第7話 対亡霊迎撃部隊
20年前。それはまだ、帝都防衛華荘団色組が結成されるよりもずっと前の話だ。そして、その頃はまだ宇宙人ヒーローなどいない頃。
そんな時代にもバケモノは存在していた。そのバケモノを退治する技術は、宇宙とほぼ交流できなかった地球にはまだ少なく、肉弾戦での戦闘が強いられていた。
「キシャアァァァ!」
そんな20年前の夏。バケモノが大量に現れ、あちこちを荒らしていた。人々は怯える間もなく殺傷されていく。
「ヒィィィ!」
防衛として警察官がバケモノ退治に派遣されるも、何の力もない一般人である彼らの銃弾はバケモノの身体に傷ひとつつけられやしなかった。
そして、翼を持った目のない人型のバケモノが彼らを襲いかかった刹那、誰かがバケモノの目の前に飛び降りて、刀で切り裂いた。
「まったく、斬っても斬ってもキリがないな」
その声を聞き、目を開ける警察官達。襲い掛かろうとしていたはずのバケモノが消え失せ、ボサついたオレンジ色の髪の青年が刀を鞘に収めていた。その鞘には、モスイの名が彫られていた。
「ふぅ。やつらの相手はしなくて良いぜ。オメェらみたいな力のねぇやつがいるだけ、餌になる」
それだけ言い残すと、モスイはザッザと足音を立てながら彼らの元から去っていった。
「……へっ、流石は同じバケモノだよな」
「あぁ、俺たちみてぇのが関わったら殺されるんだろな」
その時代は、バケモノを退治できる者もまた、おかしな能力を持ったバケモノとして見られていた。当然であろう、今で言うヒーローという存在が。この時代には政府によって隠されていたのだ。
対亡霊迎撃部隊と書かれた看板のある建物。それは、今の色組がライブ会場として使っている建物と同じものだった。
「ふぃ〜……。ようやく落ち着いたな」
モスイは疲れ切っており、ドサっと倒れ込むように席についた。
「バケモノの発生数が日に日に増していますからね。休めるうちに休んでおかないと」
「そうは言ってもよぉ、メイビスの旦那。俺たちが動かなきゃ死人が増えるだけだぜ?」
艶やかな藍色の髪を束ねた、優しい細目の緑色の軍服姿の男が、メイビスと呼ばれた。そう、彼こそがアランの父である。
彼は机上に置いてある家族の写真を眺めていた。まだ幼く、父に背負われたアランがその髪を引っ張っていて、それを見て笑う母の様子が撮られていた。
「……家族がいなくて、寂しい思いをされてないと良いですけれど」
同じく緑色の軍服を着た、幼い少女が彼を見ながらそう呟いた。
「君だって家族から離れているじゃないか?」
「それは……だって、あたしの能力が必要なんでしょ? それに比べて、アンタはあたしの力で能力を得ただけ。それでヒーローになれたとでも思ってるなら、とんだ大違いでしてよ」
アランの父親が力を得た場所。それを作ったのは、美雪の姉。そう、彼女こそが、美雪の姉である。
「まあまあ、落ち着け。優花上等兵もそんな口悪くすると、そのうち尖ってくるぞ?」
「素直に言いたいこと言ってるだけ。まあそれは良しとして……。美雪が心配だわ」
バケモノによってメチャクチャにされた窓の外を見下ろしながら、優花はため息をこぼす。
「俺たち3人だけで、この帝都東京を防衛するんだ」
「……えぇ。こうはならないために。帝都防衛ラインのためならば、命を捨ててでも」
そんな真っ暗な争いが続くこと、3日。バケモノは止まることを知らずに沸き続け、3人の体力も底をつき始めていた。
「ハァ、ハァ……っ! まずいな、もうこの地の力が、消え始めていやがる!」
「大丈夫ですか、モスイ中尉!」
「メイビス、優花を連れて逃げろ!」
そのモスイの命令に対し、アランの父親は静かに首を横に振った。
「そうはいきません。ヒーローならば、自分の身体をまずは大事になさってください!」
「……そうだったな。それじゃあ、コイツらを切り捨てて共に飯でも食うか!」
刀を地面に突き刺して、杖代わりに立とうとするも、モスイはもはや足に力を入れることすらできず、ズサっと倒れてしまった。
「中尉⁉︎」
『こっちに来なさい、バケモノ!』
「っ⁉︎ まさか!」
鍵を首に下げ、右手に鏡、左手に刀を持つ優花がそう叫んだ。バケモノはその声に反応して彼女のもとへと一斉に飛び掛かる。
「いけない!」
「優花!」
そう彼女に2人は手を伸ばす。しかし、彼女の鍵が光を放つと共に、街に溢れていたバケモノが一気に吸い込まれていく。
そしてその光が消え失せると、鍵と鏡、刀を残してバケモノと優花の姿は消え失せていた。
それが、20年前に起こったことだ。それ以降から、優花は姿を見せていない。その出来事が、尾を引きずって今現在へと繋がっている。
「そうか。モスイのやつが隠していたことがようやく分かった。で、その鍵をアンタが持ってるんだろ? だったら、戦うしかないな」
「えぇ、そのつもりです。では……参りましょうか!」
憎しみと怨念に染まったオスタンの心は、誰にも止められない。一瞬にして3人は、ナイフの波に囲まれていた--。