第27話 一緒に
「だぁから違うって言ってんだろうが!」
「こうで良いんだよ!」
開始早々、荒れてる。厨房でやっちゃいけないことランキングがあったら第1位でしょ、これ。唾は飛ぶし、雰囲気悪いし。
「あ〜もう! 一旦落ち着いて!」
『騒々しい、なんの騒ぎ?』
『エリス、ケンカ嫌いだよ』
『料理中なら静かにやれ』
ライブ会場の厨房で、僕達は取り急ぎケーキ作りをやっていた。そこに、プレイアさんとエリス、マスケルも合流した。
「みんな!」
「ケーキ作りなら、エリス得意だよ!」
「それに、私みたいな料理上手がいないと黒焦げになるのがオチだしね」
「火の扱いには慣れている。任せてくれ」
「え、ケーキ作るのに火なんて」
「そうですわね、ケーキ作りはほとんどオーブンと睨めっこですもの」
そうだよね。マスケル、少しは料理できるようなこと前に言ってたけど、本当に少しなのか。
「……それより、バケモノをペットにしてたとはな。流石は花岬家、同類で憐れむのか」
「ちょっとマスケル! こっち!」
あまりに酷い言葉に、僕はマスケルの腕を思い切り引っ張って厨房から出ていった。
「何考えてるわけ⁉︎」
「何って、ただ俺の思ったことを言っただけだが」
「いやいやいや! あのさ、マスケル。普通に考えてだよ? 言われて、どう?」
ぱっとみ、子供に物事教えてるように見えるだろうけど、大人相手にこんなおこごとするなんて思ってもみなかったけど。
「お前こそ考えてみろよ。バケモノは敵だ」
「敵って……あの、さ。美雪さん、悪いことした?」
「してないが、バケモノに変わりはない。戦場は、基礎を忘れたものから死ぬ。忘れるな」
それだけ言い残して、マスケルはどこかへ行こうとした。
「え、どこいくの⁈」
「アイツがいるなら、俺は別のとこに行く。俺がやつを殺すか、お前らが救うのが先か。楽しみにしてる」
「なっ……」
マスケルの覚悟に嘘なんてない。止めようがないとは、すぐに分かった。
仕方なく、僕は厨房に戻った。
「あ、お帰りなさい……? どうしました? 元気ないですよ」
「ううん。それより、早く作ろ!」
「お前、何焦ってんだ?」
流石はテイラ。僕のことがよく分かっている。冷静なフリしてせかしたつもりが、すぐに焦っていることに気付かれた。
でも、美雪さんを不安にさせないよう、僕はマスケルの思惑を隠すことにした。
「アハハ、気にしないで。ちょっと焦っちゃってね、ごめんごめん」
「まったく。戦闘で焦りは禁物だぞ」
「そういうアンタも、よく焦ってんじゃん」
「まあまあ、言い合いしている暇はありませんわ」
またプレイアさんとドラバースで口論になりかけたが、この中で唯一のしっかり者である美雪さんのおかげで何も起こらずに済んだ。
「あそうだ。ケーキって何ケーキ?」
「そういえば。何のケーキを作れば良いのか聞いてなかったぜ」
「伝え忘れてましたわ。クロッグは、とにかく甘いものが好きなので、ホイップ多めのいちごケーキでお願いします」
猫なのに超甘党なの、すごい違和感。バケモノの本質が真実なら、もしかして子供の亡霊が渦巻いているのかな。
「はーい! じゃあエリス、イチゴ切るぅ〜っ!」
「ふふ、では包丁お渡ししますわ。おてて、怪我しないよう気をつけてね」
ハンカチで刃を隠して、美雪さんはエリスに包丁の柄を握らせた。
「エリス子供じゃないもん、怪我しないよ」
「うおヤッベ! クリーム落としちまった!」
「なにやってんだ、もっとゆっくり……どわっ、服にかかりやがった!」
テイラもドラバースも、力任せにホイップ混ぜすぎ。それじゃあ落としたり服にかけたりしちゃうよ。
「2人とも下手すぎ。貸して」
プレイアさんが代わりにクリーム作りをしようとする。それを見て、僕はあることを思いついた。
「僕もやるから、2人はマスケルを手伝って。多分外にいるから」
「おう!」
「それは良いが、アイツは何してんだ?」
それを聞かれるとは想定外だった。2人のことだし、安直に飛び出すと思ったんだけどな。
「え〜っと……」
「……あ〜、なるほどな。分かった、マスケルの手伝いな」
僕の戸惑う様子に、ドラバースは何がどうなっているかがなんとなく分かったらしい。
「ん? アイツが何してんのか分かったのか?」
「あぁ、行くぞ」
ドラバースはテイラを連れて厨房を後にした。
正直、嬉しいけど悔しい。心の動力源を知りたくて心理学部に入ったのに、学んだことすら何も活かせていない。
それに加えて、ドラバースに負けた。いや、分かってはいる。実力も経験も、彼以下なことくらい。でも、今実感したのは、底知れない天地の差。この差を、果たして僕なんかが埋められるのかな。
気弱で、誰かがいなくちゃ生きれない僕なんかに。




