35.聖なる力の可能性
「話を元に戻してもいいか?」
「おう!」
「はい」
「いいよ!」
「……」
なぜかアナリスまで元気よく返事をして、教えられる側に立っていた。
彼女に指導することは、戦闘面ではないんだが……。
いや、ちょうどいいか。
彼女もいてくれた方が話が早い。
「さっきも言った通り、基本的に危なくなったら逃げること。それを最優先に考えてほしい。逃げられないほど戦力差があるなら、迷わず助けを求めるんだ」
「わかった。おっちゃんを呼ぶ!」
「俺じゃなくてもいいけどね」
「でもさ? だったらあたしたち一緒にいる意味なくない? どうせ戦いになったら逃げないといけないんだろ?」
それはその通りだ。
というか、そもそも同行させる気は最初からなかった。
気が変わったのは、彼女たちに秘められた才能だ。
「そうでもない。二人の力が必要になる機会が来る、かもしれない」
「本当か!? いつ? どこで!」
エレンは目を輝かせながら顔を近づけてくる。
純粋過ぎる視線にたじたじになりながら、俺は説明を続ける。
「具体的にはわからない。君たちの力が、アナリスの助けになるかもしれない」
「え? 私?」
キョトンとした顔で自分を指さすアナリス。
意外だっただろうか。
俺は小さく頷き、双子に視線を戻す。
「君たちはスキルの影響で、その肉体に聖なる力を宿しているね?」
「うん、たぶん?」
「自分ではよく、わからないですけど」
冒険者カードのようにステータスを視覚化できないと、自分で確認するのは難しい。
特に聖なる力は、本来人間には備わっていないパラメーターだ。
それを持つのは一部の限られた人間のみ。
聖女の力を宿す者。
あるいは――聖剣に選ばれし勇者。
「ん? 何?」
「……」
当の本人はキョトンとして、自分と同じ力を彼女たちが持っていると気づいていない。
あるいは意識していないみたいだった。
「聖なる力は、そのパラメーターが存在しないのが普通だ。俺やクーランたちにはない項目だから、俺のスキルでも移動できない。でも君たちは別だ。例えばエレン、君の聖なる力を一時的に、全てエリンに移したとする。そうすることで、彼女の治癒の力が向上する」
「おう、なるほどな! じゃあ逆にあたしに集めたら、あたしのパンチが強くなるのか!」
「そういう使い方もできる。そして二人の力をアナリス、君に移動させれば、弱体化の効果をさらに抑制できるはずだ」
「そうなんだ! 二人とも凄いね!」
凄いのはアナリスも一緒なんだけどね。
まぁ、勇者でもないのに聖なる力を宿していることは、確かに凄いことだ。
もしも勇者の証を二人に渡せば、俺以上に聖剣を使いこなせるだろう。
俺には聖なる力がないから、スキルによって聖剣を使っても、不完全な状態でしか扱えない。
「聖なる力があるってことは、アナリス姉ちゃんも聖女なのか?」
「ううん、私は勇者だよ」
「え? 勇者って、あの勇者!?」
「あれ? ねぇライカ、勇者って他にあるのかな?」
「そういう意味じゃないと思うぞ」
今さらだが、俺たちの素性は語っていなかったな。
二人して大きく目を開けて、驚き固まってしまった。
「二人とも大丈夫?」
「……ほ、本物の勇者?」
「そうだよ?」
「じゃあ……ライカさんたちは……」
「俺たちは勇者パーティだよ。最近再結成したばかりだけどね」
「「――えええええええええええええええええええ!」」
二人の驚きの声が街中に響き渡る、くらい大きかった。
近くで聞いていた俺たちが耳を塞ぐほど。
「ど、どうしたの急に!」
「なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ!」
「え、あ、言ってなかったっけ?」
「知らないよ! エリンは知ってたのか?」
「わ、私も知らなかったよ」
「だよな! ちょっと! ライカのおっちゃん!」
「悪かったよ。伝えるタイミングがなかったというか……聞かれなかったから」
「聞くわけないじゃん! そうだと思わないんだからさ!」
エレンは凄く怒っていた。
というより興奮している様子だったので、とりあえず宥める。
「まぁ確かに、俺みたいなおっさんがいて、普通思わないよな」
「勇者パーティー……やっぱり凄いな!」
「そんなことないよー。えへへ」
「照れてるし」
アナリスは嬉しそうだ。
若い冒険者にとって彼女は憧れの存在だろう。
そんな彼女が目の前にいて、一時的でも一緒に旅をする。
俺がエレンたちの立場ならきっと、毎晩興奮して眠れないな。
「おっちゃんんもすげーんだな! ますます尊敬するよ!」
「――ありがとう」
「照れてる?」
「う、うるさいな」
純粋な好意というのはおっさんの俺には直視できないくら眩しい。
「これからたくさん教えてくれよな! なんでも言ってくれ!」
「わ、私も頑張ります」
果たして、おっさんのキャパシティーで耐えられるだろうか。
元気すぎるのはアナリス一人で十分なんだが……。
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