のことを必要に思っているなら、やっても良いですよ?」

「本当に⁉︎ なら大丈夫! みんな、ぜひ会ってみたいって言ってたから!」

「おい、変なデタラメ--」

「デタラメじゃないよ! まあ、変わったヒーローもいるけど……でも、嘘じゃないよ!」


 僕が必要とされてる。それならより一層、迷うことなんてない。それに、もっとヒーローに触れ合えるなら、これ以上の幸せはない。


「じゃあ……よろしく、お願いします!」


 僕は思いきってスタートラインを踏み締めた。怖がることはないと、ようやく気づけた気がして。

 僕が怖くても、テイラが、それどころかヒーローまでもがいてくれる。それだけで怖さなんて大丈夫に思える。気のせいなんかじゃない。絶対に、気のせいなんかじゃない。

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