29.似てない双子
「この子たちも、盗賊?」
「いや、たぶん人攫いにあった子供たちなんだけど……」
まさか盗賊の仲間だと勘違いされている?
「覚悟しろよ、おっさん!」
「――! ま、待ってエレンちゃん! この人たち、違うよ!」
「え? 何がだよ」
「ほら、見て! 盗賊……倒してくれてる」
怯えながらもう一人の女の子が指をさす。
気絶してロープで縛られた男たちを。
ようやく敵ではないことに気付いてくれたらしい。
男勝りな女の子は、衝撃を受けたような表情で、ゆっくり俺のほうを見る。
「もしかして……助けてくれた?」
「そうだよ」
「ご、ごめんなさい」
意外にも、ちゃんと謝罪ができる子みたいだ。
少し安心して、俺は立ち上がる。
「君たち、この辺りの村の子供かな? 帰る場所がわかるなら送っていくよ」
「いや、えっと……」
返答に困る男勝りな女の子。
何か訳ありか、と思ったところで、二人のお腹がぐーっと鳴り響く。
「あ、違う。これはその……」
「ぅ~」
「はははっ、まずは一緒に夕飯でも食べるか」
話は食べながら、ゆっくり聞くとしよう。
◇◇◇
「美味いな! これ全部おっちゃんが作ったのか?」
「おっちゃんじゃなくてライカだ」
「ライカのおっちゃん! 見かけによらず料理上手いんだな!」
「……もういいよ」
おっさん呼びは何度かあるが、おっちゃんは初めて呼ばれたな。
なぜだろう?
意味は同じはずなのに、おっちゃんのほうがダメージが大きい気がする。
俺は小さくため息をこぼす。
この元気よく夕食を頬張っているのが、双子の姉エレン。
隣で申し訳なさそうにしているのが、妹のエリン。
「遠慮せずに食べていいぞ」
「は、はい。ありがとうございます」
「早く食べろよエリン! 普通に美味いぞ!」
「エレンちゃんはもっと遠慮しようよ」
「見た目は似てるのに性格は正反対な双子だな」
クーランが呆れてそう呟いた。
話を聞く限り、二人とも近くの村出身というわけではなく、こことは別の村から旅に出たらしい。
年齢は二人とも十五歳になったばかりだとか。
それにしては二人とも発育が……とか、考えてしまうのがおっさん臭い原因だな。
「なんで二人は旅をしてるんだ?」
「そんなもん決まってる! 冒険者になるためだ!」
「わ、私たち、冒険者登録ができる街を探していたんです」
「その途中で盗賊に捕まったと」
「ちょっと油断しただけだ! あいつらいい気になりやがってぇ」
エレンは悔しそうに歯を食いしばる。
姉のほうは好戦的で、妹のほうは臆病な性格らしい。
クーランの言った通り正反対な二人だな。
「なんで冒険者に?」
「あたしたちを捨てた親を探すためだ」
捨てられた、だって?
言いづらそうに、エリンが続きを語る。
「私たち、小さい頃に両親がいなくなって、村の人に育てて貰ったんです。村の人たちは優しくて、冒険者になることも反対していたんですけど……」
「我慢できなかったんだよ! あたしらを捨てた親を探して、一発ぶん殴ってやりたいんだ! そんでちゃんと謝って、もう一度……」
その先のセリフは聞こえなかった。
けれど、弱々しく俯くエレンを見て感じる。
腹が立つと同時に、寂しいのだろう。
子供にとって親は精神的な支えであり、幼い頃の目標であり、何よりかけがえのない家族だから。
クーランがぶっきらぼうに尋ねる。
「だからってなんで冒険者なんだ? 他にもあるだろ」
「冒険者になって有名なれば、向こうから見つけやすくなるだろ? それに金を貰いながらいろんなとこに行けるしな! ちょっと憧れもあった」
「わ、私はエレンがやるなら……」
「なるほどな。ま、それで盗賊に捕まってちゃおしまいだがな」
クーランの意地悪なセリフに、エレンがムスッとする。
「ちょっと油断しただけだって! 次は負けねーよ!」
「そうか? 俺には返り討ちに会う未来が見えるけどなぁ」
「なんだとぉー!」
「や、やめてよエレンちゃん!」
「ちょっと、大人気ないわよ、クーラン」
「悪い悪い。反応が面白いからついな」
軽く謝るクーランに、エレンはぷいっとそっぽを向く。
気持ちはわかるが、やり返すのは難しいだろう。
さっきシェアリングでステータスを確認したが、二人ともレベル30になったばかりだ。
盗賊たちは確実にそれ以上のレベルがある。
クーランの言う通り、返り討ちに会うだろう。
ただ、二人とも持っている第一スキルは特別だ。
「二人とも聖女なんだな」
「え!」
「なんで知ってるんですか?」
驚いた二人がこっちを向く。
「すまないな。ステータスを覗かせてもらった。祈り系のスキルは珍しいから、つい聞いてみたくなったんだよ」
祈り系統のスキルは、聖女になる資格を持った者が獲得する。
世界でもごく少数しか生まれない特異な存在だ。
種類にもよるが、その効果は魔王を含む悪魔にも特効を持つ。
アナリスの聖剣と同質の力を、スキルが有している。
王都に一人いるのは知っているが、それ以外では初めて見たな。
「珍しいスキルだ。でも、レベル30じゃ盗賊たちには勝てないかな?」
「なんだよ。おっちゃんまでそう言うのか」
「あったりめーだろ! 誰だってそう思う。つーか、自分が一番わかってんだろ?」
「……」
エレンは口を噤む。
無鉄砲ではなく、実力差も内心では理解しているのだろう。
彼女は悔しそうに唇を噛みしめる。
「けど、お前らは運がいいな」
「え?」
「だろ? ライカ」
「……そうだな」
確かに運はいい。
ここに偶然通りかかったのは、何かの運命かもしれない。
俺は彼女たちに尋ねる。
「一緒に悪者退治に行こうか?」






