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9.懐かしき戦友

 手続きを済ませ、部屋に移動する。

 一人用の小さな部屋だ。

 当たり前みたいにベッドは一つだけしかない。


「わぁー、部屋が見つかってよかったね!」

「そうだな。ベッド一つしかないけど」

「でも寝袋より大きいよ? これなら二人で使えるでしょ?」

「寝袋と比べたら……え? 二人で?」

「うん。あれ、ダメだった?」


 アナリスはキョトンとした表情で尋ねてきた。

 理解して言っているのだろうか。


「お前、同じベッドを使う気でいたのか」

「うん。だって十年前はよく野宿で隣り合わせに寝てたでしょ?」

「それはそうだが……」


 あの頃とは違う。

 緊急性はないし、何より俺はおっさんになった。

 彼女は昔の外見のままだ。

 端からどういう風にみられるか、正直ちょっと怖い。

 俺は彼女に背を向ける。


「俺は椅子で寝るよ。ベッドはお前が使ってくれ」

「ダメだよ! それじゃ休めないでしょ?」

「いや、さすがに同じベッドは」

「ひょっとして、私のこと意識しちゃってるの?」


 この感じ、アナリスにからかわれる気がする。

 昔から彼女は、俺が照れたり動揺したりすると、よくニヤニヤしながらからかってきた。

 そうはさせないぞ、という気持ちで、俺は否定しようと振り返る。

 

「そんなわけ――な……」

 

 否定するつもりだったんだ。 

 でも、できなかった。

 彼女のあんな顔、初めて見たから。

 うっとりとして、色気を含んだ嬉しそうな笑顔を。


「そっか」

「……」

「えい!」

「あ、ちょっ」


 アナリスに手を引っ張られ、そのまま一緒のベッドに倒れ込む。

 互いの顔が近づき、呼吸や心音も聞こえる距離になる。


「おやすみ、ライカ」

「……ああ」


 今夜は眠れそうにない。

 緊張して。


  ◇◇◇


「ねぇねぇ! いい加減教えてよ!」

「もうすぐだ」

「ええー、ここ森の中だよ?」

「そうだな」


 王都に向けて出発して一週間。

 俺たちは寄り道をするため街道を外れ、森の中を歩いている。

 そろそろ気配で気づきそうなものだが、十年の眠りで感覚も鈍っているのだろう。

 俺でさえ、彼らの下に近づいている気配を感じている。

 もうすぐ、あと少しで再会できるだろう。

 彼女がどんな反応をするのか楽しみだ。

 そして、今の彼らがどんな生活をしているのか、実際に見るいい機会になるだろう。


「あ! こんなところに集落がある!」

「到着だな」


 俺たちはたどり着く。

 森の中に作られた原始的な集落に。

 俺たちがよく知る街並みとはまったく別物。

 森の中にあり、森と共存しているかのように、建物が風景に溶け込んでいる。

 入り口らしき木製の門があり、そこへ近づいた。

 すると、俺たちの道を阻むように、ローブの男が立ちはだかる。


「止まれ。ここへ何の用だ?」

「――! 知人に会いに来た」

「ここはエルフの里だ。人間、名を名乗れ」

「おいおい、十年で俺の名前も忘れたのか?」

「――ぬかせ」


 ローブの男の口元がニヤリと笑みを浮かべ、直後に地面を強く蹴り、突進してくる。

 彼の手にはいつの間にか、懐かしき長槍が握られていた。

 あらゆる障害を突き破る魔槍ダート。

 狙うは心臓。

 回避は困難。

 故に、受け止める以外の選択肢はない。

 俺は腰の剣を抜き、彼の一撃を剣の腹で受け止める。


「――スキルで筋力底上げしたな?」

「そうしないと、お前の突きは止められないからな」

「バーカ! 本気なら突き破ってるぜ」

「手加減してくれてどーも。久しぶりだな、クーラン」


 声の時点でわかっていた。

 懐かしき戦友。

 勇者パーティーの槍手、彼がクーランであることを。

 

「よぉ、随分とおっさんになったじゃねーか。ライカ」 

「お前も歳をとったな。その割に若く見える」

「だろ? ま、お前より三つ下だしな。まだ二十代だ」

「三つくらい変わらないだろ」

「クーランだ!」


 遅れて彼に気付いたアナリスが、跳び上がるほど喜んで駆け寄ってくる。


「気づくのおせーよ。寝坊助は相変わらずだな、アナリス」

「ひっさしぶりだね! クーランも元気そうでよかったよ!」

「驚かないんだな。彼女のこと」

「驚いてるよ。こんなに時間かけやがってってな」

「えへへ~ ご心配をおかけしました!」


 アナリスは満面の笑みを見せる。

 この笑顔を見せられると、なんでも許してしまう。

 俺も、クーランも一緒だろう。

 俺たちは互いの顔を見て、飽きれて笑う。


「ねぇ! エルフの里って言ったよね? クーランがいるってことはさ!」

「ああ、いるぜ。ここはあいつの故郷だからな」


 クーランの言葉に瞳を輝かせ、俺のほうを見る。

 俺は小さく頷く。


「二人に会いに来たんだよ」

「早く教えてよ! やっぱりライカは優しいけど意地悪だね」


 そう言って嬉しそうに笑う。

 喜んでもらえて何よりだ。

 彼女は俺の手を引く。


「早く会いに行こうよ!」

「引っ張るなよ。クーラン、案内頼めるか?」

「おう。ついてきな」

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