31.一件落着?
盗賊団は人攫いもしていた。
貴族への奴隷として販売するのが目的であり、狙っているのも若い女の子のみ。
売り飛ばすため、商品として扱うため、ある意味命は守られている。
手足を縛られた人々の前に、三人が姿を現す。
「もう大丈夫だぜ。今解放してやるからな」
「エリン、こっちの人、怪我をしているわ。お願いできる?」
「は、はい!」
クーランとシスティーが拘束を解き、負傷者の元へエリンが歩み寄る。
傷を確認してから、彼女は膝を突き、両手を顔の前で組む。
「主よ、か弱き我らに癒しの祝福を」
双子の妹エリンの第一スキル『癒しの祈り』。
その名の通り、祈ることで癒しの力を与えることができる。
聖なる光に照らされて、傷はあっという間に治癒した。
「ど、どうでしょうか……」
「凄い。痛みがなくなりました。ありがとうございます」
「ど、どういたしまして」
人見知りでオドオドしながらも、感謝されて頬を赤くするエリン。
そんな彼女にクーランがお願いする。
「エリン、こっちも頼む!」
「はい!」
三人は手分けして捕まっていた人たちを手当てし、解放していく。
祈りを捧げながら、エリンは不安そうに呟く。
「エレンちゃん……」
「心配いらねーよ。あいつらがついてる」
「ええ、傷一つなく帰ってくることを保証するわ」
「……はい」
それでも心配な様子を見せるエリン。
クーランとシスティーは顔を見合わせ小さく頷く。
「治療はこれで全部だ」
「あとは私たちに任せて。気になるなら見に行くといいわ」
「――あ、ありがとうございます!」
エリンは大きくお辞儀をして、急いでエレンたちの元へ走り去っていく。
その様子を見ていた二人は、呆れて笑う。
「仲のいい姉妹だな」
「そうね」
急いで駆けるエリン。
たどり着き見た先で、思わぬ光景を目にする。
それは、エレンの拳が盗賊のボスの鳩尾に叩き込まれる瞬間。
つまり、勝利の時。
「エレンちゃん――」
◇◇◇
後ろで声がして、振り返る。
そこにいたのは双子の妹、エリンのほうだ。
エレンも遅れて気づく。
「エリン! 見ろ! 勝ったぞ!」
「う、うん!」
エリンは慌てて姉の元へと駆け寄る。
どうやら彼女一人、先にこっちへ向かわせたようだ。
心配していたのだろう。
二人が気を利かせてくれたに違いない。
「そっちはもういいのか?」
「うん。エレンちゃんは? 怪我はしてない?」
「おう! 見ての通り無傷だ!」
「よかったぁ」
安堵するエリンと、勝利の余韻でニコニコなエレン。
二人を見ていると何だかほっこりする。
アナリスも同じ気持ちのようだ。
「素敵な姉妹だね。羨ましいくらい」
「そうだな」
微笑ましい光景に安堵する。
そう、一瞬だけ気を抜いてしまった。
この場の全員が。
「――く、そがああああああああああああああ!」
「「――!」」
決着はついた。
しかしまだ、男は完全に倒れたわけではなかったらしい。
盗賊のボスは砕けた大剣の破片を素手で掴み、血を流しながら二人に襲い掛かる。
二人とも完全に気を抜き、逃げることはできない。
俺たちから距離も離れている。
今から駆け出してもギリギリ間に合わない絶妙な距離だった。
「エレンちゃん!」
「――っ、エリン!」
姉が妹を守るように前に立つ。
命の危機に瀕したとき、人の本性は暴かれるというが、この姉妹は本当に綺麗だな。
「ライカ!」
「――ああ」
俺なら間に合う。
第二スキル『軍事領域』は、発動直後は周囲の状況を把握するため、移動可能になるために数秒のラグが生じる。
ただし、俺の視界内にあるものと、自分自身の位置を入れ替えるだけなら、発動直後でも使用可能だ。
「――え?」
二人は呆気にとられる。
俺と彼女たち二人の位置が入れ替わり、今にも襲われそうになっている俺を、彼女たちは見ていた。
振り下ろされる刃。
ステータスはすでに、元の状態に戻っている。
この程度の速度はたやすく見切り、腕を払って胸に肘を入れ、頭の位置が下がったところで、思いっきり拳を叩きこんだ。
「ご、え……」
「これ以上の悪事は許さない。しっかり牢屋で反省するんだな」
今度こそ、フリでもなんでもなく気絶したことを確認する。
動けないように手足を縛り、他の盗賊たちとひとまとめにしておく。
後でプラトに移動してもらおう。
「さてと、クーランたちと合流するか」
「そうだね!」
「すげぇ……」
「ん?」
視線を感じた。
最近になって街でよく感じるのと同種の……そう、憧れの視線だ。
振り向くと、エレンがキラキラした瞳で俺を見ていた。
「おっちゃん、マジでスゲーんだな。あたしのことも勝たせてくれたし、自分で戦っても強いとかすげーよ!」
「え、ああ、ありがとう」
なんか照れるな。
「えへへ、よかったね!」
隣でアナリスもなぜか嬉しそうだった。
まるで自分のことのように笑顔だ。
つられるように、俺も笑みがこぼれる。
「あのさ! ライカのおっちゃん! 頼みたいことがあるんだけど!」
「なんだ?」
エレンは妹のエリンと視線を合わせる。
言葉を交わさず、視線だけで何かを伝え合っているようだった。
俺たちにはわからない。
けど、エリンはわかったらしい。
彼女は軽く頷いていた。
そして改めて俺のほうを向き、エレンは叫ぶように言う。
「あたしらのこと、弟子にしてくれ!」
「――へ?」






