41.仲間割れですか
リッチーを倒したエリンと共に、俺たちは馬車へと戻る。
軍事領域のスキルは、自分を含めた周囲の味方を任意の地点に転移させられる。
ただし、普段はあまり自分の転移は行わない。
転移後に周囲の情報を再度収集し、適応しなければならなくなる。
その際に脳に負荷がかかり、仲間を転移させるまでにインターバルが発生するからだ。
リッチーは倒したが、発生したアンデッドは消えていない。
つまり、戦いは継続している。
「エレンちゃん!」
「うお! エリンかよ! ビックリさせんな!」
「ご、ごめんなさい」
転移したエリンがエレンに声をかけ、突然のことで大きく跳び上がるように驚いていた。
アナリスも彼女の帰還に気づく。
「エリンちゃん戻ったんだね! ってこと!」
「はい! リッチーは倒しました」
「おお!」
「なんだと……?」
それを遠目に聞いていた男は驚愕する。
リッチーはA級指定のモンスターでも上位の強さを誇る。
それを一瞬で、しかも侮っていた冒険者たちが討伐したことで、驚きを隠せない。
「やったな! あれ、でもなんで一人なんだ? おっちゃんは!」
「ライカなら大丈夫だよ」
「え? なんでわかるんだよ」
「決まってるよ! ライカのこと、誰よりも信じているからね!」
彼女の声が響く。
信じてくれていると……ならば応えよう。
「――流麗なる舞踏」
木々の間をすり抜けて、渦巻く水の柱が複数着弾する。
アンデッドの弱点は聖水。
水による攻撃で、アンデッドの能力は大幅に弱体化する。
残念ながら弱体化するだけで倒せるわけじゃない。
だから俺の役目は、倒しやすくすること。
「凍てつく風」
濡れたアンデッドに対して凍結魔法を追加で発動する。
アンデッドの足は地面に固定され、身動きが取れなくなる。
俺は皆に叫ぶ。
「今のうちに倒すんだ!」
「おっちゃん!」
「おかえりなさい。ライカ」
「ああ、ただいま」
少し遅れて、俺も彼女たちの下に帰還する。
エレンは心配してくれていたのだろう。
俺の顔を見てホッと胸をなでおろす。
「おっちゃん魔法も使えたんだな!」
「まぁな。プラトがいるから普段は使わないけど」
うちには最強最高の魔法使いがいる。
俺は魔法を使えるだけで、練度は彼女に遠く及ばない。
魔法適正がBの俺と、Sのプラトでは威力や範囲に天と地ほどの差がある。
俺が魔法を使う時は、彼女が不在の時に限る。
「こういう時があるから。覚えておいてよかったと思うよ」
「やっぱすげーな! おっちゃん!」
「本当に、凄い人ですね。ライカさん……」
「ん? なんかエリン、顔赤くねーか?」
「き、気のせいだよー! そ、それよりほら! まだ残ってるから」
「あ、そうだった! ちゃっちゃと終わらせるぜ!」
リッチーを倒したことで、これ以上アンデッドは発生しない。
加えてリッチーの強化もなくなり、再生能力が大幅に低下している。
今なら軽く燃やすだけで倒せるだろう。
俺たちは手分けして、周囲のアンデッドを撃退した。
最後の一体をエレンが倒す。
「これで終わり! よっしゃー!」
「お、お疲れ様、エレンちゃん」
「エリンもな! 大活躍だったな!」
「う、うん。ライカさんのおかげだよ」
俺は念のために周囲を見渡し、これ以上の気配がないことを確認する。
リッチーは倒れる間際、あの方という言葉を発した。
あれはつまり、リッチーを操っていた黒幕が存在することを意味している。
リッチーを従えられる時点でただ者じゃない。
「アナリス、この件やっぱり悪魔が絡んでるな」
「何かわかったの?」
「まだ何も……リッチー以上の脅威が近くに迫っているとだけ」
「悪魔……グラーノかな?」
「さぁな。あいつならリッチーを使役することも、いかれた手段でモンスターを作っていることにも合点がいくが」
あまり考えたくはないな。
一度は倒したはずの悪魔が復活するとしたら……。
俺たちの戦いは終わらない。
この先も永遠に。
「復活なのか。それとも俺たちが逃しただけなのか。できれば後者であってほしいな」
もし前者なら、俺たちは備えなければならない。
悪魔が復活する。
つまり、魔王サタンの復活も、可能性としては考えられるということだから。
今復活されたら、確実に勝てないだろうな。
少なくとも、彼女の呪いを完全に解呪してからじゃないと。
「も、もう大丈夫なのですか?」
「――ああ、すみません。報告が遅れました」
一塊になり隠れていた行商人たちが恐る恐る顔を出してくる。
戦闘音がなくなったことに気づいたようだ。
俺はニコリと微笑み、周囲を見せながら言う。
「この通り、アンデッドとそれを発生させる元凶は討伐しました。一先ず脅威は去りましたよ」
「おお! ありがとうございます! あれほどのアンデッドの大群を倒してしまうなんて、腕のよい冒険者に恵まれて幸運でしたよ」
「いえ、逆にアンデッドでよかったですよ。うちの仲間の長所が活かせましたから」
普通のモンスターの群れが相手だったほうが、よっぽど苦戦していただろう。
幸運というのなら、ここに彼女たちがいたことだろうな。
聖なる力を持つ人間が三人も揃っている。
中々ないぞ、こんな幸運は。
皆が勝利の余韻に浸る中、不機嫌な男が一人いる。
「ふんっ! 仲間が優秀だっただけの癖に、何を偉そうにしてるんだか。なぁお前ら」
「「……」」
「おい。無視してんじゃねーよ」
「知らないわよ。私たちのこと見捨てようとした人なんて」
「なっ! あれは仕方がないだろ!」
あっちのパーティーは険悪な雰囲気になっていた。
「やれやれ」