40.君が助けたんだよ
「さぁて、今夜も楽しもうか」
「ダメよ。周りに人がいるわ」
「静かにすればわからないわよ。嫌なら私たちだけで楽しむわ」
「ずるいわよ!」
「喧嘩しない。二人ともちゃんと可愛がって――」
俺は馬車の荷台を隠している幕を上げる。
そこには今からお楽しみの雰囲気たっぷりな男女がいた。
ちょっと申し訳なく思ってしまう。
「おい、なんのつもりだよ、おっさん」
「悪いな。敵が来てる」
「は? そんなもんおっさんたちだけで対処……」
「気づいたか? もう囲まれてる」
気配は四方からする。
しかも十や二十では済まない。
「なんだこれ……アンデッドの群れだと?」
「そうらしい。お楽しみのところ悪いけど戦う準備をしてくれ」
「くっそ、二人とも行くぞ!」
さすがに危険だと理解したのか、男たちも臨戦態勢をとる。
行商人たちも目覚めた。
戦えない者は馬車の中心に集め、できる限り守りやすく陣形を整える。
「この数、異常だよ。近くに墓地でもあるのかな?」
「どうなんですか?」
「い、いや、こんなところでアンデッドなんて聞いたことがないです」
「そうですか」
アンデッドが急に自然発生するとは考えにくい。
「まずは迎撃だ。アナリス、エレン、頼むよ」
「うん!」
「おう! アンデッドなら任せろ!」
アナリスは聖剣を抜き、エレンは聖なる拳を打ち付ける。
アンデッドの弱点は大きく三つ。
一つ、炎による燃焼。
二つ、聖水による弱体化。
三つ、聖なる力による浄化。
この三つの弱点のうち、もっとも効果が高いのは浄化だ。
「危険になったら俺が移動させる。二人とも臆さず行け」
「わかった!」
「おう!」
二人はアンデッドの群れに立ち向かう。
アナリスは剣を振るい、エレンは拳を叩きこむ。
男のパーティーのほうは聖なる力を持っていない。
必然、魔法による攻撃に限定される。
二人の女性は魔法使いだったようだ。
男の剣に炎を付与して戦い、援護している。
「くそっ、アンデッドの群れと遭遇するとかついてなさすぎるだろ!」
「……」
不運?
いや、これは偶然じゃないだろう。
「ねぇライカ、こいつら!」
「ああ」
一向に数が減らない。
どころか、徐々に増えている。
「はぁ……」
「エレンちゃん!」
「平気だ。ちょっと疲れただけ!」
「……」
エリンの表情から歯痒さを感じ取る。
自分も一緒に戦えれば。
そう思っている顔だ。
わかるよ。
俺も昔、同じことを思ったことがあるから。
「きゃあ!」
「っつ!」
男の仲間がアンデッドに傷を負わされてしまった。
アンデッドは傷をつけることで細胞を侵食し、相手をアンデッド化する。
「い、いや! 死体になんかなりたくない!」
「助けて!」
「さ、触るな! 俺にも感染ったらどうするつもりなんだ!」
男は女たちの手を払いのける。
女は絶望し声もでない。
アンデッド化は治癒の魔法では回復させられなかった。
彼らは運がいい。
ここに聖女がいたことを、幸運だと思うべきだ。
「エリン、君の力で彼女たちを」
「は、はい!」
アンデットに対する特効。
聖なる力によって行われる治癒には、アンデッドを退ける力がある。
「主よ。か弱き我らに癒しの輝きを」
「――! 傷が」
「治って……」
「――! 君、聖女だったのか!」
ビクッとするエリン。
彼女を庇うように、俺は前に立つ。
「おっさん……」
「仲間のこと、最後まで責任を持たなきゃダメだぞ」
「っ、うるさいな! ちょっと仲間に恵まれたからって調子に乗るなよ!」
「……ふっ、そうだな。俺は恵まれているよ」
いつだって仲間に助けられている。
だからこそ、彼らが全力で戦えるように、前を向いていられるように。
俺にできることを精一杯やるだけだ。
幸いなことに俺は、仲間の強さを活かす術を持っている。
「ライカ! このままだと押し切られるよ!」
「どうすんだ! おっちゃん!」
「二人はそのまま護衛を継続! おそらく奥にアンデッドを召喚してる奴がいる。そいつを叩く。俺と、エリンで」
「え? わ、私?」
ビックリして目を丸くする彼女に、俺は優しく微笑みかける。
「そう。君の力が必要なんだ。俺一人じゃできないから、力を貸してくれるかい?」
「――はい!」
アンデッドが自然発生するのは、大量の死者があった戦場、もしくは墓地だ。
ここは該当しない。
ならば必然、アンデッドを生み出す何かがある。
近づくほどに気配は強まり、予測は確信へと変わった。
「やはりいたな。リッチー」
「ココマデ、タドリツイタカ」
アンデッドの王、リッチー。
奴の能力ならばアンデッドを無限に召喚できる。
この戦い、リッチーを倒さなければ持久戦で負ける。
「ホメテヤロウ。ダガ、ヒトリデクルトハ、アサハカダ」
「――いいや、一人じゃないぞ?」
「――!」
スキル、軍事領域の発動。
エリンをリッチーの背後に転移させ、その手が触れる。
「浅はかはお前のほうだ」
「主よ、癒しの光を!」
「――ッ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
彼女が持つスキル『治癒の祈り』。
聖剣やエレンの拳と同じく聖なる力を操り、傷や病を癒すことができる。
その性質上、聖なる力は外側ではなく、対象の内側に作用する。
アンデッドにとって聖なる力は猛毒だ。
今、彼女の祈りによって、猛毒がリッチーを苦しめる。
「キサマアアアアアアアアアアアアアアア」
「――! ライカさん?」
「よくやった」
俺は彼女を自分の傍らに移動させた。
共に肩を並べて、浄化の光で燃え上がるリッチーを見つめる。
「クソ、コンナ! アノカタノタメニ、モットシタイヲ」
「あの方?」
リッチーを操る黒幕がいるのか。
やっぱりもう、悪魔以外に考えられないな。
疑問は残るが、ともかくこれで。
「俺たちの勝ちだ。エリン、君がみんなを救ったんだよ?」
「私が……?」
「ああ。これで、助けられてばかり、なんて思わなくもいいだろ?」
「――はい」
かつての俺は、たった一度の勝利に貢献したことで、自分の存在意義を見つけることができた。
きっかけが大事なんだ。
願わくば、この勝利が彼女の前進に繋がりますように。
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