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第25話 シークレット・ウォーズ

 瞳を赤くし、牙を向けて、バケモノはこの街を蹂躙する。

 真っ黒い雲が空を覆い、桜の面に搭載されている小さなライトでようやく前が見える。ライトの上にある、左右を見渡せるカメラで状況を確認しても、足元くらいしか見えるものはない。


「これじゃあ何も見えない」

「任せて! 光を求む木々、草たち。その欲をこの身に委ねて。咲き誇れ、『ブルームサンシャイン』!」


 プレイアさんの桜の所有武器である弓で、矢を空へと放つ。その矢が通った雲間から、光が一筋差し込んだ。


「まだ私のスキルランクじゃ、これで限界だけどね。でも、少しは見えるでしょ!」

「エリスだって! バケモノの動きなんて、簡単に分かるんだから! えぇい!


 エリスの桜が金色に輝く。その輝きが四方八方へと飛び散り、何かを囲う。その輪郭は動いており、その動きや形で、それがバケモノであることがわかった。

 夜闇のような暗さのために、敵の位置が分かるのは大助かりだ。


「2人ともありがとう! 戦闘開始!」

「『イエッサー!』」


 僕が開始を宣言すると、2人は指示をする前に動き出す。


「え、ちょっと⁉︎」


 無茶して突っ込むのは早すぎる。いくら敵の位置が分かったとしても、まだそれが何型のバケモノで、どんな動きをするのかなんて予測できない。

 そう思ったのも束の間。こちらの動きに気がついたバケモノが一斉に襲いかかってくる。


「っ! プレイアさんは左に回避! エリスは後ろに!」

「「キャアっ!」」


 僕の指示で、なんとか2人は攻撃を喰らうことはなかったが、反射的に動いたせいでかなり無理した動きを取ることになり、倒れたり尻もちをついたりしている。


「イッタタ……いきなり何!」

「ちゃんと状況見て戦うこと! ただでさえ何にも見えないんだから!」

「おじちゃん……」

「だからお兄ちゃんだってばぁ……って、そうじゃなくって!」

「分かった。その代わり、ちゃんと指示してよ!」

「エリスも、おじちゃんの言うこと聞くよ!」


 なぁんか分かってないような気もするけど、今は集中しないと。


「プレイアさんは光の確保! エリスは敵の位置を教えて!」

「了解!」

「分かった!」


 プレイアさんは日光が差し込むようにあちこちへ矢を放つ。

 エリスは深呼吸しながらバケモノのいる場所を詳しく知るために、バケモノの精神とリンクしている。


「おじちゃん、来るよ! 前!」

「おじちゃんじゃ、ないっての!」


 エリスの言う通り、正面から襲いかかってきた狼型のバケモノを、僕の所有武器である太刀で頭から尾にかけてを両断した。


「スッゴォい!」

「本当に扱うの初めて⁉︎」


 僕にも分からない。勝手に手が動くんだ。だけど、その理由は分かる。右手の甲の痕が、熱いほど光っているんだ。

 おそらく、アゲハ蝶が操縦法を知っているんだろう。でも、なぜ、どこで知ったのだろう。いや、そんなの気にしてる暇はない。全力で戦わないと!


「お姉ちゃん、左!」

「えぇっ⁉︎」

「任せて!」


 僕は剣先から氷の(つぶて)を実現化させ、それを銃弾のように弾き飛ばしてバケモノに命中させる。思うだけで実現化できるのはすごく便利だけど、スキルアップできない僕からすれば不思議でしかなかった。

 それもアゲハ蝶のおかげだ。今はそういうことにしておこう。細かい話は全部後だ。


「あ、ありがとう。レディの隙を狙うなんて、100万年は早いのよ!」


 プレイアさんは僕の攻撃で瀕死になっていたバケモノに、容赦無く3連で矢を放ち、バケモノを討伐した。


「エリス、いい感じだよ!」

「えっ……キャハッ! おじちゃんに褒められちゃった!」


 褒められたことへの嬉しさが、無意識にエリスの異能力を強めていく。おそらく、もっと褒められたいという欲が高まっているのであろう。

 それだけなら良かったのだが、あまりに高まったせいでエリスの異能力を示すメーターが壊れた。それだけじゃない、エリスの桜がボンボンと音を立てて、突然ヘタリと座り込んでしまった。


「えぇなんでぇ〜っ! 動いてよぉ〜!」


 そんなことが起きている間に、バケモノは僕達を取り囲んでいた。

 だけど、その間に僕達の頭上の空は雲が晴れて光が差していた。


「これでどう⁈」

「これだけ明るかったらバケモノも近づけない! 一緒にやりましょう!」

「イエッサー! 空から降り注ぎし光よ、我が矢を導け! 『サンアロー』!」


 僕達を取り囲むバケモノの群れを、プレイアさんの放った矢が光を纏いながら次々と射抜いては貫いていく。


「え、え。プレイアさんって天候変化のスキルですよね?」

「それは、一般ヒーローとして公開してるスキル。本当は光を操るスキルだよ」

「えっ」


 それで、出撃前にモスイさんが語っていたことを思い出した。




「一般のヒーローじゃ扱えない」




 その言葉が意味していたこと、少しだけど分かった気がする。そうとなれば、僕だって。


「もっと面白いことやります! ソゥレ!」


 僕は太刀を地面に突き刺す。その地中から、火が吹き出し、あちこちへと広がっていく。

 バケモノは炎の光からも避けていき、やがて一箇所に集中した。


「今です!」

「オッケー! ふぅ……っ! えぇい!」


 陽の光を集めに集めた矢を放ち、逃げ場をなくしたバケモノは一斉に消滅した。

 そして、全てのバケモノの討伐は終わったが、雲が晴れる気配がしない。


「今なら晴らせられるよ」

「じゃあ、お願いします!」


 晴れない原因が分からず、プレイアさんの異能力で空を晴らすことにしてみた。

 プレイアさんの異能力で、たしかに空は晴れていく。だが、その光によって現れたのは、恐竜のような、4本足の真っ黒いドラゴンだ。だがもちろん、ドラゴンなわけがない。


「あれ……もしかして……」

「桜のレーダーに反応ありだね。しかも認証済みの異能力者」

「どういうこと……?」


 話に置いてけぼりのエリスが無線機で情報を得ようとしてきた。


「つまり、えーっと……登録済みの異能力者、みたいな?」

「余計に難しくなってるよ。だからね、すっごく簡単に言うと、あれは仲間ってこと」

「えぇ〜⁉︎ の恐竜さん、仲間なの⁉︎」

『きみたち、良いから早く行きなさい』

「あ、ごめんなさい……」


 たしかに説明している暇があれば行かなきゃ。そう思って、もう一度テイラがいる場所を見つめ返したが、そこにはもう、何もいなかった--。


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