27.出会いの予感
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部屋を移動して俺たちは腰をおろす。
対面にはディレンさんが座り、彼は最初に深々と頭を下げる。
「改めて感謝を申し上げます。この街を救って頂きありがとうございました」
「気にしないで下さい。俺たちは役割を果たしただけです」
「そうだよ! 他のみんなも頑張ってくれたから、みんなの勝利だよ!」
「そうですね。戦闘に参加してくださった皆様にも感謝しています。その中でも一番、あなた方に感謝しています。ここに皆様がいてくれたことが何よりの幸運でした」
ディレンさんは改めて深く頭を下げて、ゆっくりと顔を上げる。
感謝されるために戦ったわけじゃないけれど、その言葉を聞くと嬉しい気分になる。
前置きが終わり、本題に入る。
俺たちが呼び出されたのは、感謝を伝えるためだけではない。
「あのモンスターの件ですが、ライカ君、君が言っていた通りかもしれません」
「じゃあやっぱり」
「はい。ダインズ君、彼のギルドは王都を出発後、行方が分からなくなっています」
「そうですか……」
俺たちが相対した未確認モンスター、その正体はダインズだ。
スキルによって開かれたステータスはごまかせない。
姿形が変わろうとも、あれは間違いなくダインズのものだった。
戦っている最中は半信半疑だったが、冷静になり分析して一つの結論へと至る。
「狂気のグラーノ。人間をモンスターに変える実験をしていたのは、あのイカレた悪魔だけだった」
「信じられないよ。確かに倒したはずなのに」
「生きてたのか。それとも生き返ったのか。どっちにしろ俺らの不始末に違いねーな」
「ええ、もしグラーノが暗躍しているなら放置はできないわ」
「グラーノが生存していたなら、他の悪魔も生きてるかもしれませんねー」
プラトが欠伸をしながらそう言った。
考えたくはないが、その可能性も考慮しなくてはならない。
特に魔王軍の幹部だった六体。
確実に倒し、消滅まで見届けたはずのグラーノが生存しているとすれば……。
「我々のほうで調査をしましたが、王都周辺の街道で、通行人や冒険者が不自然に失踪する事件が多発しているそうです。ダインズ君たちがそうなのだとしたら……」
「グラーノが実験のために人間を攫っている可能性がある、ということですか」
「はい。王都に限らず広範囲で同様の事件が起こっております」
「俺らで調査したほうがよさそうだな。どう思うよ? ライカ」
「うん……」
グラーノが生存し暗躍しているのなら放置はできない。
勇者パーティーとして、過去の失敗は清算するべきだろう。
心配なのはアナリスだ。
弱体化した今の状態で、グラーノとの戦闘を無事に切り抜けられるかどうか。
今以上に俺たちも頑張らないといけないな。
「調査には行こう。実際に見て確かめたほうが早い」
「決まりだな。いつ行く?」
「早い方がいい。今日中に出発しよう」
「ライカは大丈夫なの?」
アナリスが心配そうに俺を見つめる。
彼女は俺の体力のことを気にしてくれているみたいだ。
「大丈夫。体力は回復済みだ」
「それならいいけど」
「本当に心配ない」
本当はまだ完全回復はしていないけど。
それでもみんなよりは多い。
戦闘に支障はないだろう。
「行こう。やり残したことを清算しに」
「うん! そうだね! 勇者パーティー出動だー!」
彼女は大きく高々と拳を突き上げる。
やっぱり彼女は落ち込んでいる姿より、前向きで明るいほうがいい。
見ているこっちも元気になる。
「よろしくお願いします。無事を祈っております」
「はい」
こうして、俺たちは調査のため、しばらく旅をすることになった。
この旅路で新しい出会いが待っていることを、俺たちはまだ知らない。
◇◇◇
とある山荘にて、屈強な男たちが徘徊している。
男たちは武装していた。
騎士や兵士ではない。
彼らは盗賊集団の下っ端たちである。
「今回も大量だったな」
「だな。しけた村ばっかりだが、意外と溜め込んでやがる。結構いい狩場だったぜ。それに……」
男たちはニヤリと笑みを浮かべ、拘束された二人の少女に視線を向ける。
美しい金色の髪と青い瞳。
髪の長さが異なるが、その容姿は特別似ている。
片方は怯え、もう一人は睨んでいた。
「なんだその反抗的な目は? また痛い目を見せてやろうか?」
「ぅー!」
怯えているほうが必死に首を振る。
しかしもう一人は未だ睨み続け、怯える彼女を庇うように身を乗り出していた。
盗賊の男は睨む彼女に近づき、首を掴む。
「――ん!」
「調子に乗ってんじゃねーぞ? 何なら今ここで体に教え込んでやろうか?」
「……」
「やめとけ。その二人は商品だ。見た目も歳も悪くねぇ。貴族が高値で買ってくれるぜ」
「けっ! 一、二回使用済みでもバレやしねーだろ」
男は彼女を放ち、突き飛ばして転ばせる。
口を布で塞がれているから、満足に声を出すこともできない。
げほっ、げほっと咳をすることすら難しかった。
「そこもオプションだ。新品のほうが高く売れるんだよ。変態のマニアには特にな」
「貴族のボンボンが考えそうなことだぜ。腹立つな」
「そういうな。俺たちにも大金を払ってくれる太客様だぞ? 今後も仲良くしてこーや。というか今の話、絶対ボスたちの前でするんじゃねーぞ?」
「わかってるって。ボスの機嫌をそこねて殺されたくねーからな」
やれやれと男は首を振る。
彼らはあくまで下っ端盗賊に過ぎない。
小さくため息をこぼし、二人の少女に言い放つ。
「せいぜい楽しみにしとけよ? 変態な貴族様の玩具にされるまで、あと少しだからな」
「「……」」






