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第12話 仇討ち

 今回は書くのに苦戦しました。子供相手だと、今回のような事例をどう説明するのか分からずほぼカットしてしまいました。

 ただ、流れはちゃんと書いたので問題はないはずです。

 僕は、憎しみを込めて文字を書く。そのはずなのに、指が震える。あのときの声が、僕の指の邪魔をする。文字を書き進めれば進めるほど、声が強くなっていく。

 その声は、僕がまだ小学生の頃に聞いた、優しく温かい声だった。




 その声を聞いた日は、僕が家族一緒に遊園地へ行った日だった。

 お昼ごはんをレストランで食べている最中に、あの事件は起きた。

 

 『パーンッ!』


 という、大きな爆発音のようなものが店内に鳴り響いた。それと一緒に、悲鳴も聞こえる。


「っ! まさか、立てこもりか⁉︎」

「あなた、どうすれば良いの⁉︎」

「落ち着け。アランとお前は、ここに残ってろ」


 お父さんがヒーローということもあり、僕達は店の奥にあるVIP席にいたおかげで動揺するだけで被害は落ち着いていた。


「よしっ、他のヒーローにも電話しておいた。アラン、ちょっと絵を描いてくれ」

「な、何の?」

「いつもの、《《おまじない》》だ」


 その《《おまじない》》は、今の僕じゃ書いても実現化できないものだ。

 僕が書いたのは、ただの星屑だ。お父さんは、太陽以外の自然の光を浴びることによって肉体強化ができる異能力を持っていた。


「それじゃあ、行ってくる。アラン、《《良い子》》で待っているんだぞ?」

「……うん!」


 僕は去っていくお父さんの背中を見つめていた。いつものように、笑って帰ってくると信じて。

 だけど、いくら待てども帰ってこなかった。そして大きな足音がVIP席に近づいてくる。

 もしやあの爆発音の元凶が近づいてくるのではないかと、僕はお母さんにしがみついた。


『メイビスさんのご家族ですよね⁉︎』


 目を思い切り瞑った僕の耳に、息を切らしながら慌ててそう問いかけてくる声が聞こえた。

 危ない人じゃないと分かって、僕は目を開けた。声の主は、オレンジ色の防護服を身に纏った普通の警察官だった。


「え、えぇ……?」


 お母さんも戸惑いを隠せぬように、ぎこちない返事をした。


「実は……お子さんの前ではあれですので、こちらへ」


 そう言って、警察官はお母さんを連れて行った。その頃の僕じゃ、何が何だか分からずただ席について、オレンジジュースを飲みながら家族の帰りを待つことしかできなかった。

 --もう二度と、お父さんが帰ってこないなんて思いもせずに--。




 その翌日のことだった。警察署とヒーロー事務所からの謝罪訪問があったのは。


「「この度は、大変申し訳ございませんでした」」


 スーツ姿の社長とレッドウルフ、そして警部長を名乗る3人が玄関で深々と頭を下げていた。

 それを、お母さんが黙って見下ろす。何が起きているのか分からず、僕はお母さんの後ろに隠れているしかできなかった。


「レッドウルフ、いやマスケルの誤発砲であのような惨事が起きてしまったこと、心より深くお詫び申し上げます」

「……」

「マスケルへの処罰としては、3年間の謹慎期間と、ヒーロー事務所の退所を考えております」

「……」


 お母さんもレッドウルフも黙ったままだった。いや、お互いに言葉を噛み締めているようだった。

 そんなことにも気付けず、僕はなんとも場違いで失礼な言葉を放ってしまった。


「ねぇ、お父さんはどこ行っちゃったの?」


 その言葉が、ただでさえ大きく開かない全員の口を一文字にさせてしまった。


「えっと……?」

「アラン。お父さんはね、もう帰ってこないの」

「え……そんなわけない、だってお父さん、最強のヒーローだもん!」


 信じられなくて、僕は何を思ったのか外へと飛び出した。僕の頬を照らしつける陽光が熱くて痛い。でも、絶対返ってくると信じていた僕の思いのほうがずっと強く、お父さんとよく行った近くの河原へ立ち寄った。

 青空を反射しながら流れていく川を眺め、僕は隣を気にする。だけど、いくら待っても誰もこなくて。寂しさと悲しさが、涙を流す。

 そんなときだった。僕の後ろに、一台の黄色いオープンカーが停まった。優しく閉じられた運転席のドアから出てきたのは、金髪でガタイの良い男性。そう、若かりし頃のドラバースだ。


「子供1人でどうしたんだ? 迷子か?」

「ううん……お父さんが、返ってこないって……!」


 堪えきれずに、僕はブワっと泣き出した。そんな僕を、ドラバースは優しく抱きしめてくれた。


「もしかして、坊主……メイビスの息子か?」

「知ってるの?」

「あぁ……そうだよな、知らねぇはずだ」


 ドラバースは、事情を一瞬で分かってくれた。だから、余計に涙が溢れて止まらなくなった。


「あぁ、泣くな泣くな。ほーら、これなんだ?」


 ドラバースが泣いている僕に、何かを見せてきた。先端が尖っていて、底面は欠けている。触ってみると、ゴツゴツしている。


「これはな。俺が最初に戦ったバケモノの角だ」

「え、おじさんヒーローなの⁉︎」

「お、おじさんは酷いな。これでも26歳の若者だ」


 苦笑いしながらも、ドラバースは僕の頭を撫でてくれた。


「お前の親父さん、スッゲェヒーローだ。お前もヒーローなるのか?」

「うん……なりたい! お父さんみたいな、カッコいいヒーローになりたい!」

「そうか! 俺、ドラゴンバースっていうヒーローだ。お前がヒーローなったら、歓迎してやるぜ!」


 ニカっと大きく笑って、ドラバースは僕の肩を強く叩いた。

 

 あの感触、今でも覚えている。そう思うと、今の僕は何をやっているんだろうか。ヒーローを殺したところで、ただの殺人犯だ。レッドウルフは、ただの事故で誤って殺しただけ。それを恨んで、殺意を込めて殺すなら、悪は僕だ。

 それが分かった途端に、僕の書いていた文字は粉のように消えていく。


「……レッドウルフ」

「どうした?」

「……許せないけど、すごく妬ましいけど……でも、許すよ。だって、お父さんと、ドラバースと約束したから!」


 悔しいけど、置き場のない感情を僕は飲み込んだ。そうするしかないと、ようやく受け止められた。


「……あのとき、何も言えなくて悪かった」

「もう良いよ。終わったことだし、お父さんだって人を恨むようなヒーローじゃない」

「……正直、お前が羨ましい」

「え?」


 僕を見下ろしながら、レッドウルフは瞳を大きく揺らしていた。


「あんなすごい人が家族にいて、自分は幸せだって、お前はそう思わないのか?」

「ううん。思ったことない。でも……お父さんはすごいなとは、ずっと思ってた。僕もあんなヒーローになれたらなって、夢見てた」


 その言葉を聞いて、レッドウルフの瞳は濡れていた。


「……実はな、メイビス。お前の話をよくしていたんだ。その幸せを奪った俺は、身体を壊してでも努力したい。あの人の代わりになれるように」


 レッドウルフの頬をキラリと伝う涙が、その覚悟の全てを物語っていた。

 だけど、僕なら分かる。もしお父さんだったら、どうしているか。


「そんなこと、させない!」

「っ!」


 ブランと下がったレッドウルフの手を、僕が力一杯握りしめてそう伝えた。


「自分のことも顧みないヒーローが、人の命を守れるわけない!」

「……フフっ、ハハ! あの人に怒られてるみたいだ」


 それもそうだろう。この言葉は、よくお父さんが僕を叱るときに必ず言っていたことだ。よく怒られたから、今でもちゃんと覚えている。


「だから、手伝うよ。嫌いだけど……一緒に」

「……良いのか?」

「やるしかない、でしょ。残り5日だし、第一段階は起きてるし」

「……それじゃあ、よろしく頼む」


 チグハグな僕達で、バケモノ出現の第一段階が過ぎたことを伝えにいこう。僕の覚悟も、一緒に連れて。

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