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第24話 心と言霊

 美雪さんは家にクロッグを帰し、モール裏へと行くように僕に指示した。

 たしかに着きはしたけど、美雪さんはまるでここを知っているかのように先へ先へと進んでいく。


「懐かしいですわ。前にも一度、モスイさんにご招待されましたの」

「だからそんなに足早く……」


 モスイさん、美雪さんを案内してたのか。となると、僕と同じことをモスイさんもやっていたのかな?


「あの、なんでモスイさんと?」

「以前にも、アランさんと同じくスカウトしてきたのです。もちろん、お断りしましたけれど」


 実の姉が殺されたも同然だもん。そりゃ断りたくもなるよね。なのに、なんで僕の話を聞いただけで気を変えたんだろう。


「あ、ここでしたわね」

「へ、あ、そうですね!」


 考え事をしていたせいで、僕は共有事務所の前を通り過ぎていた。


「ふふ、案外アランさんって抜けてますのね。安心しましたわ」

「そ、それなら良いですけど……アハハ」


 恥ずかしいところを見られ、僕は右手で後頭部をかいた。


「こほん。失礼いたします」


 ひとつ咳払いをして、美雪さんは事務所の中に入ろうとした。しかし、鍵がかかっていて、中に入れない。


「あら?」

「もしかして、放送局の方かな? 行ってみます?」

「えぇ、お願いしますわ」


 不思議そうに扉を見つめながら、美雪さんは僕に案内をお願いした。




 〜地球防衛放送局湘南支部〜


 受付の人に事情を話して美雪さんを通してもらい、ディレクター室に入ってみた。そこには、ドラバースとテイラ、モスイさんの3人で談笑する姿があった。


「何の話ですか?」

「おっ、アランも来たか! オモシレェ事件が起きてな! 調査しようって話になってよ!」

「相次ぐケーキ失踪事件! 犯行時、監視カメラには、猫のようなシルエットが毎回映る!」

「これは面白そうだろ。どうだアラン。こういう事件、興味ねぇか?」


 3人に詰められるように尋ねられ、重圧を振り切るように僕は何度も首を縦に振った。


「だよな! よっしゃ、それじゃ早速行こうぜ!」

「あ、ちょっと待って! その……花岬の人を連れてきました」

「ご紹介に預かりました、花岬 美雪と申します。モスイさん、お久しぶりですね」


 いつもと変わらない微笑みで、美雪さんはモスイさんの目と向き合う。お互い温かい目をしているはずなのに、なぜか冷たい空気が張り詰めた。


「どうしたかな? 花岬家は、もうこういった活動には関わらないと断言したはずだろう?」

「はい。以前お伺いした際には、そう私の口から申しました。しかし、アランさんが。メイビスさんがいるのであれば話は別です。メイビス家の人間と花岬家の人間は深い繋がりで結ばれておりますので」

「え? 待って待って。何、その繋がりって」


 メイビス家が有名になったのは、お父さんがヒーローになったから。そう思ってた僕は、美雪さんの口走る言葉を理解できなかった。


「……メイビスのおじさまに力を授けたのは、花岬家なのです」

「それは……どこかで聞いたような?」


 どこでそれを聞いたのかを、僕は脳内から記憶をたぐり寄せて探した。

 そして、あの真っ赤な世界で、そう亡霊の住まう世界で、その事実を語る美雪さんを思い出した。


「わたしがアランさんを亡霊の世界に案内したときですわ」

「そうです。もしかして、それが?」

「あぁ。亡霊の世界の秘密…は、花岬家だけの機密事項だ。本来ならば、花岬家の人間以外は知り得ない情報だが……俺達は、政府の手で作られた部隊だ。隠し通せるわけもなかった」


 モスイさんは少し残念そうに目を閉じながら言葉を紡いだ。


「てことは、その繋がりがあったから僕の話に賛成したと?」

「それもありますが、それだけではございませんわ。アランさんがおっしゃってくれた事実。それを知れたことで、所属することを決意いたしました」


 マスケルを恨んでも、ヒーローをやると決めた僕の決意が、美雪さんの決意に火をつけるとは。正直、思ってもみなかった。


「ほぉん。アランが、女を積極的に口説いたのか」

「へっ、ち、違うし! テイラ、変なこと言わないでよ!」

「ダッハッハ! にしては顔真っ赤だぞ?」

「アランはもう少し恋愛を学ばないとな?」

「ふふ、そうですわね」

「ちょ、美雪さんまでぇっ⁉︎」


 テイラやドラバース、モスイさんはともかく、美雪さんまでもが僕のことをあしらうとは考えていなくて、瞼を痛いほど大きく開いて驚嘆した。

 でも。もし、本当に僕が美雪さんの心を動かしたなら。僕は、与えられた役目をしっかりとこなせているのではないのだろうか。自信満々に言えはしないけれど、この思いはたしかに僕を支えている。

 騒がしくて、愉快なこの場所。より一層賑やかになるのなら、僕はそれを作り上げる。なんてことを思いつつ、誇らしげに僕は右手のアゲハ蝶模様のアザを見つめ返した。

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