33.新メンバー加入?
しばらく一緒に母親を探した。
結果的にすぐ見つかった。
母親のほうも探していたらしく、探し始めて十分ほどだ。
少年は嬉しそうに手を振り、母親は何度も頭を下げて別れる。
「見つかってよかったな」
「そうだね。じゃあ宿をさがそっか?」
「ああ」
俺は双子に声をかける。
「行くぞ。エレン、エリン」
「――え!」
「私たちも……いいんですか?」
「ギルド、入るんだろ?」
「いいのか!」
エレンが瞳を輝かせる。
そんなに嬉しいのかと、こっちが照れそうになる。
純粋な眼差しは、おっさんになった俺には眩しすぎる。
「とりあえず仮だ。正式にギルド入りするかは、俺たちが拠点にしてる街へ戻った時に決める。それから、俺たちの指示にはしっかり従うこと。勝手な真似はしないこと。いいな?」
「おう!」
「はい!」
「よし。それが守れるなら認めるよ。レベルは足りないけど、君たちはいいものを持ってる」
弱きを助ける心と、そして特別な力を。
「これからよろしく、二人とも」
「よろしくだぜ! ライカのおっちゃん!」
「よろしくお願いします。ライカさん」
「また賑やかになりそうだね」
まったくだ。
我ながら単純すぎると、自分に呆れてしまう。
◇◇◇
旅は道連れ。
なんて言葉があるらしい。
旅は何が起こるかわからず、出会いもまた一期一会。
ふいに意気投合したり、行く先が同じだったり、様々な理由で仲間や同僚が増える。
勇者パーティーとして旅をしている最中も、途中で知り合った現地の人間としばらく同行したり、道案内を頼んだりしていたことを思い出す。
それでも最後はどこかで別れて、結局残るのはいつもの面子だ。
別に悲しむことじゃないけれど、自然と思っていた。
俺たちはこの先も、仮に旅が続いても、最後までこの五人なのだろう、と。
そんな予感が、外れるかもしれない。
「起きて! 朝だぞ! おっちゃん!」
「エレンちゃん、あんまり揺らすと落っこちちゃうよ?」
「いいんだよ! 寝坊助にはこれくらいで!」
「うおっと!」
布団を引っぺがされてベッドから落下した。
情けない格好をしている俺を、双子の姉妹が見下ろしている。
「やっと起きたな! おっちゃん」
「お、おはようございます」
「……おはよう」
この二人は新しくギルドに加わったメンバー。
乱暴な起こし方をしてニコニコしているほうが、双子の姉のエレンで、申し訳なさそうにしている優しい子が妹のエリン。
二人はまだ冒険者登録をしていないから、正式にギルド入りしたわけじゃない。
この旅が終わるまでは同行させるつもりだ。
今は盗賊を片付けて、街で一夜を明かしたところ。
「もう少し優しく起こしてくれないかな? 腰が痛いんだけど」
「寝坊助が全然起きないから悪いんだ!」
「……他のみんなは?」
「まだ寝てるんじゃない?」
どこが寝坊助なんだ?
俺はゆっくりと姿勢を戻し、ほのかに美味しそうな香りに気付く。
「朝食、作ってくれたのか?」
「おう! あたしとエリンで作ったんだ! 冷める前に食べてくれよ」
「お、お口に合えば、嬉しいです」
なるほど、それで俺より先に起きて準備してくれたわけか。
そういうことなら遠慮なく。
「みんなを起こして一緒に食べようか」
「おう!」
「はい」
一人ずつ起こして、宿屋の共有リビングに移動する。
キッチンも共同だが、今はちょうど俺たち以外の客はいなくて貸し切り状態だった。
テーブルには朝食が並ぶ。
「へぇ、これお前らが作ったのか!」
「料理できたのね」
「まぁな! あたしら両親いなかったし、家事は自分たちでしてたんだよ! 料理は得意だぜ? ま、おっちゃんのほうが上手いけどな」
「ど、どうぞ食べてください」
俺たちは手を合わせて、いただきますと挨拶をする。
一口食べたところで、二人の視線が俺に向いているのに気づいた。
「美味しいよ」
「そっか!」
「よかったです」
嬉しそうで、ホッとしている二人に、少し照れくささを感じる。
クーランが代わりに作ってくれることを除けば、他人の料理を食べる機会は中々珍しい。
しかも一回り以上年下の女の子の手料理とは……。
「しっかし、なんで朝食を作ってくれたんだ? ライカに頼まれたのか?」
「ううん、あたしらが勝手にやった」
「め、迷惑だったでしょうか……」
「いやいや、俺らは全然いいぜ。なぁライカ」
クーランが食べながら俺に会話のバトンを渡す。
それを受け取り、二人に言う。
「そうだな。助かりはするんだけど、いいのか?」
「おう! 雑用でもなんでもするって言ったしな! 好きに使ってくれよ!」
「……そ、そうか」
そういう意味で入れたわけじゃないんだが……。
「おいライカ」
「なんだ?」
「手出すなら責任はとれよ」
「――! するわけないだろ!」
「かっはっはっはっ! だよなぁ、そんな度胸お前にはねーし」
クーランが豪快に笑う。
俺をからかって遊びやがってこいつ……。
「エレン、エリン、クーランの食事は抜きでいいぞ」
「は?」
「え、わかった。おっちゃんが言うならそうする」
「待て待て待て! いいわけねーだろ!」
俺のことをからかった罰だ。
一回り以上歳の離れた女の子に、おっさんの俺が手を出すとかありえないだろ。
まず第一、この子たちが俺に対してそういう気を起こすはずもない。
ありえないことは想像するだけ無駄だ。
「いいか? 俺が彼女たちを許したのは、冒険者としての将来性を感じたからだ。それ以上でも以下でもない」
「わかってるって。やけに否定するじゃねーか」
「お前が変なこと言うからだろ」
「ははーん、さてはお前、意識してるんじゃ」
「一週間お前は雑草でも食ってろ」
「それは勘弁してくれ!」






