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第8話 君は僕のヒーロー。僕は君のヒーロー?

 雨が降りしきる中、僕は肩を濡らす冷たさも頬を強く叩き打つ痛さも気にせずに君を探す。守ってくれた君を、今度は僕が守る。いつまでも傘をさしてはいられない。

 チャッチャッと響く足音。君がいる場所は、きっとあの場所だ。僕と君しか知らない、特別な場所。あの夕陽を見つけた、あの場所だ。


「ハァ、ハァ……!」


 やっぱりいた。あの日の僕と、きっと同じ顔をしている君。ガードレールを掴んで、悔しさと悲しさを滲ませながら吐息を切らしている。

 あの日の君のように熱くはなれないだろう。でも、僕は君のヒーローだ。だから、泣いてほしくない。だって、君だって僕のヒーローだから。


「見~つけた」

「っ! ……」


 僕の声にテイラは一瞬驚いたかのような表情をしたけれど、すぐにまた俯いてしまった。

 でも気にすることなく、僕は隣で雨に打たれながら暗い空を眺めることにした。


「……あの日、夕陽が言ってたんだ。新しい明日を連れてくるって」

「……」


 何も言わなくたって良いよ。君はいつも無理して笑ってくれていたこと、僕も分かったから。


「新しい明日、本当に来たんだ。テイラと一緒に過ごせて、すっごく楽しいって思えたんだ」

「……っ」

「なのに、僕ってばそれだけで良いって思っててさ。ダメだよね、テイラのヒーロー、なのにさ」


 笑って伝えようって思っていたはずなのに。なんでだろう、声が震えていた。心が震えて、痛い。目の奥がすごく熱くて、泣きそうになってしまう。

 でも、やめない。約束したから。


「それに、テイラも僕のヒーローだよ。守ってくれて、ありがとう」

「お前を傷つけた俺はヒーローなんかじゃねぇ……」

「そんなことないよ。今は今だもん、テイラがいてくれれば、僕はそれだけで良いよ」

「……」

「でも。守られてばかりなのは嫌なんだ。だから、テイラのことを、僕も守りたい。雨に打たれて寒いなら、僕が温めるよ」


 僕は雨に濡れた手に傘を描く。それは実現化して、本物の傘になる。少し歪な形になってしまったけれど、確かに雨を防いでくれる。

 それをテイラの頭の上に運んで、これ以上濡れないようにした。


「テイラが僕を救ってくれたように、僕もテイラを救いたい」

「……俺を救ってくれたのは、お前だぜ?」

「ううん。テイラがいなかったら、僕はただの口だけ坊主だった。そんな僕を変えてくれたのは、他でもないテイラだもん」


 こんな気持ちで2人で空を見たことはない。上手く言えないもどかしさと歯痒さで胸が締め付けられる。きっと、テイラも味わった苦しみだ。今度は僕が味わう番だ。


「テイラだけが我慢する必要はないよ。僕も、一緒にいるよ!」

「アラン……」

「だって、傍にいてくれるから。だから僕も傍にいれる。僕がいる場所を、テイラがくれるんだ」

「……いっつもそうだよな。俺も同じだ。お前がいるから俺がいる」


 僕達がいるから、僕達でいれる。絶対1人なんかにはさせやしない。この気持ちがあるから、お互いに笑い合えるんだって分かったんだ。だから言いたい。


「たしかに、テイラはいつも余計なことばっか。でもさ、隣にいてくれる。だからテイラはヒーローだよ」

「……俺の欲は、お前といたいってだけだ。俺をヒーローでいさせてくれるお前も、俺のヒーローだぜ!」

 

 テイラは僕がさしていた傘をギュッと握りしめて、僕から取り上げるように力強く引っ張った。


「お前が濡れちまうぜ?」

「へへ、ありがと。テイラ、帰ったらお仕置きだかんね!」

「なっ、チャラにしてくれよぉ!」


 大きく笑い合う僕達に、空からか細い光が差し込んだ。温かくて、濡れて冷えた身体を包み込んでくれる。

 あのときと同じ濡れた土の匂いがする。だけど、香るのはそれだけじゃない。雨上がり特有の、苦い匂い。今ここに生きているということを、また教えてくれた。

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