第30話 仲間になろう
♢♢♢アラン視点♢♢♢
ドラバース達が心配だけど、僕も僕でやるべきことやらないと。
「プレイアさん、クリーム!」
「ん!」
「エリスの使って!」
「えぇっ⁉︎」
さっきからエリスのクリームばかり使っていたから、プレイアさんのも使おうかと思ったのに。しかもエリスも、砂糖多めで流石のクロッグでも体に悪そう。
「ごめん、でもエリスのボウルのクリームじゃ少なすぎるよ」
「あ……本当だ」
「はい、私の使って」
実際、エリスのボウルは底面を覗かせるほどにクリームが減っていた。
プレイアさんのクリームを貰って、ケーキのスポンジを塗る。
「はい。新しいスポンジ出来上がりましたわ」
「あ、ありがとう美雪さん」
美雪さんが次から次へとスポンジを作ってくれるおかげで、淡々と料理が進む。だけど、調理器具の性能が良いのか、はたまた美雪さんの技術が凄いのか、スポンジケーキのできる速度がとてつもなく早く、僕達がどれだけ苦労してひとつのスポンジにクリームを塗っても、既に2つか3つは次のが出来上がっている。
「あ、あの美雪さん。スポンジはもう大丈夫なんで果物とかの用意を」
「はい、かしこまりましたわ」
既にホールケーキ10個以上のスポンジがある。これだけあればもう十分だろう。
「アーン! タマゴ、上手くわれないよぉ!」
「まったく、エリスは不器用ね」
「ムゥ〜っ! そういうエリスのお姉ちゃん、さっきクリームこぼしたくせに」
あちゃ、また言い合いが始まりそうだな。なんとかしないと、グダグダになるのが目に見える。
どうしてこうも、すぐにぶつかってしまうんだろう。
お互いにそりが合わないから?
お互いの心を許せないから?
ぶつかり合うときの心は、どんな感情を抱くのだろう。
僕とテイラが喧嘩するときは、テイラに痺れを切らして僕がつい怒っちゃう。
それと同じ、とは思えない。あぁ、怒りの動力源ってなんなんだ。
「あの、アランさん? お疲れですか?」
「あ、別に……」
そうだ、今は考え事をしている場合じゃない。
首をブンブンと思い切り振って、やる気を再燃させると、言い合いする2人の声が耳に入ってきた。
「だから、エリスは不器用なんかじゃないもん!」
「ふぅ〜ん、それにしてはよく桜を壊すよね」
「桜は関係ないでしょ⁉︎」
「関係ありますよ〜だ! 不器用だから、異能力を操れないんでしょぉ?」
プレイアさんがエリスを煽るように語尾の声をあげている。このままじゃまずい、なんとかしないと。
「待った待った! 2人とも、何考えてんの⁈」
「だってお姉ちゃんが!」
「エリスが聞き分けないからでしょ!」
まるで子供同士のような喧嘩の内容に、僕は小さなため息をついた。そして、言葉を紡ぐ。
「今は喧嘩してる場合じゃないでしょ。クロッグを助けるために、ケーキ作るって言ったでしょ!」
「それはそうだけど……」
「お姉ちゃんとやるくらいなら、エリス、ひとりでやる!」
バラバラな結末に続く一本道の雰囲気に、僕は右拳をを握りしめた。僕にも分からない、胸がジンジンと痛む初めての感情を抱きながら。
「良い加減にしてっ!」
「『っ⁉︎』」
今ある感情全てを込めた僕の一喝が、みんなの口を一文字にさせた。
「僕達、仲間だよね。ぶつかり合うのは、しょうがないかもしれない。でも、今やるべきことを無視するのは見逃せないよ! 一緒にいるなら、一緒にやる! それが、仲間ってものでしょ⁉︎」
「アランさん……そうですわ、一緒にやらなくては、意味がないですもの!」
僕の説教に、美雪さんも賛同してくれて、2人に一緒にやるよう説得してくれた。
「……」
「ほら、エリスちゃんもごめんなさいしよっか?」
「エリス、子供じゃないもん。でも……ごめんね、プレイアのお姉ちゃん」
「私こそ、ごめんね。不器用なんて言っちゃって」
うん、これで大丈夫かな。さて、作業に戻らないと。
でも、あの感情はなんだったんだろう。胸がジンジンと熱く痛んだあの感情。あれも、心なのかな。
心が人体に影響を与える、か。これはまた面白い題材かも。
「分かってくれたら、それで良いよ。それじゃ、クロッグ専用ケーキ、一気に作っちゃうよ!」
「『オーっ!』」