第15話 それでも会えた
ドラバースの帰還記念ということで、僕達はいつものカフェではなく、お高めなレストランへ行くことになった。
でも、どこも予約必須で、ほとんどのお店が1ヶ月以上は埋まっていた。しかも、モスイさんは僕1人に任せるし、みんなはみんなで仕事があるし。唯一手伝ってくれるのはエリスだけだった。
「おじちゃん、ここは?」
「あっ」
エリスが近くて予約がまだ1週間しか埋まっていない場所という条件で探していると、あるレストランを見つけた。
イタリアンで、ギャラクシーディッシュ協会の星3評価を頂いていると掲載されていた。それだけあって、一品で最低900アースドルはした。
「あちゃ、経営者は地球の人じゃないのか」
アースドルを表記するのは地球出身じゃない宇宙人のよくある癖だ。アースドルは地球外の惑星で使うもの。これを地球通貨に直すのは面倒なんだよな。
「えーっと、今1アースドルで108.4ダラーだから…… 一品で最低97560ドル⁈」
「たかっ⁉︎」
「で、でもここしか……」
「分かるけど……僕の今月のお給料と同等じゃ……」
「おじちゃん稼ぎ少ないもんねぇ」
僕はみんなみたいに舞台でライブをするわけじゃない。だからあくまで、もぎりとしてのお給料しか発生しない。
流石に奢ってもらうわけにもいかない。せめて、4桁台くらいのところが良いんだけど。
『ピロロン ピロロン』
モスイさんの席にある電話が、電子音を鳴らす。すぐさま僕は受話器を手にした。
「はい、地球防衛放送局湘南支部です」
『……』
「? あの、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『アラン……』
「はい、アランでございます」
自己紹介忘れてたや。ヤバいなぁ、電話応対のアルバイトしてるってのに忘れるなんて。
『俺だ、アラン。テイラだ』
「え……」
その名を聞くと、僕は受話器を手から滑り落とした。そして何も操作していないのに、勝手に立体映像がオンになった。
『今オフィスにいるんだな。今すぐに向かう』
オレンジ色の肌にオレンジ色の瞳。映像に映っていたのは、間違いなくテイラだ。でも、あのときのような殺気は感じられなかった。だからか、恐怖心は微塵もなかった。
「く、来るの?」
「大丈夫、心配しないで。怖かったら隠れておいて」
「うん」
「じゃあ、これでよし……と」
エリスの手に透明化の文字列を書き、彼女はスゥっと消えた。もちろん実在はする。あくまで目には見えないだけだ。
「あれ?」
「っ、来る! 声、出さないでよ。バレるから」
「う、うん!」
テイラの激しい足音は、ため息が出るほど聞き慣れている。
「よっ、久しぶりだな」
「……何の用事?」
「あ? 長い間寮にいなくて悪かったなと言いに来たんだが?」
「は、え? ん?」
まるで自分が何をしたのか覚えてないように振る舞うテイラに、僕は今彼が何をしたいのか分からず、混乱してしまった。
「お、おじちゃん。テイラのお兄ちゃん、いつもと変わらないよ?」
「え、どういうこと?」
「ん、その声はエリスか! どこにいんだ?」
「おじちゃん、これどうやって直すの?」
「あ、そっか。ハンカチで文字拭けば良いよ」
僕がそう言うと、事務所のエリスのデスクの上に置かれてい花の模様があるたハンカチがフワリと浮かび上がった。
「うわぁっ⁉︎ ポ、ポポ、ポルターガイスト⁉︎」
「あ、本当だ。元に戻った」
「エ、エリスか……てことは、お前の仕業か?」
「そうだけど……?」
いきなり現れておいて敵意なし? 裏があるとも思えたけど、この感じだとそういうわけでもなさそう。
少し試してみるか。
「にしても、お寺の封印札剥がすとは思わなかったよ」
「ん? そんなやついるのか。怖いもの知らずというか罰当たりというか、ともかく亡霊のこと知らないにも程があるな」
「いやお前のことだよ」
その言葉を歯に噛みながら、僕は苦笑いして受け流した。
「だから悪い感じはしないって」
「そうみたいだね。ちょっとモスイさんにも相談したいけど……先に仕事終わらせよっか」
「おっ、仕事あんなら俺も手伝うぜ!」
なんか納得できないけど、まあこれが今なわけだ。受け入れるしか選択肢はない。どんな形であれ、それでもこうやって出会えたことに変わりはない。だから、変なことばかり気にせず、素直に喜ぶことにしよう。それが僕のできることだ。
ただ、まだ僕や全員部屋から私物が消えた謎は残っているけれど――。