第14話 亡霊の住まうところ
嫌いな人を受け止めるのって、普通はできないですよね。創作ってそれすら出来ちゃうからすごいって思います。
さて、本格的に敵も今回から動き始めます。書くのがもっと楽しくなってきました!
~地球防衛放送局本部~
社長とモスイさんが待つ門に戻ってきて、僕とレッドウルフはさっき起こった出来事を伝えた。
「ふぅむ。つまりは、幼体を退治したってことだね?」
「はい。メイラーンでした」
「ていうかマスケル、まさか銃弾使ったのかい⁈」
「使うしかないだろ、バケモノがいたんだ」
「ヒーローじゃないことを意識してもらわないと困るよ、レッドウルフくん」
「ぷっ」
ヒーローじゃないと言いつつ、ヒーロー名で呼ぶ社長に、思わず僕は吹き出してしまった。
「面白いか、今の」
「いや、テイラくんと一緒にいれば笑いのツボも浅くなるだろう」
「アッハッハ! 笑うことは良いことさ」
「それで……あの、レッドウルフの謹慎期間、終わらせてください」
僕からのお願いに、レッドウルフどころかモスイさんも社長も口をポカンと開けていた。
でも気にせずに、お願いを続けた。
「たしかに、ミスで僕のお父さんの命を奪いました。でも、ヒーローっていう仕事自体、いつ死んでもおかしくないもの。そんな中での事故なら、僕は許します。だから、お願いします! レッドウルフの復帰を、お願いしたいです!」
深々と頭を下げてお願いし続ける僕を見ながら、社長とモスイさんはコソコソと話している。だけど、レッドウルフの手が、僕の頭を引き上げた。
「良いんだ、俺がやったことをお前が尻拭いする必要はない」
「あるよ! だって……ヒーロー、やりたいんでしょ?」
思い切って問いただしてみる。レッドウルフの本音を、聞き出すために。歯に噛む必要もない。それを伝えるために。
「……あぁ、やりてぇ。もう一度、やりてぇけど、怖い。また奪うんじゃないかってな」
「そう言うから退所処分にしたんだが、上の方から謹慎処分に変更されてね。でも……」
「レッドウルフくんの本音を聞けて良かったよ。それじゃあ、早速だけど……ちょっと見てほしいものがあってね」
目の色を変えて、社長はタブレット端末の画面を立体映像にして僕達に見せた。
それは、東京と神奈川の地図。そして赤い点が点々と付けられていた。
「これは過去1年間で起きたバケモノ発生の中心点だ。これを結ぶと、右斜め上を指し示す矢印みたいになる。まだ所々が欠けているせいで概算にはなってしまうけどね」
「つまり、この欠けたどこかがバケモノ発生の中心になる……」
「少なくとも社長はそう考えている。上の方がどうかは分からないけどね」
でも、その予想は合っているかもしれない。この1年間、明らかにバケモノ発生のペースが尋常じゃないほどに早い。この時点で怪しいくらいだ。
「それでバケモノ発生源を調査した結果、異能力の使用した痕跡が見つかった」
「じゃあ、まさかこれって⁉︎」
「そうだよ。これは、人為的に起きているバケモノ発生だ」
「人為的……か」
バケモノの発生は、通常1ヶ月に1回あるかどうかだ。だがこの1年間で37回も起きている。だから僕も違和感を感じていたし、少し恐れていた。
「それでだが……次のバケモノ発生源が、まさにこの銀座なんだ」
「えぇぇっ⁉︎」
「だが、まだ怪しい人物を発見できていない。それなのに幼体が現れていた。となると、遠隔的にバケモノを呼び寄せているのだろう」
まさに、行き詰まったと言っても過言ではない。遠隔的に呼び出しているとすれば、その異能力者を特定することなんて到底不可能だ。
『オーッホッホッホッホ! バケモノ騒動で政府転覆と思ったけど、邪魔者がいるみたいだねぇ!』
そんな僕達の耳に、甲高い女の笑い声が響いた。その声は、本社ビルの屋上から聞こえた。
「なっ、何者だ貴様⁉︎」
「ふふっ。憎しみの血に染まりし紅の鬼。紅の奈落」
奈落と名乗る女は、手招きの仕草をしながら、地中から黒い塊を呼び寄せた。それを女が手に取ると、針のように鋭く尖ったかんざしになった。
「ソゥレソレ」
そのかんざしを地面に突き刺すや否や、バケモノへと変わっていく。
「まさか、お前が⁉︎」
「そう。この奈落、地中で嘆くだけの命を呼び寄せているのさ!」
目を真っ黒に染めて、奈落は次々にかんざしを刺してはバケモノを呼び寄せる。
「その目、さてはお前もバケモノか⁉︎」
「アッハッハ! 貴様ら如き、我が相手することもないわ! アッハッハッハ……!」
笑い声を残して、奈落は地中へと潜り込んだ。それと同時に、呼び寄せられたバケモノの目の色が赤に変わった。
「まずい! 成体になる!」
「おいおい、どうすんだこれは⁈」
「レッドウルフ、あの銃弾があれば良いんだよね⁉︎」
「あ、あぁ?」
僕は咄嗟に欲を全開にしてあの銃弾の絵を描く。たくさん、もっとたくさんという欲を出しながら。
そして一気に高さ20センチメートルはありそうな山盛りになるほどの銃弾が実現化した。
「これだけあれば充分だ! 社長!」
「……まったく、君ってやつは。良いだろう、先頭を許可する」
「え、ちょ、社長⁉︎ ライブは⁉︎」
「君に任せたよ」
社長が僕を見ながらそう言った。言いたいことが理解でき、僕はカメラとマイクをすぐに描いて実現化させた。だが、さっきの銃弾と今ので、完全に体力が底を尽きてしまった。
「助かったよ、あとは休んでおいて」
「は、はい……」
視界がグラングランに歪む。だけど、必死に戦っているレッドウルフの姿に、僕の体力が何故か蘇ってくる。
次から次へと襲いかかってくるバケモノの群れを、焦りを見せることなく飛翔のスキルを全力で扱いながら冷静に銃弾を打ち込んでいく。
その姿は、れっきとしたヒーローだ。気付けば僕はまた絵を描いていた。だがそれは、実現化しなかった。
やはり僕のスキルランクではでは、大きすぎたり重すぎたりするものは実現化できないらしい。
再び視線をレッドウルフに戻すと、既に全てのバケモノは息絶えていた。
「……この映像を見ている視聴者様。レッドウルフは、あの事故以来ヒーローを辞めていた。しかし……」
レッドウルフはカメラに向かって語りを始めた。だが一瞬カメラから離れたかと思うと、僕の肩を支えてカメラの前に戻った。
「この、メイビス・アラン。あのメイビスの息子が、俺をヒーローにしろってお願いしてくれた。決して許してくれなんて言っていない。アランから、許してくれた。信じてくれなくても良い。ただ、アランには何も言わないでほしい。傷だらけのくせに俺をヒーローにしてくれたアランを、責めないでもらいたい」
僕を見ながら、レッドウルフは瞳を大きく揺らしていた。今にも泣きそうだった。
僕は咄嗟に、肩を支えてくれるレッドウルフの手を右手で握った。
「ありがとう、レッドウルフ。これから、一緒に頑張ろ!」
僕は大きく笑ってみせた。無理なんかしていない。正直な僕の思いだ。何を言われても、レッドウルフは正真正銘のヒーロー。それだけは胸を張って言える。
あの震えていた手が、僕の心を変えてくれた。あのとき、もしレッドウルフが手を震わせることなく発砲していたら、僕は間違いなく反射的に。殺していただろう。
その僕は、もういない。今の僕は、レッドウルフをヒーローとしか見ていないのだから。