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第16話 僕だって寂しくて

 ドラバースどころかテイラの帰還記念ということで、結局あの予約数が少ないレストランになった。

 でもその前に、テイラの検査も行われることになった。ドラバースのときとは違く、湘南支部の医療室ではなく、銀座本部の地球防衛放送局に設けられているちゃんとした医療室を使うことになった。

 理由とすれば、あのときみたく突然の戦闘にならないようにという、ハッキリ言ってつまらない理由だ。それだけで交通費かかるし、しかも交通手当出ないし。大学生でこの出費は痛い。

 と思ったけど、ヒーロー手当というものでまさかの交通費は8割引。それなら全然構わないから、電車じゃなくてタクシーで行くことにした。その結果、いくら8割引きとはいえども、5ダラーはかかった。電車のほうが断然安かったと、今すごく後悔してる。


「なんでタクシー使ったかなぁ……」

「お金あるのかと思って止めなかったのに。帰りは電車にしなよ?」


 医務器具に詳しいマッチュさんと共に、僕は銀座本部の中へ入った。




 〜医療室〜


 湘南支部とは違って、銀座本部の医療室にはピカピカの真新しい器具が取り揃えられている。しかも、対亡霊用の自動マシンガン付きという物騒な作りになっていた。


「じゃあ、テイラくん。ポット入ってね」

「だから健康だって言ってんだろ?」

「それを証明するための検査だから。これ終わったら、大学で受けれなかった講義の地獄が待ち受けてるからね」

「うげっ!」


 僕が代返でもしてくれていたと思っていたのだろうか。テイラは思いもよらない出来事に遭遇したように目を大きく見開かせて驚いている。


「じゃ、そういうことで。マッチュさん、よろしくです」

「りょーかい! よっと!」


 マッチュさんがボタンを押し、テイラはポット内に入る前にため息をつきながらもアイマスクと耳栓をつける。


「よし。じゃあ、早速調べるね」

「えっと……この画面のは?」


 画面には、寝そべっているテイラを上から見たような図が表示されている。だが、その図の彼の体は真っ白くなっていた。


「これは、『プラマイメンタリティ検査機』! 検査中の人の心の状態が分かるの。黒なら負の感情、白なら正の感情って感じにね」

「じゃあ、今は全部正の感情ってことですか?」

「そ! でも……ありえないの。普通、白と黒が混ざるはずなんだけど……まっ、テイラくんらしいか」


 たしかに、テイラは負の感情なんて持ってそうにない。今までだったら、そう思ってた。だけど、無理して笑っていた彼を知ってからは疑うようになった。そんな彼を生み出してしまった、僕自身を恨みながら。


「あの……でも、おかしくないですか? あのドラゴンみたいなバケモノからはテイラの発進信号があったんですよ?」

「だよねぇ。てなると、考えられる可能性は1つ。テイラくんが、分離したって可能性」

「えっ……?」


 マッチュさんの言葉を何度脳内にリピートさせても、意味が分からなかった。いやもちろん意味自体は分かるのだが、理解できなかったのだ。

 分離したって、そんなことがありえるのだろうか?


「おそらく、あのバケモノはテイラくんの負の感情の塊が心臓部部になって、残りは亡霊やらバケモノが形成してる」

「じゃあ、そこまで強くはないってことですか?」

「今だったら、ね。でも、時間が経てば経つほど強くなると思うよ。あの負の力は亡霊を呼び寄せるほどだった」


 それを起こしたのは、テイラの募りに募った悲しみや怒りだ。そして、その原因を作ったのは何としてでもテイラに近づこうとした僕だ。それを思うだけで、僕は悔しくなった。

 僕の道を壊していたのは、僕だった。それに気付くのが遅すぎて、今こうなっている。しかも、それをテイラのせいにして。なんて僕は最低なやつなんだろう。ただテイラには明るくなってほしいと願っていただけなのに。その願いが、テイラを……。


「アランくん。暗くなっちゃダメ」

「え?」

「私の異能力は、「オーラを見る能力」。今のアランくん、すっごく暗いオーラに包まれてるから」

「あっ……」

「なんとなく分かるけどね。でも、自分のせいって思っちゃダメ。自分を責めたって、何も生まれやしないんだから」


 何かを思い詰めるように俯きながら、マッチュさんはそう僕に言葉を落とす。まるで、「私みたいにならないで」と言っているように。


「あの……何かあったんですか?」

「え、ううん! 気にしないで、私はもう……どうにもできないから」

「え?」

「……君は、羨ましいよ」


 瞳を揺らせながら、マッチュさんは僕を羨ましいと言う。僕は、そんな彼女にどう答えれば良いのか分からなかった。


「じゃあ、検査終了! テイラくんのこと、頼んだよ」

「あの!」

「? どうかした?」

「マッチュさん……僕、みんなのことを任されたいです! それはもちろん、マッチュさんやランマルさんを含めて」

「……ありがとう、その気持ちだけ受け止めておくよ。でも、私のことは放っておいて」


 余計なお世話だったのか、マッチュさんはそれだけ言い残すとトボトボと覚束ない歩幅で医療室から出ていった。

 また壊してしまったのかと、僕の胸のあたりが痛む。だけど、今は痛んでいる暇なんてない。ポットから出てくるテイラの元へ駆け寄った。僕が言わなきゃいけないことが、たくさんあるから。


「ん、終わったか?」

「テイラ!」

「うわっ! どうしたよ、急に大声出して」


 テイラの言葉に返事をせず、僕はテイラとの距離を縮めていく。


「おいおい、なんか怖いぜ?」

「……テイラ、ごめん!」

「……は?」


 僕のいきなりの謝罪に、テイラは困惑している。でも、伝えなきゃ。僕の言葉を。


「テイラのこと、明るくしたかっただけなのに……悲しませて、ごめん!」

「……何言ってんだよ。前にも言ったろ? 全部、俺のせいだってな」

「違う! だって、僕がテイラに近づかなかったら――」


 『パァンっ!』

 と、医療室に音が響く。ヒリヒリと痛む頬。ジンジンと伝わる熱。僕の横目に映る、僕を睨むテイラの顔。

 僕は、叩かれた、のか?


「いい加減にしろ! グチグチ言ったって、もう元には戻らねぇ! 約束しただろ、忘れたなんて言わせやしねぇぞ!」

「でも! でも……!」


 溢れる涙。僕だって、我慢していたんだ。テイラと同じくらい、笑顔に隠して、失ったことへの寂しさと悲しさを。


「……もう、やめようぜ。お互いにやらかしたんだ。それで良いはずだぜ?」

「分かってる! だけど、分かりたくない! こんなことになるなら、いっそ――」

「そんなお前、見たくねぇ」


 僕の胸が、より痛む。鼓動を打つたび、痛む。テイラに嫌われてしまう。でも、これ以上テイラを傷つけてしまうなら、いっそ嫌われてしまったほうが良いのかな?

 そんなことを思ったら、

 

 『君は、羨ましいよ』


 というマッチュさんの言葉が蘇って、全部消えていった。


「……ごめん」

「お前をそんな風にしたのは俺だ。だからもう良いだろ。約束忘れちまったお前じゃ、分からねぇかもだが」

「忘れてはないよ! ただ……テイラのことが好きだから! 傷つけたくなくて!」

「すっ⁉︎ お、おいおい。男同士だぜ?」

「プッ……アッハハハハハハ! 何言ってんの、そんなんじゃないし! アハハハ!」


 何を勘違いしたのか、顔を真っ赤にするテイラに僕は大笑いしてしまった。


「だ、だって好きって……」

「友達としてだよ、ハハハッ!」

「ったく……でも、そういう意味でなら俺も好きだぜ。いつも冷静で、いざって時にしかスパッと言い切らない、優しいお前がな」

「じゃあ、また約束。そばにいるよ!」

「あぁ、俺も。ずっとそばにいるぜ」


 それを聞いて、胸の痛みが消え去った。また、温かくなった。自然と、涙が乾く、笑顔が咲く。あぁ、やっと分かったよ。僕だけじゃ、何もできないということを。テイラが、みんながいてくれたから僕は笑っていられたんだ。それなのに、僕は寂しいだなんて。やっぱり、僕は最低なやつだな。でも、最低だから高みを目指せる。みんなといれば、きっともっと、高く遠く。もう一度、踏み出そう。僕のまま、僕らしく、僕達で。無理をしない程度に、この命を温めてくれるこの場所で。何度も、何度でも、約束を交わして。

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