38.おっさんは当たりが厳しい
ひとつ前の街を出発して一日半。
俺たちはラプティスに到着し、冒険者組合の建物を訪れていた。
「これであたしらも冒険者か!」
テンションの高いエレンと、出来立ての冒険者カードを見つめるエリンを微笑ましく眺める。
本当はギルドホームに戻ってからでもよかったが、どうせ冒険者になることは決まっているのだし、先に登録だけしてもいいだろう。
これで二人もクエストを受けることができる。
もっとも、二人とも新人だから一番下のF級からスタートだが。
「ライカ、良さそうなのあったぞ」
「本当か」
「おう。行商人の護衛だ」
クーランたちがクエストボードを確認し戻ってきた。
組合の人に話を聞くと、最近増えている失踪事件によって、こういった護衛のクエストが急増しているらしい。
特に失踪の件数が多いのは、ここラプティスと隣の街、カーランを繋ぐ街道だ。
カーラン行きには二つのルートがある。
どちらも距離は変わらないが、道幅がそれほど広くないこともあり、行商人たちは混雑を避けるために二つのルートに分かれて移動するそうだ。
「どうする? 二手に分かれるか?」
「そのほうがいいんじゃない? どっちに出るか運でしょ?」
「だな。モンスターに遭遇したらプラトの魔法で転移すればいいだろ。頼んだぜ」
「はーい。あれ結構疲れるんだよー」
「じゃあチーム分けか」
人数は七人。
エレンとエリンは二人で一人と考えて……。
「俺とアナリス、それにエレンとエリンだな」
「だよな。んじゃそれで行くか」
「いいわよ」
「えぇー、ボクもライカと一緒がよかったなぁー」
「文句言うな。どうせすぐ合流する」
「はーい」
プラトはちょっぴり不満そうだけど、すぐ了承してくれた。
このチーム分けがベストだと理解しているのだろう。
弱体化しているアナリスは、俺と一緒にいることで以前の戦闘力を発揮できる。
エレンとエリンの聖なる力は、アナリスを補強するのに必要だ。
「ライカ、これ持ってて」
「ああ、ありがとう」
プラトが俺に紫色の結晶を手渡してきた。
これは転移の目印になる魔力結晶だ。
彼女の転移魔法は、自分たちを移動させることはできても、遠くから他人を呼び寄せることはできない。
ただし、目印となる魔力痕跡があれば、一回ならそれが可能になる。
もしもプラトたちのほうにモンスターが現れた場合、この結晶を目印にして、俺たちをプラトの下に転移してもらおう。
クエストを受注した俺たちは、街の出入り口に集合する。
すでに行商人は馬車を用意していた。
俺たち以外にも冒険者が何名か待機している。
今回のクエストは合同だ。
他の冒険者との連携も必要となるだろう。
「それじゃ、また後で」
「おう。気をつけろよ。あと三人分の御守よろしく」
「ちょっとクーラン! なんで私が入ってるのさ!」
「クーラン兄ちゃん! 子供扱いすんなよな!」
「ははっ、反応もそっくりじゃねーか。それじゃなー、あんまライカに迷惑かけんなよー」
クーランたちは手を振り、自分たちが護衛する馬車のほうへと歩いて行く。
プンプン怒るエレンとアナリスを見ながら、本当に御守みたいだなと内心思ってしまった。
「二人が無茶しないよう、俺たちで見張っていないとな」
「え、わ、私ですか?」
「ああ、一緒に頼むよ。俺一人じゃ大変そうだ」
「――はい。頑張りま――」
「おいおい、まさかと思うけど、一緒に護衛する冒険者ってあんたらか?」
エリンの声を遮り、若い剣士風の男が声をかけてくる。
一緒にいるのも若い冒険者で、全員女性だった。
「ああ、よろしく頼むよ」
「……」
挨拶をしようと握手を求める。
しかし俺の手をじっと見て、値踏みするように視線を左右に向ける。
「おっさんに、歳の離れた女が三人……まともなパーティーじゃないな。頼むから足を引っ張らないでくれよ? 特におっさん、弱そうだな」
「ちょっと君! ライカに失礼だろ!」
「そうだぞ! おっちゃんはこう見えて強いんだからな! なんたってゆ――!」
エレンの口を俺はちょっぴり強引に手で塞いだ。
驚くエレンに視線ですまないと伝える。
「あー可哀想。あの子たちおじさんのいいなりみたいよ」
「弱みでも握られてるんじゃないかしら」
「こらこら、勝手な推測はよくないよ。事実だとしてもね」
「……」
この感じだと仲良くはできそうにないな。
「とにかく足を引っ張らないようにしてくれ。邪魔したら許さないから」
そう言い残し、仲間を連れて男は去っていく。
名前すら聞けなかったな。
「なんだよあいつ!」
「酷いよ! ライカのこと馬鹿にして!」
「おっちゃん! なんで言わないんだよ! おっちゃんたちのこと!」
「ここで変な注目は避けたいからな」
勇者パーティーだと言えば、彼らの態度も変わるだろう。
信じてもらえたら……の話だけど。
「大丈夫。おっさんへの当たりが強いのは今に始まったことじゃない」
「……ライカは優しすぎるよ」
「そうか? 厳しいほうだと思うんだけどな」
正直ちょっと心配だ。
何となく、ダインズに似ている気がして。
同じ結末にだけはならないでくれよ。
そう思いながら時間を待つ。






