第2話 いつも通りだ
大学の講義が終わり、次の講義までは1時間以上の空き時間がある。その間に、昼食でも摂って時間を潰すことになった。
そんなこんなで立ち寄ったのは、キャンパス通りにあるカフェ。机には、注文したコーヒー2杯とドーナツ4個が並べられている。
「うーん、ダブルベリー美味しい!」
「抹茶リングのほうが美味えだろ」
「甘味こそ美味しいよ!」
「苦味こそ旨味だ!」
好物が正反対な僕達だから、いつもぶつかり合う。だけど、やっぱりこういうのが楽しいや。
「ん~……? なんか、外騒がしくない?」
「だな」
窓の外から「わーわー」と叫ぶ声が聞こえる。だけど防音機能がついているせいで、なんて言っているのか聞こえなかった。
なんとか耳を澄ましてみようと眉間にシワを作るほど真剣になっていたところに、入り口の方から窓ガラスの割れる音がした。それと同時に、悲鳴が聞こえる。
「な、何⁉︎」
「おいおい、事件じゃねぇのか⁉︎」
「えぇっ⁉︎」
こんな白昼堂々と事件なんか起きるわけがないと一瞬思ったが、破壊音に悲鳴、それとこの緊迫感は事件以外なんでもないだろう。
そう考えていたところに、1人の全身黒で覆われた黒犬獣人が僕達の座る座敷の列へと駆け込み、銃を1発天井に発砲した。
「オメェら、動くな!」
「うわぁ、嫌な予感」
こういう事件って、絶対的に連絡手段を破壊されるんだよな。提出課題が入ってるから壊されたくないしなぁ。そうだ!
「おいお前! カバンの中見せろ」
「は、はい……」
おそるおそる、僕は手を震わせてカバンを差し出した。
もちろん、獣人は中を確認すると思われるだろうが、それを持った途端に、目を大きく見開かせて僕にカバンを投げてきた。
「空っぽじゃねぇか⁉︎」
僕は「透明化」とスマートフォンのメモ機能に書いて、連絡手段となるものを透明化させた。
もちろん質量は残るから、机の上に置いている。
「うん、空っぽ。で……悪いけど、ここにヒーローいるんだよねぇ?」
そう。僕と同じ席に座るテイラは、まだまだ無名ながらにもヒーローだ。
「隙だらけだぜ!」
ポカンと口を開ける獣人の鳩尾をテイラは殴った。それだけで充分なダメージだ。獣人が手に持っていた銃を拾い、テイラは踏み潰した。
だが、他の列の方からドタドタと足音がする。おそらく、無線機か何かで連絡を取っていたのだろう。テイラの攻撃が気付かれ、一瞬で僕達の列は犯人グループに囲まれていた。
「どうするよ?」
「大勢の前だから、あまり使いたくないけど……やるよ!」
僕は咄嗟にレシートの裏にあるものを描いた。そしてそれが実体化すると、店内はざわついた。
僕が描いたのは--
「器物損壊と恐喝罪で現行犯逮捕だ!」
犯罪者にとってはこれ以上とない脅威である警察だった。もちろん、パトカーのおまけ付き。ただ夢中で描いたせいでここがカフェだったことを忘れていた。
「ちょ、何やってんだよ⁉︎」
「ごめ~ん、インパクト重視しちゃった」
「どうすんだよこれ……って、何呑気にコーヒー飲んでんだ⁈」
「え、ダメ⁈」
どうしようもないことだし、僕の仕業ってバレたら一大事だから、何もなかったようにしてコーヒーでも飲んでようかと思ったんだけどな。
「まったく……ていうか、目立ったことすんなよ? お前の力は、世界だって簡単に壊せんだぞ?」
「分かってるよ。でも、できないけどね」
「まあ異能力を使うには欲が必要だからな。お前にはそんな欲はないか」
「そうそう。あ、講義遅れちゃう! 早く食べないと!」
ゆっくりしすぎたせいで、次の講義まで残り20分だった。でもまあ、これが僕達のいつも通りか。ドタバタばかりの日々。緊急事態だって変わらない僕達でいよう。さて、僕らしくいきますか。