6.栄光と失墜
ライカとアナリス。
二人が運命の再会を果たしていた頃、とあるギルドのパーティーは苦戦を強いられていた。
「くそっ! どうなってんだよ!」
叫んだのはパーティーをまとめるリーダーであり、ギルドマスターでもあるダインズだった。
いつものようにクエストを選択し、冒険に出発した彼らだが、討伐対象のモンスターを前に苦戦し、血と汗を流している。
「身体が重い? なんでだ? 二日酔いならポーションで回復させた! 万全のはずなのに」
「ま、魔力が切れたわ!」
「は? もう? まだ三発くらいしか撃ってないだろ!」
「そ、そうなんだけど、もうないのよ! 次の魔法が撃てないわ!」
剣士や槍使いは動きが鈍り、何てことのない攻撃を避けられない。
攻撃も鋭さが落ちて、硬い表皮に阻まれる。
魔法使いは数発魔法を放っただけで魔力切れを起こし、ただの役立たずと化す。
弓使いも飛距離が低下し、近づかなければ矢が届かず、当たっても大したダメージにならない。
討伐対象は一つ目のオーガ。
B級指定のモンスターで、昨日まではなんてことなかった相手。
しかし――
「か、勝てない! 逃げるぞ!」
勝機が見当たらなかった。
ダインズが叫び、彼らは敵に背を向けて逃げ出す。
この判断は正しい。
今の彼らでは、オーガを倒すことなど不可能だった。
冒険者と同様に、モンスターにも等級が割り当てられている。
冒険者の等級は功績に応じて組合が指定するが、モンスターの場合は強さで決まる。
B級モンスターは、人間のレベル換算で50以上70未満の強さ。
オーガはその中でも低いほうで、大体55レベル付近である。
同じレベル帯ならなんなく倒せる相手であり、事実昨日までの彼らならば問題なく倒せただろう。
だが、彼らはライカを追放してしまった。
彼の持つスキル『シェアリング』の効果により、彼が獲得する経験値を上乗せされたことで、通常の倍近いペースでレベルが上昇。
加えて彼のステータスをそれぞれに割り当て、前衛は筋力を、弓使いは射程を、魔法使いは魔力を底上げされていた。
それらの支援が全てなくなり、50付近だった彼らのレベルは現在35前後である。
彼らは気づいていない。
冒険者カードを見れば、レベルが下がっていることがわかる。
身体の重さも、レベルダウンでステータスが下がった影響だった。
全ては彼らの慢心。
ライカの言葉を信じず、自分たちは特別で、才能があると勘違いしてしまったが故の……失敗。
彼が最後に言い残したように、苦い経験となった。
「くそっ!」
(おっさんのいう通りだったってのか? そんなわけない! 絶対認めないぞ!)
だが、若さ故の傲慢さは、決して簡単には治らない。
もっと痛い目を見るまで。
決定的な敗北感を味わうまで、彼は勘違いし続けることになる。
その日は近い。
◇◇◇
「お久しぶりです! ディレンさん!」
「おお! アナリスさん、お目覚めになられたのですね」
「うん! この通り元気ピンピンです!」
「それはよかった。本当によかった」
ディレンさんとアナリス、二人も十年ぶりに再会を果たした。
魔王との戦いで呪いを受け、勇者が眠っているという話は、実は一部の人間しか知らない。
勇者は世界を救った英雄だ。
そんな彼女の名誉に傷がつかないように、そして解呪の間、危険をできるだけなくすために。
彼女が眠っていることは一部の知人を除いて秘匿されていた。
ディレンさんと俺たちは、昔からの付き合いだ。
元々俺は別で冒険者として活動していて、ある日突然天啓が下り、勇者パーティーとして王都に召集された。
アナリスは冒険者じゃなかったけど、旅の途中で紹介して、それから仲良くさせてもらっている。
「姿はあの頃のままなのですね」
「眠ってた副作用ですよ。ディレンさんはシワが増えました?」
「ははっ、私はもう四十を越えましたからね」
「四十かぁ~ 親子の歳の差だ!」
「いや、肉体が静止してただけで精神は別なんだから。お前も一応二十六だろ?」
十年前、魔王を倒した時は十六歳の子供だった。
元々歳の割に発育はよかった彼女だが、振る舞いや表情から子供っぽい印象が強い。
今も見た目はそのままだ。
「わーやめて! 現実をつきつけないで!」
「そんなに嫌か? 歳取るの」
「もちろん女の子だもん! それにさ? 十年間無駄にしたって思うと、なんだか空しいしさ」
「そういうもんか」
眠っている間、この十年を彼女はどう感じていたのだろう。
あっという間?
それとも、意識はハッキリしていたのか。
後者なら地獄のようだ。
特にやることもなく、なんとなくで十年を過ごしてきた俺も、彼女とは違った意味で空しさを感じる。
「だから! これから取り戻すんだよ!」
「そうだな」
「私も嬉しいです。あなた方が、勇者パーティーがまた見られることが」
ディレンさんは心から嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
つられたように、俺たちも笑う。
ギルドを設立する話は、簡単にだが伝えてある。
「では、アナリスさんも冒険者登録をさせていただきます。よろしいですね?」
「うん! お願いします!」
「では少々お待ちください。準備いたします」
応接室を出て行くディレンさんを見送り、アナリスはソワソワしていた。
「落ち着きがないぞ」
「だってワクワクするもん! 冒険者登録って何するのかな?」
「ああ、そっか。お前は初めてか。別に驚くことはしないぞ? 冒険者カードを作るだけだからな」
俺はポケットからカードを取り出し見せる。
「これがあれば、世界各地の街を自由に出入りできる。身分証みたいなものだからな」
「へぇ~ すごいね!」
「まっ、俺たちは王国から旅の前に通行許可証貰ってるから、これがなくても平気なんだけどな」
「そうだったね!」
「お前は早々になくしてたよな?」
「うっ……昔のことは忘れちゃったなぁ」
口笛を吹けていないが口だけ真似て誤魔化している。
彼女はよくものも失くしていた。
大事な物でもすぐ失くすから、途中から俺たちが管理していたっけ。
「お待たせしました」
「あ、お帰りなさい! その道具は?」
「冒険者カードを作る魔導具です。この水晶に手をかざしてください」
両手で抱えるように持ってきた魔導具。
水晶に手をかざすと光が漏れ出して、下にあるカードに情報を記載して行く。
アナリスは言われた通りに手をかざす。
映し出される情報は、彼女のレベルとステータス、そして保有する三つのスキル。
「終わりましたよ」
「これが私のカード……」
「なくすなよ?」
「うん! ねぇライカ」
「ん?」
彼女はカードを俺に見せながら、輝くような笑顔で言う。
「これで一緒だね!」
「――そうだな」
その笑顔は反則だよ。