32.弟子になりたいそうです
後日談になるだろうか。
盗賊のアジトは一つではなかったらしく、俺たちは一つずつ潰して行った。
ボスを捕えた時点で、彼らが悪魔とは無関係だと分かったけれど、悪者を見過ごすこともできない俺たちは、丸一日かけて盗賊退治に勤しんだ。
捕まえた盗賊たちはひとまとめにして、近くの街に移動させた。
捕らえられていた人たちは、それぞれの村へと帰された。
全部プラトが魔法で転移してくれたからよかったが、彼女には無理をさせてしまった。
俺のスキルとは違い、遠方への移動もできるのだが、その分魔力の消費が激しく気軽には使えない。
盗賊たちの輸送、村人たちを村に返す際に何度も使って、魔力は空っぽになった。
今は疲れてぐっすり眠っている。
俺の背中で。
「スピー」
「気持ちよさそうだね、プラト」
「一番頑張ってもらったからな」
「そうだね! 今夜はしっかり休んで、明日出発しようよ!」
「ああ」
盗賊退治ですっかり時間を使ってしまった俺たちは、近隣の街で一休みすることにした。
今から今夜の宿を探すところなのだが……。
一つ問題がある。
それは俺たちの背後を、二つの影がついてくることだ。
俺は振り返る。
「いつまでついてくる気なんだ?」
「あたしたちを弟子にしてくれるまで!」
「……まだ諦めてなかったのか」
俺は小さくため息をこぼす。
なぜか知らないが、俺の弟子になりたいそうだ。
その場でしっかり断ったはずなんだが……。
◆◆◆
「弟子?」
「そう! 弟子にしてほしい! あたしとエリンも!」
「お、お願いします……」
「……いや、なんで?」
率直に疑問だった。
俺がいるのは勇者パーティーだ。
文字通り勇者がいるし、それに並ぶ歴戦の戦士が揃っている。
その中で俺は一番パッとしない。
見た目も、やっていることも端からはわかりにくい。
みんなの戦闘は、ここへたどり着くまでに見ているはずだ。
憧れたり弟子になりたいなら、俺以外の誰かだろう。
少なくとも俺ならそうする。
「そんなの決まってる! おっちゃんが一番格好良かったから!」
「――! そ、そうか」
何ともストレートな理由だな。
思わず動揺してしまった。
隣でアナリスがクスッと笑う。
「よかったね。私もライカが一番格好いいと思ってるよ?」
「……お、おう」
アナリスまでそんなことを言い出す。
なんと返せばいいのか迷っていると、エレンが俺の前まで駆け寄って、俺の手を握ってきた。
「頼むよおっちゃん! さっきの動きもすごかったし、他のみんなに指示出したり、冷静に状況見てるところも格好良かった!」
「あ、ありがとう」
思った以上にしっかり見てくれていたらしい。
その場のノリかと思ったら、ちゃんと根拠まで口にしてくれた。
悪い気はしない。
しないのだが……。
「すまないけど、弟子とかとってないんだ」
「えぇ! じゃあおっちゃんのギルドに入れてくれよ!」
初めて会って夕食を取っている時、俺たちが冒険者で、同じギルドのメンバーであることは伝えてあった。
何気なく教えたが、後になって後悔することになろうとは……。
「ダメだ。君たちのレベルじゃ、俺たちと一緒の旅は危険すぎる」
「足手まといにはならないようにする! 雑用でも荷物持ちでもするからさ! ほら、エリンもお願いしろって!」
「え、あの、はい! お願いします!」
「……」
二人して深々と頭を下げる。
そこへクーランとシスティーが合流し、倒れた盗賊たちをまとめていたアナリスもやってきた。
三人が目にしたのは、二人の女の子に頭を下げられているおっさんの図。
「なんだこの状況」
「事案かしら」
「弱みを握って好き放題?」
「そんなわけあるか!」
◆◆◆
「何度も言ってるけど、弟子とか取る気はないし、ギルドも入れるつもりはないよ」
「諦めないからな! 認めてもらうまでついてく!」
「お前らなぁ……」
と言いながら、本当にここまでついてきてしまったわけだ。
どうしたものかと悩んでいると、暢気にクーランは呟く。
「結構根性あるじゃねーか。俺は気に入ったけどな」
「私も別に反対じゃないわよ。若い子入れるのも」
「スピー」
「ライカ次第だよ。私も、ライカが決めたことならいいと思う」
みんな最終的な判断はいつも通り俺に任せるようだ。
一人は寝ているけど。
俺は目を瞑り、彼女たちに教える。
「別に、俺たちじゃなくてもギルドはたくさんある。焦って決めなくても――」
「ライカ、目の前にいないよ」
「え?」
目を開けたら目の前から消えていた。
どこに行ったかと思ったら、すぐそこの道端に向かっている。
彼女たちの前には泣いている少年がいた。
「痛いよー。お母さーん」
「大丈夫か? 怪我してるんだな。この姉ちゃんが治してくれるぞ?」
「怪我を見せてくれますか?」
「うん」
擦りむいた膝をエリンがスキルで治療する。
すっかり綺麗に治った膝を見て、少年は驚いていた。
「すごーい!」
「これでもう平気だな!」
「うん! あ、でもお母さんが……」
「はぐれたのか?」
少年は頷く。
痛みはなくなったのに、また泣きそうになる少年にエレンはやれやれと首を振る。
「しょうがないな。あたしらも一緒に探してやるよ」
「本当?」
「うん。一緒に探しましょう」
「ありがとう! お姉ちゃんたち!」
双子は少年の手を引き、一緒に母親を探し始める。
その様子を見ながら、ふと思ってしまった。
「似てるね? 誰かさんに」
「――!」
アナリスが隣で呟いた。
彼女は覚えているらしい。
ちょうど十年ほど前、同じようなことがあった。
その時に声をかけたのは、俺とアナリスだったことを。
困っている人を放っておけない。
その精神はまさしく、勇者と同じ思考だ。
「俺らも手伝ってやろうぜ!」
「そうね」