第6話 雨音に呼ばれて
立ち話もなんだということになって、僕達はカフェに立ち寄った。そこは、危うく立て篭もり事件が起きそうになったあのカフェだ。もう何事もなかったかのように営業していた。
僕がしたことながら、あのパトカーがどうなったかはいまだに分からない。
「ここって事件あったよね」
「あぁ、まあアランの冷静さのおかげで助かったがな」
「へへへ……」
「で、能力を隠してるでしょ?」
「え……」
やっぱり、さっきの本音の言いかけたことには気付いていたらしい。テイラも隠し通せないと悟ったのか、悔しそうに歯に噛んだ表情をしている。
「え~っと……実現したら良いなって思うものが実現化する能力なんです!」
咄嗟に思いついた嘘の能力だ。それにほぼ僕の能力に酷似している。結局意味のない嘘だと感じて、頭を抱えてしまった。
「ふふっ、ごめんね。変なこと言っちゃって。本当はもう知ってるんだ、君の能力」
「……じゃあなんで?」
「ヒーローってね。いざっていうときにもピンチを免れるようにしなきゃいけない。それをできるかなぁって」
「なっ、是が非でも退かねぇつもりかよ⁉︎」
僕のことを思って怒っているのだろうが、テイラの怒声はカフェの窓ガラスを割るほどのものだった。いつもこうだ、僕を何かが巻き込むと、テイラが飛び出しては何かが壊れる。
「もう、良いよ」
「でもよ--⁉︎」
僕は反論しようとするテイラの口をギュッと右手で掴み、開かないようにした。そして左手親指を上げて、任せてという顔を見せた。
それを見て、テイラはようやく目の色をいつも通りに戻してくれた。
「あの……ヒーローとしての道を勧めてくれるのは嬉しいです。でも、ヒーローにはなれないです」
「どうしてかな?」
「……テイラが、僕を思ってたくさん壊すから……何もしないほうがいいかなって」
「ア、アラン……」
「だってさ。やっぱり、過保護すぎたんじゃない?」
「……そんな余計なお世話だったか?」
僕の本音を聞いて、あんなにトゲトゲしい性格のテイラが、不安そうに声のトーンを落として僕にそう聞いてくる。でも、僕は今しかできない。本音を言うタイミングは、今しかない。
「うん。僕は、もう子供じゃないから」
「そっか。そう……だよな」
「で、でも!」
「もう良いぜ、無理させて悪かったな」
「え……?」
テイラは席を立ち、瞼をギュッと閉ざしてそのままカフェから走り去って行った。
「ちょ、テイラ⁉︎」
「待って」
「でも!」
「……もう、私の異能力の効果時間切れるから」
「え、じゃあ⁉︎」
慌てて外を見ると、一瞬にして空が真っ黒になり、大粒の雨が降り始めた。その雨を見た途端に、僕はテイラと出会ったあの日を思い出してしまった。
--雨音と、泣き声。ガレキと折れた木々。濡れた土の匂いと、それに混ざる血の匂い。その全てが僕を狂わせた、あの日のことを。