第21話 消えし君
レッドウルフがテイラを介抱して、滑空スキルを使い安全な場所まで運びにいく。
その間に、プレイアさんの天候変化スキルで雲を一切無くして、日光が当たるようにし、明かりのない地中に住むバケモノを苦しめるようにした。
その様子を、僕はカメラの画面をしっかり見ながらこのライブ映像を届けている。画面越しなら、ヒーローの動きをよく見てきた。その動きを再現すると思えば、さっきより上手く撮れている気がする。
「撮るだけじゃなくて総指揮も頼む!」
「先に言っとくけど、ドラバースと協力する気はないからね!」
いきなりの縛り要求に、僕は少し戸惑ったが、よくよく考えればプレイアさんとドラバースの異能力じゃ協力しにくい。
プレイアさんが後方支援、ドラバースが攻撃という形が理想だ。
「プレイアさん、指示があるまで待機でお願いします! ドラバースは、全力で攻めに転じてください!」
「了解!」 「了解だよ!」
ドラバースはロボットの方へと距離を縮ませていく。そのまま、物体温度変化スキルを使ってロボットを形成する金属を熱して溶かしていく。
だが、その様子をカメラ越しで見ている僕は、ある違和感を感じた。
「なんか……いつものドラバースなら一瞬で溶かせるのに……」
僕の知っているドラバースは、飛行機を乗っ取ったジャック犯の拳銃を一瞬で溶かしてしまうくらいの異能力だ。
だけど、今のは3秒はかかっている。しかも、溶けたといえども全体じゃなく一部だけ。
「……ドラバース、調子悪いんなら引っ込んでなさい!」
「大丈夫だ、ただの演出だぜい!」
「……っ!」
ドラバースの背中を見つめるプレイアさんの濁った瞳に、僕はプレイアさんの言葉を思い出した。
「……ねぇ、アランくん。もし、もしもだよ。理想と現実が違ったら、アランくんはどうする?」
あの言葉の意味が、ようやく分かった。でも、どうしてだ? 異能力が弱まるのは40代半ばくらい。だけどまだ、ドラバースは38歳。弱まるどころか最高潮時代のはずだ。ならなんで、異能力が弱まるんだ?
「ドラバース……っ!」
こんな僕でも、支えになれるなら、僕はなんでもしたい。それ以上に欲なんてない。ペンがインク切れでも、突破口を開きたい。そんな強さが欲しい。
カメラ片手に、僕がそう願ったそのときだった。
「ギギギ……ガガガ!」
ドラバースが攻撃したものではない一体のロボットが異様な音を出して回路をショートさせた。
「えっ……」
ありえない現象に、僕はカメラの周りを確認する。その僕の瞳に、僕の右手が止まった。右手の甲の痕が、白く輝いている。
やっぱり、これに何かがあるんだ。何かは分からない。でも力になるのなら、今はなんでも良い。ロボットさえ壊してしまえばバケモノだけになる。
僕はカメラを三脚に置いて固定し、ドラバースの前へと飛び出た。
「なっ、お前!」
「ドラバースはカメラお願いします。僕だって、やれるんです!」
僕が欲を出せばその通りになる。それが分かった今、やれることは1つだ。突破口を開く。もちろん戦うことは怖い。でもヒーローの支えになれるなら、恐怖心もなくなる。だから戦える。
「……僕は、やれます! プレイアさん、雨を降らせてください!」
「あ、雨⁉︎ 分かった!」
プレイアさんのスキルは、まだレベル中だけど雨は勢いこそ弱いけれどすぐに降り始めた。僕の考えた戦法には雨が必須だった。勢いは関係ない。さぁ、やろう。
「雷よ、落ちろ。避雷針が欲しい!」
僕の欲が、避雷針を実現化させる。だけど、やはり大きさの制限がかかり、一般のものより一回り小さい。
でも、そこ目掛けて雷が落ちるように、プレイアさんがスキルを使ってくれている。
「アランくん、目と耳閉じて!」
「は、はい!」
目も耳も閉じるだけじゃ足りないだろう。そこで僕はアイマスクとヘッドホン。それに合わせて感電を防げるように全身用のゴムスーツも実現化させた。
間一髪で間に合い、全てが揃った後に雷が落ちた。
「ん……あっ!」
ロボット全てがショートし、そのショックでバケモノは全て灰に変わっていた。
「……ふぅ~」
「ちょ、アランくん⁉︎」
安心感と消え去った恐怖心が僕の膝から力を奪って、僕を倒れ込ませた。
「で、できた……!」
「うん、凄かった!」
「……」
ドラバースはカメラを持った手をブランと下げ、悔しそうに唇に歯を噛み締めていた。その唇からは、血が出ていた。
「……プレイアさん、あの……」
「あぁ、もう! 男のくせにだらしない、優柔不断! だから嫌いなの!」
「っ! なんだとぉ⁉︎」
「あ、あの! ケンカは--」
『おっほほほほ! 我の邪魔だてをするくせに仲間割れかい? 愚かだねぇ……それよりも、そこのガキ!』
雨雲の中から、あの高笑いと高飛車な声がした。
目を凝らせば、やはり奈落だった。僕を指さしている。
「なに?」
「厄介者は、芽のうちに摘んどかないとねぇ! くたばりな!」
「なっ⁉︎」
奈落は空から目の前まで瞬間移動すると、かんざしを僕に向けた。
「なっ、させるか!」
「うわっ⁉︎」
ドラバースが僕を突き飛ばす。だが既にかんざしを握りしめる奈落の手が僕の目の前にあった。
僕はたしかに助かった。だけど、目を開けるとそこにあった光景は、信じがたいものだった。
「……ドラバース?」
たしかに僕はドラバースによって救われた。なのに、奈落の前には彼の姿がない。
「ちっ」
奈落は僕を睨みながら舌打ちし、地面の中へ溶け込んでいく。
「ドラバース……?」
「……もう、いない」
「え?」
降りしきる雨が、強くなっていく。僕が実現化させた避雷針も、欲をなくしたせいで消えている。
ただただ冷たい雨が僕達を濡らし、耳を痛めるくらいに雷が鳴り響く--。
ようやくここまで書けました。少し修正したい部分があるので投稿ペースが落ちるかもです。ご理解のほどお願いします。