5.勇者パーティー再始動
アナリスに手を引かれ、俺たちは街の外にある森に入った。
どこへ向かっているのか教えてもらっていない。
そろそろ森を抜けて、山の麓にたどり着く。
「いい加減、どこに向かってるか教えてくれないか?」
「え? 別に決めてないけど」
「は? じゃあなんで外に」
「うーん、このあたりなら、戦っても周りに危害は出ないと思ってかな?」
「戦うって――!」
直後、頭上を何かが通り過ぎる。
影だ。
雲によるものではなく、シルエットが地面に浮かび上がり、その存在を察知する。
俺は見上げた。
「こいつは!」
「あー、やっぱり追いついてきたね」
見間違いではなかった。
頭上に現れたのは、モンスター界の頂点に位置する種族。
「ドラゴン! しかも赤、レッドドラゴンじゃないか!」
なんでこんな場所にいる?
ここは比較的弱いモンスターが多く、駆け出しの冒険者が育つためにうってつけの地域だ。
ドラゴンなんて最上位のモンスターは過去一度も確認されていない。
理由があるとすれば……。
「アナリス、お前何かしたな?」
「えーっとね~。ライカがこの街にいるって聞いて、道を教えてもらったんだけど迷っちゃって……」
なんとなくオチが見えた。
誰が彼女を一人で旅に出させたのか。
彼女は方向音痴なうえに、極度の巻き込まれ体質なんだぞ!
「レッドドラゴンの巣を通ったんだよね。で、追いかけられて逃げてる途中だったり?」
「お前……なんてものを呼んでくれるんだよ」
「えへへ、ごめん!」
「ごめんじゃない! あーもう、とにかく倒すぞ! こんなのが街の近くにいたら騒ぎになる!」
相手は最上級の黒ではないとはいえ、その一つ下の赤だ。
寝起きに戦うには強すぎる相手だけど、彼女は勇者、何も問題はない。
レベルは俺と同じカンストで、ステータスはスキル『勇者の証』のおかげで大幅に上昇している。
ドラゴン一匹くらい、俺が手を貸すまでもない。
「じゃあいっくよー!」
彼女は自身の胸から聖剣を抜き去り、ドラゴンに向かっていく。
当たり前のように上空へ跳躍し、空を飛んでドラゴンの翼を斬りつける。
だが……。
「――!」
翼の傷が浅い。
聖剣に斬られてあの程度で済むはずがないのに。
ほとんどダメージはなく、レッドドラゴンは反撃し、尻尾で彼女を吹き飛ばす。
「っ!」
「アナリス!」
吹き飛ぶアナリスの背後に回り、彼女を受け止める。
「いつつ……ありがとう。助かったよ」
「お前……ちょっとステータスを覗くぞ」
「え、あ、ちょっ!」
俺のスキルには副次効果で、他人のステータスを細かくチェックできる。
彼女のステータスは十年前にカンスト済み、上がってはいない。
当時の数値もなんとなくだが覚えている。
「やっぱり大幅に弱体化してるな」
「……」
「呪い、完全に解けたわけじゃないんだな」
「あーバレちゃった?」
彼女は俺に抱きかかえられながら、誤魔化すように笑った。
明らかにステータスが低い。
レベルは変わっておらず、魔王の呪いが彼女のステータスを弱体化させている。
俺の記憶が正しければ、本来の三分の一以下だ。
「だから襲われた時に反撃せず、ここまで逃げてきたんだな」
「うん。倒せるか微妙だったから」
「ったく、よく死なずに来れたな」
「だって会いたかったし!」
それは素直に嬉しい。
「それに、ライカがいれば私は負けないよ!」
「――! そうだな。俺がお前を勝たせてやる」
「うん! 頼んだよ、ライカ」
「おう!」
彼女は俺の胸から離れて、再びドラゴンに向かう。
聖剣を両手で握り、ドラゴンは尻尾を振り回して攻撃する。
彼女の聖剣としっぽの攻撃がぶつかり合い、勝利したのはアナリスだった。
俺が持つ第一スキルの名は『シェアリング』。
俺を含む一定領域内の味方同士で、経験値やステータスを共有し、割り当てることができる。
このスキルの効果で、弱体化しているステータスを、俺のステータスの数値で補う。
結果、俺は弱くなるが代わりに、彼女は最強の勇者へと返り咲いた。
斬り裂かれた尻尾が落下し、驚くドラゴンに間髪を入れず、アナリスは首を切断する。
「勝てたよ! ライカ!」
「当たり前だ。お前は勇者なんだから」
「えへへ、そうだったね。私は勇者で、ライカは私の仲間だよ!」
「仲間……か。そうだな」
十年の月日が経とうとも、俺たちは仲間だ。
そう言って貰えることが何よりうれしくて、ホッとするよ。
「だからさ! また一緒に冒険をしようよ!」
「え……」
彼女は俺の前に降り立ち、手を差し出す。
「一緒にギルドを作ろう! みんなも誘ってさ? 今度は行きたいところに行って、たくさん楽しい思い出を残そうよ!」
「アナリス……まさかお前、それを言うために?」
「うん。私はしばらく弱いままだし、足手まといになると思う。でも、ライカが一緒なら、私は誰にも負けない。ライカが私を、勇者にしてくれるから!」
「――!」
その笑顔が、重なる。
十年前と同じ、俺を、俺たちを何度も勇気づけ、くじけそうなった背中を押してくれた。
俺たちの勇者、俺たちの……希望。
改めて実感する。
彼女は目覚めたんだ。
「一緒に行こうよ。どこまでも!」
「――ああ」
この日、止まっていた時間が動き出す。
俺たちの旅は、冒険はまだまだ終わっていない。
勇者パーティーの大冒険、第二幕。
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